お前、名前はなんて言うんだ?
ルシファー生誕特別版2021【完結】
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「……」
ぴく、と指が動く。
「おや、お目覚めですか」
バルバトスはいつもと変わらぬ調子で声を掛け、ルシファーの額に当てていた手を外した。
「……ひどい目覚めだ」
「そうでしょうね」
ルシファーはちらりとバルバトスを横目で見たあと、虚ろな目で部屋の天井を見つめた。
しばらくの沈黙のあと、ルシファーが弱々しい声で尋ねる。
「……この件、ディアボロには」
「報告いたしませんでした」
コポポポポ、と水差しからコップへ黒い液体が注がれる。
「……そうか」
ルシファーが気だるげに右腕を上げ、そのまま両目に乗せる。
「もちろん、ルシファーのためではございませんよ」
コトン、と小さな丸テーブルに置かれたコップから、排気ガスのような灰色の煙が立っている。
「……だろうな」
「今回の件、彼女に借りができましたね」
「借り……か」
しん、と静まり返る部屋には妙な緊張感が流れていた。
「ご存知のとおり、坊ちゃまは留学生を迎えられるにあたって、他の界へは干渉しないと誓われました」
ルシファーの隣にしゃがみ込み、上体を起こすよう促す。
「支配が目的ではないと、その決意表明のために」
バルバトスに体を起こしてもらいながら、ゆっくりと上体を起こす。
「いかなる理由でも、統治している界以外に口を挟めば、留学生も人質扱いされますから」
「……俺も散々その話は聞かされたよ」
「ですが」
両手をだらんとベッドに預け、俯くルシファーの顔に並々注がれたコップを差し出す。
「あなたはそれを無下にした。一歩違えば、人間界と魔界の全面戦争でした」
「……」
ルシファーは無言で差し出されたコップを受け取り、一気に飲み干す。
「坊ちゃまに真相をお伝えすれば、その崇高な思想に影を差すことになります」
バルバトスがコップを受け取る。
「魔界を統べるものは、崇高であらねばならない。それが、いかなる理由でも」
バルバトスの魔力が明らかに全身に張り巡らされるのがわかる。
「彼を殺すつもりだったのでしょう。彼女のために」
「……」
またルシファーは力なく俯く。
「……なぁ、バルバトス」
濡れたカラスの翼のような、艷やかな髪を乱暴にかき上げる。
「俺がここに来た理由を覚えているか」
バルバトスが訝しげに眉をひそめるも、「ええ」と相槌を打つ。
「あれから、かなりの年月が経った。飽きるほど長く、永く……」
そしてはぁ、とため息をつく。
「ここに染まり、日々に染まり、薄れると思ってたんだ。俺というものが」
だがな、と言葉を区切るルシファーに対し、何かに気付いたバルバトスが少し身構える。
「俺はやはり、あそこにいた頃と変わっていないらしい」
大きく風を切る音とともに、部屋に黒い羽根が次々と舞い降りる。
禍々しい、太く黒い頭の角。
血よりも生々しく、薔薇のように蠱惑的 な紅い瞳。
威嚇するかのように、ルシファーは顔に細く長い指をあて、その指の隙間からバルバトスを捉える。
「俺は、同じ過ちを2度も犯す気はない。
たとえそれが、てめぇらを敵に回すことになっても、な」
コンコン。
はっ、と全員が音のする方を見やる。
「お待たせしました」
静かに扉を開けて入ってきたのは、いつもと変わらないバルバトスだった。
「ルシファーは?!」
私は殴りかかるかのようにバルバトスへ駆け寄り、必死にその名を呼ぶ。
私の行動を皮切りに、ほかのメンバーも次々と質問を投げかける。
バルバトスはその様に呆れた顔を見せ、ふぅ、とため息をついた。
「皆様。心中はお察ししますが、少し落ち着かれてはどうですか」
そして私の頭を撫で、にこりと微笑む。
「問題ありません。魂に損傷もなく、魔力も戻られました」
その言葉に、全員が一瞬息を呑む。
「……っなんだよ! 悪魔騒がせな奴だな!!」
マモンが力なくベッドに倒れ込み、大きな声で文句を言う。
それをきっかけに凍った空気が溶け出し、一気に安堵の声が漏れる。
「も〜……変にストレスかかっちゃって、お肌荒れちゃうとこだったぁ〜」
「……腹、減ったな」
「まったく!! 悪魔ってやつは!! まぁ、僕は心配してなかったけどな!!」
「さすがルーシーだよ。そうでなくっちゃ」
矢継ぎ早に漏れる声に、私の緊張感もプツンと切れ、膝から崩れ落ちる。
「美香夜!」
バルバトスが咄嗟 に体を支えてくれる。
「よか……た……」
自分でも驚くくらい声は震え、心臓が待っていた頃よりもさらに鼓動が早くなっている感覚がする。
未だにカタカタと震える肩を、無意識に自分で抱きしめていた。
「美香夜。そんなに怖いのなら、ご自分で確かめられたらどうですか」
バルバトスは力の抜けた私を優しく立たせ、頭を撫でてくれた。
「えっ……」
「ルシファーに直接、あなたの想いをお伝えされればよろしいのでは、と申し上げたのです」
そのまま私の手のひらを広げ、年季の入ってそうな鍵を乗せる。
「先程運んだ部屋にいます。今回だけ、特別に入室を許可しましょう」
