お前、名前はなんて言うんだ?
夢の始まり
「お前の名前は?」
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「……どこへ行く」
今まで見ていた景色が一転、まるで絵画のような端正な顔立ちが私の視界いっぱいに広がっていた。
心臓を鷲掴みされそうな強い眼差しに、息を呑む。
透き通るような白い肌に映えるように、頬は赤く染まっていた。
「……えー……と」
混乱する頭で、それでも必死に考える。
現状を把握しようと体を起こそうとするも、何かしらの強い力で押さえ込まれ動けない。
その先に視線をやると、腕に跡が残るんじゃないかと思うくらい、ぎゅっとルシファーが押さえつけていた。
今度は足を動かそうと試みるも、私の太腿にがっちりとルシファーが体重を乗せており、びくともしない。
完全に、無防備な状態。
「……あれ、もしかして、ヤバイ……?」
サーッと血の気が引く音が聞こえてくるくらい、頭が真っ白になった。
「る、ルシファーさぁ〜ん……」
目で訴えかけるも、反応がない。
その瞳は私を映しているのに、私ではない遠くの何かを強く捉えていた。
「…なぁ」
ルシファーが重く口を開く。
「俺は、兄弟たちが幸せであれば、それでいいんだ」
静寂の中に、心地いい重低音が鼓膜に響く。
「俺のせいで、兄弟たちは堕ちることになった」
心地いいのに。
「俺に付いてきたばっかりに」
なぜか。
「俺のせいなんだ……」
私の頬を、温かい雫が流れる。
気づいたら、私は静かに泣いていた。
まるで、泣けない彼の分を引き受けるように。
私の様子には気づかず、長い睫毛を伏せるルシファー。
「だから……俺の幸せは、兄弟たちを幸せにすることなんだ」
だったら。
そういうのなら。
なんでそんな辛そうな顔をするの。
「ルシファー」
ゆっくりと、その名を呼ぶ。
彼はまだ、戻ってこない。
私は繰り返し彼を呼ぶ。
「ルシファー。私を見て」
ルシファーが、『私』を捉える。
「ルシファー。事情も知らない私だけど、だからこそ気づくこともあるの」
ひと呼吸置いて、大事に大事に伝える、素直な想い。
「兄弟たちは、今も幸せそうだよ」
ルシファーの紅い瞳が揺れる。
腕の力が緩んだことに気づき、そっと自身の腕を抜く。
そのまま、ルシファーの頭を自分へと引き寄せた。
「ルシファー。私は、ルシファーも幸せになるべきだと思うよ」
赤子を宥めるように、ぽんぽん、と頭を撫でる。
ルシファーはされるがままになっていた。
どんな表情をしているかは分からないが、なんだか心を許してくれている気がした。
「悪魔だろうが、天使だろうが、人間だろうが。
そんなの、関係ない。みんな、幸せになっていいんだよ。求めていいんだよ」
普段表に出さない分、ずっと抱え込んできた闇。
誰に許しを乞う事もできない、重たい十字架を背負う彼にも。
今だけは、ありのままの彼の居場所となりたかった。
「……俺の、幸せ……」
少し経ってから、ぽつりとルシファーが呟いた。
「俺の幸せって……なんだろうな……」
はっと息を吐く様子から、自嘲しているように思えた。
「……だが」
甘えるように私に頭を押し付ける。
「今は、幸せ……かもしれない」
ぶわっと、私の全身が痺れていく。
ルシファーの感覚と、私の感覚が共鳴しているかのように。
一夜の、夢かもしれない。
この感覚も、この幸せも、きっと、お酒のせいだ。