お前、名前はなんて言うんだ?
ルシファー生誕特別版2021【完結】
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――時は遡り。
「……それで、私は何をすればいいの?」
メゾン煉獄で私は姿勢を改め、前のめりになる。
「君にはルシファーを部屋の入口まで案内してもらった後、少しの間だけ人間界にいてほしいんだ」
ソロモンはアンゲロスティーの香りを楽しむように鼻に近づけた。
「に、人間界に?!」
つい大声が出てしまい、はっと口元を押さえる。
「君がいた元の場所に、とも考えたんだけど。君が危ない目に遭わないよう、こちらとも繋がりのある人間がいる場所のほうがいいかと思ってね」
シメオンが説明しながら私のティーカップをちらりと見たあと、近くにあったティーポットを手に取る。
私は慌ててティーカップを寄せ、ありがとうと呟くと、そのままシメオンに上目遣いに問い直す。
「……ここと、繋がりのある人間なんていたっけ?」
「あはは。まぁ、繋がりといってもクリストファー・ピジオンとの繋がりだけど」
シメオンが淹れ終わると、軽く指で顔をなぞり、困った顔をした。
「クリストファー・ピジオン……て、シメオンの人間界での名前だよね?」
レヴィが大好きな七王を執筆しているシメオンが、身元を隠すために使用しているペンネームのことだ。
恐らく人間界でこの名を口に出せば、誰もが知っているであろうビッグな著名人である。
「この計画を話した時に、シメオンが提案してくれてね。ピジオン先生と深く繋がりがある編集部に、頼りがいがあって魔力も高い人がいるそうだよ」
ソロモンが視線をシメオンに移す。
「魔力の高い人間……その人も魔界にいたことがあるの?」
私はふと思った疑問を口に出す。
「いや、彼は普通の人間だよ。人間の中にも、遺伝的に魔力が強い人もいて、君がいる日本だと『霊感が強い』とか、神に仕えている人がそれにあたることが多いかな」
シメオンはソロモンのティーカップにも淹れると、キッチンに少し移動し、そのまま甘い香りのするカゴを運んできた。
カゴを覗くと、人間界にあるマカロンに似た、色とりどりのかわいらしいお菓子が入っていた。
「これは?」
「ルークがさっき気合を入れて作ってみた試作のお菓子なんだって。良ければ感想を聞かせてくれないかい?」
「うわぁ!いいの? 美味しそう!!」
つい嬉しくなり、一つ桃色のお菓子を取り出してかじりつく。
「んぅー! すっごく品の良い甘さ! 病みつきになりそう!」
たまらず、もう一口かじっているとシメオンがとても嬉しそうに顔をほころばせた。
「そうか、よかった。美香夜の今の感想を伝えたら、きっとルークは飛び上がって喜ぶだろうな」
「そういえば、ルークは?」
「隠し事を付き合わせるのは可哀そうだから、バルバトスにお菓子作りをルークに教えてもらうようお願いしたんだ。今頃一緒に作っているんじゃないかな」
シメオンにお菓子を促され、ソロモンも頂きます、と深緑色のお菓子を手に取る。
「そっか……。ルークはすぐ顔に出ちゃうもんね」
「仲間外れにされた、と思わせたくなかったんだけど、それよりも嘘を吐かせるほうがつらいかなって思って」
シメオンが悲しげに呟く。
その姿が子の幸せを強く想う親のように見えて、心が温かくなる。
と、ふと私は脱線してしまった事に気付き、慌ててソロモンに聞き直す。
「ご、ごめんソロモン! 脱線しすぎた!」
「気にしないで。そんなかしこまった話でもないし。むしろ和んだよ。ありがとう」
そう優しく返してくれると、ソロモンは改めて私を見る。
「それで、その人と少しの間一緒に行動してほしいんだ」
「行動?」
「あぁ。せっかくだから、息抜きに観光だと思って楽しんできてくれ」
観光……。
ルシファーのことを思うと、街を楽しめるだろうか……。
私の不安そうな顔を察してか、ソロモンがわざと調子を明るくする。
「安心して。必ず、ルシファーと一緒に迎えに行くから」
