お前、名前はなんて言うんだ?
夢の始まり
「お前の名前は?」
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「る、ルシファー……?」
洋風の趣があるテーブルに突っ伏すルシファー。
うつ伏せでもわかるくらい、耳まで真っ赤になっている。
「ルシファーぁ、大丈夫?」
軽く腕を揺すってみるも、返事がない。
私は近くにある時計に目を移した。
ルシファーとの飲み比べを始めてから、もう五時間が経とうとしていた。
「……きっっつ!」
芳醇な甘い香りに誘われてグラスに口をつけると、消毒液かと思うくらい、鼻まで抜けるようなアルコールらしきものが襲い掛かってきた。
「…これ、結構強いお酒だね…」
「ほう?これくらいで強いとは…これは俺が勝つのも目に見えているな」
ルシファーは美味しそうにグラスのそれを飲み干すと、私に挑発的な視線を送ってきた。
「くっ……こ、この程度なんてことないし!!」
まんまと煽りに乗せられ、グラスに残ったすべてを喉に流し込む。
クラっとしたが、気のせいだと自分に言い聞かせる。
以前、地獄亭で飲んだデモナスは人間界のノンアルコールと同じくらい、何杯飲んでも全く平気だった。
一緒に飲んでいたアスモは潰れていたので、ノンアルコールではないはずだ。
「ほう?その殊勝な意気込みも滑稽なピエロにならなければいいな」
さらに煽りながらも、慣れた手つきでルシファーは2つのグラスに並々と注いでいった。
「……なんか、いつにも増して意地悪じゃない?」
「そうか?いつもどおりだがな」
ゆっくりと、誘うように瞳を私に向ける。
紅い宝石の中に、二人の私が映りこむ。
そしてふっと目を細めると、
「だが、俺が意地悪に感じるのなら、お前に心当たりがあるからじゃないか?」
「うっ……」
私の心にクリーンヒット。
他の兄弟たちには勝てても、ルシファーに言い合いで勝てたことはない。
「ルシファー……さっきの、気にしてる?」
恐る恐る、表情を伺う。
ルシファーはグラスを見つめたまま、表情を変える様子はない。
「さっきって、なんのことだ?」
「……ベールとの、その……」
悪いことをしたわけでもないのに、変な罪悪感からうまく言葉が出ない。
私が言い淀んでいると、ルシファーは「ああ」とグラスを高く持ち上げ、楽しそうに液体をゆっくり回す。
「ベールと抱き合っていたことか?そのことなら気にしていない。むしろ、俺のほうが邪魔してしまって悪かったな」
言葉とは裏腹に、楽しそうに口元を歪めている。
液体は舞踏会を楽しむ貴族のように、ゆったりと踊っている。
時折、その中に情けなく縮こまる私が映る。
……なんとなく。
この男、無自覚に荒れている。
「……ああもう!!」
この進展しなさそうな展開や、うじうじしている自分が嫌になり、貰ったお酒をまたもや一気に流し込む。
じりじりと、喉や胃に熱いものが流れ込み、少し痛みすら感じるが、それが何故か私に気合を入れてくれた。
「ルシファー!!」
私は立ち上がり、グラスをルシファーに向ける。
「この勝負、絶対に負けない!」
ルシファーは少し驚いて私に目を向けるも、すぐグラスに戻す。
「そうか」
「だから!」
食い気味に言葉を遮る私。
「私が勝ったら、さっきのことは忘れること!!」
ドン!とグラスをテーブルに…置くふりをして、静かにグラスを置く。
勢いでやりそうになったが、さすがに高そうなので気後れしてしまった。
「別に気にも留めてないが…そうだな……なら」
ルシファーも飲み干す。
今度は私がボトルを手に取り、ルシファーのグラスから順に注いでいった。
ボトルから滝のように注がれる様を見つめながら、呟くようにルシファーが言う。
「俺が勝ったら、何でも言うことを聞け」
顎を手の甲に乗せて寛ぎながらも、強い命令口調だった。
「……な、なんでも?」
「そうだ」
こちらを見ないが、言葉には有無を言わせぬ圧力があった。
こうなったら、後には引けない。
「……分かった」
私は地獄亭で飲んだものと同じくらいでありますようにと願いながら、胸焼けしそうな液体を喉にまた流し込んだ。
……そんな、お互いに牽制しつつ、他愛もない話をしていたら、
いつの間にかボトルも底をつき、時間もいい頃合いになっていた。
「ルーシファー……」
五分前くらいに、完全に赤ら顔になったルシファーが何かぶつぶつ呟きながらテーブルに突っ伏して以来、一向に顔を上げる様子がない。
「これは私が勝ちってことでいいかな」
悔しそうな顔が見れないことを少し残念に思いながらも、後片付けをしようと立ち上がる。
「……えっ」
立ち上がろうとしたら、ぐっと下に引き寄せられた。
その原因を辿ると、ルシファーがうつ伏せのまま私の袖を強く引っ張っていた。
「あれ、ルシファー起きたの?」
ルシファーに近づき、声をかけようとしたとき。
景色が突然反転した。