お前、名前はなんて言うんだ?
夢の始まり
「お前の名前は?」
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「はぁ~……。 気持ちよかった」
シャワーでさっと流し、普段着に着替える。
魔界に来て一番嬉しかったのは、人間界と同じくシャワーと浴室が付いていることだった。
嘆きの館がもともと人間界にあったこともあり、住み心地に抵抗はさほどなかった。
「……さて、食堂に行きますか」
まるで決戦に挑むがごとく、ごくりと喉を鳴らして食堂という戦場へと足を運んだ。
食堂へと向かう途中、辺りをきょろきょろと探しているベールが向かい側からやってきた。
不安そうな顔をしながら行く先々の部屋を覗いていたが、私に気づくと、とても嬉しそうな顔で小走りしてきた。
「美香夜。 姿が見えなくて探したぞ。 大丈夫か?」
「ルシファーと館の掃除してたら、全身汚れまみれになっちゃって……。 先にお風呂入ってたの」
「なるほど。 だからお前から良い香りがするんだな。 なんだかウマそうな匂いだ」
「……え。 ちょ、ちょい待ち! シャンプーの匂いだから! 私を食べないでよ?!」
よだれを垂らすベールに慌てて注意したところで、ふと思い出す。
「あ、そういやベールがここにいるってことは、もうみんな食事終えたの?」
「そうだ。 だが、ルシファーとお前の姿が無くて、みんなで心配してたんだ。アスモからうっすら話は聞いてはいたがな」
ベールの表情から、本当に心配してくれていたのが伝わる。
感情表現をストレートに出せるところも、言葉の端々から心配してくれるのがわかるのも、ベールの素敵なところだと思う。
「心配してくれてありがとう! ルシファーは入浴前に分かれちゃったから、どこに行ったのかはわからないんだけど……」
自然とルシファーの部屋に目を向ける。
ここからだと、部屋にいるのかもわからない。
「あ、ところで、私の食事って残ってる?」
ベールに目線を戻すと、その言葉にどんどん顔を曇らせていく。
「……わるい。 ウマそうだったから……」
「あー……。
そうだよね。
ううん、気にしないで!料理は美味しいうちに食べないと、作ってくれたアスモに申し訳ないしね!」
「美香夜……。
お前、いいやつだな」
一転、ベールの顔が霧が晴れたかのような晴れ晴れとした表情になる。
「はは、そうかな?
ベールだから、かもれない」
「……ん?どういうことだ?」
訳がわからない、といった表情で、ベールが首を傾げる。
「ベールが屈託なく話してくれるから、私も優しくなれるというか……」
改めて、ベールの西日のような、心穏やかになる橙色の瞳を真っ直ぐ見つめる。
「ベールは太陽みたいだから、私も心がポカポカになるのです!」
「……」
ベールが私の表情を見たまま、固まる。
その変化に、冷水を浴びたかのように急に冷静になった私は、自分が何を言っているのかわからず慌てふためく。
「ご、ごめん! 急に何を言い出してるんだろう……。
どうしてご飯の話からこんなことを……。
と、というか意味がわからないよね?! ごめん!!」
「…くく」
情けなくわたわたしていると、ベールが硬直した表情から一転、今度は噴き出して笑った。
「え?!」
「あははは! いやなに、悪魔に対して「温かくなる」なんて、本当に面白いやつだな、と思って」
ベールがお腹を押さえて笑っている。
「お前はいつも笑わせてくれるな。
人間にとって俺たちは、ただ「怖い」という感情しかないと思っていた。
変わってるな、お前」
「そ、そんなに変わってるかな
私が腕を組んで考え込んでいると、ベールがわしゃわしゃと私の髪を撫でる。
まるで、子犬をなだめるかのように。
「あぁ。 変わっていて、それでいてお前と話しているといつも満たされる」
そしてそのまま大きな手に引き寄せられ、急に全身が温かいものに包まれた。
「?!」
頭までがっちりベールの体と密着している。
この態勢……端から見ても……。
「…べ、べ、べ?!」
「…驚かせてすまない。 だが、なんだか、こうしたくなった」
少し体を離すと、そのままベールが切なそうな表情で、私の顔を手のひらで包む。
顔にかかった髪の毛を払うベールの指の感触が、私の全身を麻痺させていく。
「あ、い、いや、その、た、確かにびっくりした……けど……」
さらに、ゆっくりと、その指が私の唇まで降りてきて。
時間をかけて、丁寧に、優しくなぞっていく。
私のすべての意識が、指先の感触を追っていき……。
「ほう? お前ら、そんな仲だったのか」