その一言を聞いて、彼を信じたい気持ちがより一層高まる。
「……うん!」
「よし、じゃあルシファーの誕生日当日まで、連絡を待っていてくれ」
その後、宣言よりも1日早く私のD.D.D.にソロモンから連絡があった。
『サプライズを用意している部屋があるだろう? そこに当日、ルシファーを入口まで案内して、別れる前にルシファーにこう伝えてくれ』
スライドしてその言葉を読む。
「……これを伝えると、ルシファーに暗示がかかるんだ……」
どんな暗示なのか、内容まで伝えられなかったが、これも計画に必要な一部らしい。
「……そういえば、ルシファーにプレゼントしようとしていたもの、いつ渡そうかな……」
なるべく誕生日当日まで接触を控えてほしいとソロモンに言われていたため、プレゼントを買ったはいいものの、渡すタイミングが計れずにいた。
「……いや、やると決めたんだから、最後までやり通さないと!」
私はパンパン、と気合を入れるように顔を手のひらでたたくと、忘れないようその言葉を繰り返した。
――誕生日当日。
コンコン、とルシファーの部屋の扉をノックする。
「誰だ」
厳しそうな口調なのに、優しい声。
大好きな、声。
「美香夜だけど、ルシファーに一緒に来てほしいところがあるの」
私が大きな声で話すと、静かに扉が開いた。
「なんだ、美香夜か。 ……ソワソワしてどうした。俺に会えたのがそんなに嬉しいのか?」
二人きりで話すのは数日ぶりだったので、ただ話すだけでもドキドキしてしまう。
ルシファーもどこかソワソワしているように見えるのも、私の気のせい、かな。
「う、嬉しいよ!じゃ、じゃなくて! そうやってすぐからかうんだから! ほら、一緒に来て!」
顔が熱くなっているのを感じながら、私はルシファーの腕を引っ張る。
「おいおい。俺はどこにも逃げないぞ」
赤くなってる顔を見られたくなくてルシファーの表情が見れないが、意地悪を含んだ優しい声色が聞こえてくる。
そうこうしているうちに、ガヤガヤとにぎやかな部屋の前に着く。
何かに気付いたのか、ルシファーは軽くため息を吐いた。
「……はぁ。やっと二人きりになれたかと思ったのにな。なんならこのまま、俺の部屋にでも戻ろうか」
冗談めかして軽く私の腕を引く。
「わっ」
そしてそのまま態勢の崩れた私をそっと抱きしめてくれた。
「る、るしふぁ……」
「おまえが俺のそばに来ないから、ここ数日間おまえが足りなくて仕方がなかったんだ。こうしてもいいだろう」
ぎゅっ、とさらに強く抱きしめられる。
あまりにも近すぎる距離に、私の心音が伝わりそうで、さらに顔に熱が集まる。
「あ、あの……誰かに見られたら、恥ずかしいから……も、もういいかな」
「少し黙れ」
「んっ」
強制的に顎を上向かせられ、そのままキスを落とされる。
時間が止まったかのように、唇を何度も噛まれ、思考が停止する。
「……やっと静かになったな」
触れているかわからないくらいの力で、壊れそうなものを大切に扱うかのように私の頬をなでる。
その長く細い指先の感触が、心地よくて愛おしさを感じる。
「……悔しいけど、嬉しかった」
恥ずかしくて俯く。
ふふ、と笑う声が聞こえ、頭にぽんぽん、と柔らかく温かい感触があたる。
「俺もだ。ただ、これ以上続けると止まらなくなりそうだからな。これで今は勘弁してやる」
頭を撫でられ、私は照れ隠しで小さく反撃する。
「……子供じゃないんですけど」
「こんな色気のある子供がいてたまるか」
綺麗な顔をくしゃくしゃにして、大好きな彼は笑った。
「じゃあ、扉を開けるよ!」
中の人たちにも聞こえるよう、大きな声を出す。
「あ、そうだ」
ふと、ソロモンに教えられた言葉を思い出す。
「ルシファー」
「なんだ」
不思議そうに私を見るルシファー。
私はズキ、と痛む心を無理やり押し込める。
「『私を忘れないで』」
私はそのままルシファーの顔を見ず、勢いよく扉を開けた。
――ルシファーを部屋に入れた後、私は中に入らず、扉を閉める。
そして、バルバトスに教えてもらった場所へと向かった。