私は意味をすぐに飲み込めず、鍵とバルバトスを見比べる。
次第に理解した私は、鍵をぎゅっと握りしめ、部屋を飛び出した。
ぴく、と指が動く。
「おや、お目覚めですか」
バルバトスはいつもと変わらぬ調子で声を掛け、ルシファーの額に当てていた手を外した。
「……ひどい目覚めだ」
「そうでしょうね」
ルシファーはちらりとバルバトスを横目で見たあと、虚ろな目で部屋の天井を見つめた。
しばらくの沈黙のあと、ルシファーが弱々しい声で尋ねる。
「……この件、ディアボロには」
「報告いたしませんでした」
コポポポポ、と水差しからコップへ黒い液体が注がれる。
「……そうか」
ルシファーが気だるげに右腕を上げ、そのまま両目に乗せる。
「もちろん、ルシファーのためではございませんよ」
コトン、と小さな丸テーブルに置かれたコップから、排気ガスのような灰色の煙が立っている。
「……だろうな」
「今回の件、彼女に借りができましたね」
「借り……か」
しん、と静まり返る部屋には妙な緊張感が流れていた。
「ご存知のとおり、坊ちゃまは留学生を迎えられるにあたって、他の界へは干渉しないと誓われました」
ルシファーの隣にしゃがみ込み、上体を起こすよう促す。
「支配が目的ではないと、その決意表明のために」
バルバトスに体を起こしてもらいながら、ゆっくりと上体を起こす。
「いかなる理由でも、統治している界以外に口を挟めば、留学生も人質扱いされますから」
「……俺も散々その話は聞かされたよ」
「ですが」
両手をだらんとベッドに預け、俯くルシファーの顔に並々注がれたコップを差し出す。
「あなたはそれを無下にした。一歩違えば、人間界と魔界の全面戦争でした」
「……」
ルシファーは無言で差し出されたコップを受け取り、一気に飲み干す。
「坊ちゃまに真相をお伝えすれば、その崇高な思想に影を差すことになります」
バルバトスがコップを受け取る。
「魔界を統べるものは、崇高であらねばならない。それが、いかなる理由でも」
バルバトスの魔力が明らかに全身に張り巡らされるのがわかる。
「彼を殺すつもりだったのでしょう。彼女のために」
「……」
またルシファーは力なく俯く。
「……なぁ、バルバトス」
濡れたカラスの翼のような、艷やかな髪を乱暴にかき上げる。
「俺がここに来た理由を覚えているか」
バルバトスが訝しげに眉をひそめるも、「ええ」と相槌を打つ。
「あれから、かなりの年月が経った。飽きるほど長く、永く……」
そしてはぁ、とため息をつく。
「ここに染まり、日々に染まり、薄れると思ってたんだ。俺というものが」
だがな、と言葉を区切るルシファーに対し、何かに気付いたバルバトスが少し身構える。
「俺はやはり、あそこにいた頃と変わっていないらしい」
大きく風を切る音とともに、部屋に黒い羽根が次々と舞い降りる。
禍々しい、太く黒い頭の角。
血よりも生々しく、薔薇のように
威嚇するかのように、ルシファーは顔に細く長い指をあて、その指の隙間からバルバトスを捉える。
「俺は、同じ過ちを2度も犯す気はない。
たとえそれが、てめぇらを敵に回すことになっても、な」
コンコン。
はっ、と全員が音のする方を見やる。
「お待たせしました」
静かに扉を開けて入ってきたのは、いつもと変わらないバルバトスだった。
「ルシファーは?!」
私は殴りかかるかのようにバルバトスへ駆け寄り、必死にその名を呼ぶ。
私の行動を皮切りに、ほかのメンバーも次々と質問を投げかける。
バルバトスはその様に呆れた顔を見せ、ふぅ、とため息をついた。
「皆様。心中はお察ししますが、少し落ち着かれてはどうですか」
そして私の頭を撫で、にこりと微笑む。
「問題ありません。魂に損傷もなく、魔力も戻られました」
その言葉に、全員が一瞬息を呑む。
「……っなんだよ! 悪魔騒がせな奴だな!!」
マモンが力なくベッドに倒れ込み、大きな声で文句を言う。
それをきっかけに凍った空気が溶け出し、一気に安堵の声が漏れる。
「も〜……変にストレスかかっちゃって、お肌荒れちゃうとこだったぁ〜」
「……腹、減ったな」
「まったく!! 悪魔ってやつは!! まぁ、僕は心配してなかったけどな!!」
「さすがルーシーだよ。そうでなくっちゃ」
矢継ぎ早に漏れる声に、私の緊張感もプツンと切れ、膝から崩れ落ちる。
「美香夜!」
バルバトスが
「よか……た……」
自分でも驚くくらい声は震え、心臓が待っていた頃よりもさらに鼓動が早くなっている感覚がする。
未だにカタカタと震える肩を、無意識に自分で抱きしめていた。
「美香夜。そんなに怖いのなら、ご自分で確かめられたらどうですか」
バルバトスは力の抜けた私を優しく立たせ、頭を撫でてくれた。
「えっ……」
「ルシファーに直接、あなたの想いをお伝えされればよろしいのでは、と申し上げたのです」
そのまま私の手のひらを広げ、年季の入ってそうな鍵を乗せる。
「先程運んだ部屋にいます。今回だけ、特別に入室を許可しましょう」
私は意味をすぐに飲み込めず、鍵とバルバトスを見比べる。
次第に理解した私は、鍵をぎゅっと握りしめ、部屋を飛び出した。