お前、名前はなんて言うんだ?
夢の始まり
「お前の名前は?」
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「し、失礼しまぁ~す……」
「何をそんなに緊張している」
本棚に囲まれているのに、狭さを感じない、シンプルかつ綺麗な部屋に恐る恐る足を踏み入れる。
広々としているが、逆を言えば生活感を感じさせない。冷たい部屋。
辺りを見回すと、部屋の奥に空洞があった。
ただ、その先は真っ暗でなにも見えない。
「あの奥に、俺の書斎がある。いつもは勝手に入れないようにしているんだが……今日は、特別だ」
そう言うと、つかつかとほの暗い空洞の中に進んでいく。
私も慌てて、そのあとを追いかけた。
「……どうして書斎を隠してるの?」
少し歩いてから、ふと疑問が湧く。
ルシファーは振り向かず、「ああ」と言い、
「バカなコソ泥対策だ」
と答えると、少し肩を竦めてみせた。
一瞬分からなかったが、ある一人の男の顔がすぐさま過る。
「マモンか……」
「ご名答」
くくっとルシファーは楽しそうに笑った。
「ここだ」
突然止まったので、ビックリして様子を伺うと、ルシファーが顎で先を促す。
恐る恐る前に出てみると、そこには広々としたまさに「大人」の落ち着いた雰囲気の部屋があった。
クラシックで品よく統一された調度品や、装飾……眠くなりそうな暖かな揺らぎの暖炉、そして座り心地が良さそうなふかふかなソファ。
「お、お洒落……」
「おきに召してもらったか?」
つい零れた言葉に、ルシファーは口元を緩ませると、私の背中を優しく押してソファにかけるよう勧めてくれた。
「お、お邪魔しまぁ〜す…」
ほかの兄弟の部屋とは違って、なんだか緊張する。
飲み頃になったホットミルクを一口のみ、コトン、と目の前のテーブルに置いた。
ルシファーもコップをテーブルに置くと、私の隣にさも当然かのように座った。
……ルシファーと体が密接していて、余計に落ち着かない……。
「あ、あの!ソファ、もっと空いてるけど、狭くない?」
心臓の音が聞こえてしまいそうで、声で誤魔化そうと発するも、少し上ずってしまう。
今ので絶対緊張してるの、バレた……。
「なんだ、俺の隣は嫌なのか?」
ルシファーが自然と顔を近付けてくる。
赤くなった顔を見られたくなくて、ぐるんと顔を背ける。
「い、いやいや!そ、そんなんじゃないけど!!」
そして、話題を変えようと部屋を慌てて見渡したとき、パッと年季の入っていそうなボトルが目につく。
見た目はまるで、人間界のワインボトルみたいだ。
「そ、そういえば、ルシファーって、お酒とかよく嗜むの?」
連想したものから、適当に思い付いたことを喋ると、私の視線の先に気付いたのか、またも「ああ」と曖昧な返事をすると、急に立ち上がった。
「ほっ……」
やっと体が離れ、ガチガチに緊張した体が少しほぐれる。
でも、なんだかもったいないような、寂しいような…自分でも感じたことのない感覚も入り交じる。
「~って、私なに考えてるの……!!」
気付いてしまうと、また恥ずかしさが込み上げてしまい、頭を抱える。
コトンコトンコトン、とガラスが何かにぶつかるような音がした。
「どうした?具合でも悪いか?」
ハッと顔を上げると、ルビーのような輝きを放つ瞳が、心配そうにこちらを見つめていた。
「ふぇ?!あ、ご、ごめん!!大丈夫!!」
慌てて両手を顔の前で振り、元気そうに振る舞う。
「そうか。なら良かった」
その様子に優しく微笑んでくれた後、慣れた手つきでボトルを開栓し、いつの間にか用意された細長いお洒落なグラスに注いでいく。
暖炉の炎に照らされているせいか、ボトルから注がれる液体は、血のように生々しく、少し恐ろしさを感じた。
…本当に、何かの血だったら、どうしよう…。
「アスモに聞いたぞ?お酒、強いそうだな」
注ぎ終えたグラスを私に差し出し、にやりと不敵に笑う。
「今夜は俺とお前、どちらが強いか、勝負しよう」