「ルシファー……必ず、迎えに来てね」
綺麗な包装紙は誰にも見られることがなく、その輝きが少し色褪せて見えた。
「……それで、私は何をすればいいの?」
メゾン煉獄で私は姿勢を改め、前のめりになる。
「君にはルシファーを部屋の入口まで案内してもらった後、少しの間だけ人間界にいてほしいんだ」
ソロモンはアンゲロスティーの香りを楽しむように鼻に近づけた。
「に、人間界に?!」
つい大声が出てしまい、はっと口元を押さえる。
「君がいた元の場所に、とも考えたんだけど。君が危ない目に遭わないよう、こちらとも繋がりのある人間がいる場所のほうがいいかと思ってね」
シメオンが説明しながら私のティーカップをちらりと見たあと、近くにあったティーポットを手に取る。
私は慌ててティーカップを寄せ、ありがとうと呟くと、そのままシメオンに上目遣いに問い直す。
「……ここと、繋がりのある人間なんていたっけ?」
「あはは。まぁ、繋がりといってもクリストファー・ピジオンとの繋がりだけど」
シメオンが淹れ終わると、軽く指で顔をなぞり、困った顔をした。
「クリストファー・ピジオン……て、シメオンの人間界での名前だよね?」
レヴィが大好きな七王を執筆しているシメオンが、身元を隠すために使用しているペンネームのことだ。
恐らく人間界でこの名を口に出せば、誰もが知っているであろうビッグな著名人である。
「この計画を話した時に、シメオンが提案してくれてね。ピジオン先生と深く繋がりがある編集部に、頼りがいがあって魔力も高い人がいるそうだよ」
ソロモンが視線をシメオンに移す。
「魔力の高い人間……その人も魔界にいたことがあるの?」
私はふと思った疑問を口に出す。
「いや、彼は普通の人間だよ。人間の中にも、遺伝的に魔力が強い人もいて、君がいる日本だと『霊感が強い』とか、神に仕えている人がそれにあたることが多いかな」
シメオンはソロモンのティーカップにも淹れると、キッチンに少し移動し、そのまま甘い香りのするカゴを運んできた。
カゴを覗くと、人間界にあるマカロンに似た、色とりどりのかわいらしいお菓子が入っていた。
「これは?」
「ルークがさっき気合を入れて作ってみた試作のお菓子なんだって。良ければ感想を聞かせてくれないかい?」
「うわぁ!いいの? 美味しそう!!」
つい嬉しくなり、一つ桃色のお菓子を取り出してかじりつく。
「んぅー! すっごく品の良い甘さ! 病みつきになりそう!」
たまらず、もう一口かじっているとシメオンがとても嬉しそうに顔をほころばせた。
「そうか、よかった。美香夜の今の感想を伝えたら、きっとルークは飛び上がって喜ぶだろうな」
「そういえば、ルークは?」
「隠し事を付き合わせるのは可哀そうだから、バルバトスにお菓子作りをルークに教えてもらうようお願いしたんだ。今頃一緒に作っているんじゃないかな」
シメオンにお菓子を促され、ソロモンも頂きます、と深緑色のお菓子を手に取る。
「そっか……。ルークはすぐ顔に出ちゃうもんね」
「仲間外れにされた、と思わせたくなかったんだけど、それよりも嘘を吐かせるほうがつらいかなって思って」
シメオンが悲しげに呟く。
その姿が子の幸せを強く想う親のように見えて、心が温かくなる。
と、ふと私は脱線してしまった事に気付き、慌ててソロモンに聞き直す。
「ご、ごめんソロモン! 脱線しすぎた!」
「気にしないで。そんなかしこまった話でもないし。むしろ和んだよ。ありがとう」
そう優しく返してくれると、ソロモンは改めて私を見る。
「それで、その人と少しの間一緒に行動してほしいんだ」
「行動?」
「あぁ。せっかくだから、息抜きに観光だと思って楽しんできてくれ」
観光……。
ルシファーのことを思うと、街を楽しめるだろうか……。
私の不安そうな顔を察してか、ソロモンがわざと調子を明るくする。
「安心して。必ず、ルシファーと一緒に迎えに行くから」
その一言を聞いて、彼を信じたい気持ちがより一層高まる。
「……うん!」
「よし、じゃあルシファーの誕生日当日まで、連絡を待っていてくれ」
その後、宣言よりも1日早く私のD.D.D.にソロモンから連絡があった。
『サプライズを用意している部屋があるだろう? そこに当日、ルシファーを入口まで案内して、別れる前にルシファーにこう伝えてくれ』
スライドしてその言葉を読む。
「……これを伝えると、ルシファーに暗示がかかるんだ……」
どんな暗示なのか、内容まで伝えられなかったが、これも計画に必要な一部らしい。
「……そういえば、ルシファーにプレゼントしようとしていたもの、いつ渡そうかな……」
なるべく誕生日当日まで接触を控えてほしいとソロモンに言われていたため、プレゼントを買ったはいいものの、渡すタイミングが計れずにいた。
「……いや、やると決めたんだから、最後までやり通さないと!」
私はパンパン、と気合を入れるように顔を手のひらでたたくと、忘れないようその言葉を繰り返した。
――誕生日当日。
コンコン、とルシファーの部屋の扉をノックする。
「誰だ」
厳しそうな口調なのに、優しい声。
大好きな、声。
「美香夜だけど、ルシファーに一緒に来てほしいところがあるの」
私が大きな声で話すと、静かに扉が開いた。
「なんだ、美香夜か。 ……ソワソワしてどうした。俺に会えたのがそんなに嬉しいのか?」
二人きりで話すのは数日ぶりだったので、ただ話すだけでもドキドキしてしまう。
ルシファーもどこかソワソワしているように見えるのも、私の気のせい、かな。
「う、嬉しいよ!じゃ、じゃなくて! そうやってすぐからかうんだから! ほら、一緒に来て!」
顔が熱くなっているのを感じながら、私はルシファーの腕を引っ張る。
「おいおい。俺はどこにも逃げないぞ」
赤くなってる顔を見られたくなくてルシファーの表情が見れないが、意地悪を含んだ優しい声色が聞こえてくる。
そうこうしているうちに、ガヤガヤとにぎやかな部屋の前に着く。
何かに気付いたのか、ルシファーは軽くため息を吐いた。
「……はぁ。やっと二人きりになれたかと思ったのにな。なんならこのまま、俺の部屋にでも戻ろうか」
冗談めかして軽く私の腕を引く。
「わっ」
そしてそのまま態勢の崩れた私をそっと抱きしめてくれた。
「る、るしふぁ……」
「おまえが俺のそばに来ないから、ここ数日間おまえが足りなくて仕方がなかったんだ。こうしてもいいだろう」
ぎゅっ、とさらに強く抱きしめられる。
あまりにも近すぎる距離に、私の心音が伝わりそうで、さらに顔に熱が集まる。
「あ、あの……誰かに見られたら、恥ずかしいから……も、もういいかな」
「少し黙れ」
「んっ」
強制的に顎を上向かせられ、そのままキスを落とされる。
時間が止まったかのように、唇を何度も噛まれ、思考が停止する。
「……やっと静かになったな」
触れているかわからないくらいの力で、壊れそうなものを大切に扱うかのように私の頬をなでる。
その長く細い指先の感触が、心地よくて愛おしさを感じる。
「……悔しいけど、嬉しかった」
恥ずかしくて俯く。
ふふ、と笑う声が聞こえ、頭にぽんぽん、と柔らかく温かい感触があたる。
「俺もだ。ただ、これ以上続けると止まらなくなりそうだからな。これで今は勘弁してやる」
頭を撫でられ、私は照れ隠しで小さく反撃する。
「……子供じゃないんですけど」
「こんな色気のある子供がいてたまるか」
綺麗な顔をくしゃくしゃにして、大好きな彼は笑った。
「じゃあ、扉を開けるよ!」
中の人たちにも聞こえるよう、大きな声を出す。
「あ、そうだ」
ふと、ソロモンに教えられた言葉を思い出す。
「ルシファー」
「なんだ」
不思議そうに私を見るルシファー。
私はズキ、と痛む心を無理やり押し込める。
「『私を忘れないで』」
私はそのままルシファーの顔を見ず、勢いよく扉を開けた。
――ルシファーを部屋に入れた後、私は中に入らず、扉を閉める。
そして、バルバトスに教えてもらった場所へと向かった。
「ルシファー……必ず、迎えに来てね」
綺麗な包装紙は誰にも見られることがなく、その輝きが少し色褪せて見えた。