お前、名前はなんて言うんだ?
夢の始まり
「お前の名前は?」
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「…うぁぁぁあああ。疲れたぁぁぁ」
あれからどのくらいの時間が経っただろうか。
「なんだ。もうへばったのか?あれだけ豪語しておきながら」
「…ルシファーお兄様がスパルタすぎて…過労死してしまいます…」
ルシファーのスパルタは大掃除でも変わらなかった。
想像を遥かに超える抜かりなさが、思ったより私の体をぼろぼろにしていた。
「大体…私が窓のサッシを掃除した後に、指で拭って「まだこんなに汚れているぞ。どこを掃除したんだ?」とか言うし、竹箒で掃いた廊下をチェックしては四隅の汚れを見つけて「こんなところも見えないとは…お前の目は節穴か?」とか…。
どこぞの小姑ばりの執拗さなの…」
「それだけペラペラしゃべれるんだから、まだ働けるな」
真似を交えて零した愚痴に、容赦ない言葉が突き付けられる。
「うっ……。 お兄様…厳しすぎませんか……」
「お前が甘いんだ。やるなら徹底的に。 大体、お前が一緒にやると言い始めたんだろう」
「……ぐうの音も出ません」
へなへなとその場に体育座りして座り込むと、何やら遠くから声が聞こえてきた。
遠くからでもわかるこの甘い匂い…アスモデウスだ。
「あ!いた、2人とも!
て、なんて格好してるの……」
扉の隙間から可愛く顔を覗かせたアスモだが、私たちの格好をみた途端、ドン引きした表情を見せた。
「うっわぁ……なにそのだっさい格好〜〜!
しかも二人ともすす汚れててちょー汚い…」
アスモは考えられない、といったばかりに両手で自分の体を抱きしめた。
「ちょっとぉ、ルシファー!
美香夜に何させてるの?!
美香夜のぴちぴちの手足に少しでも傷がついたり、汚れが付いたら許さないんだからね?!」
「あ、ち、違うのアスモ…」
「確かにな。 気を付けよう。 ところでアスモ、何の用だ?」
漫画の効果音が背景に出てきそうな、ぷんぷんといった様子で怒るアスモに、ルシファーはさも気にせず、アスモに言葉を返す。
「あ、そうそう! 今日は僕が食事当番で、夕食ができたから声掛けに来たんだけど……」
「え?! もうそんな時間?!」
私は夕飯の言葉にびっくりして、近くの時計を見る。
するとどうやら集中しすぎていて、あっという間に夕飯の時間まで経過していたようだ。
「しまった……。
でもこんな汚れた体で行きたくもないし…」
見れば、貰ったばかりの割烹着も、手指も真黒く汚れていた。
「あ、じゃあじゃあ、僕が美香夜を洗ってあげようか?」
喜々とした声がすぐ近くに聞こえたので顔を上げると、眼前にアスモの顔が広がった。
「?!?!」
「ふふ。 やだなぁ。 急に僕の美しい顔を見てびっくりしちゃった? なかなかないよ? 僕の顔のアップが見れるなんて」
アスモが嬉しそうにもっと顔を近づけてくるので、私は反射的に顔をのけぞらせた。
嫌ではないのだが、さすがに、緊張する……。
「あっれー? どうしたの? もしかして、ドキドキさせすぎちゃったかな?」
今にも互いの唇が触れそうで、さらに体が硬直する。
「アスモ、それぐらいにしとけ」
ルシファーが少し怒気の混じった声でアスモを制すると、そのまま襟元を乱暴に鷲掴みし、ずるずると後ろに引き離す。
「ちょっとぉ! 急にやめてよ!!
せっかくのかわいい僕のスタイルが崩れちゃう!」
「はぁ……。 くだらん。
それより、用が済んだのなら早く戻らないと、ベールに食い尽くされるぞ」
いつの間にか割烹着を脱いだルシファーは、促すように時計に視線を移す。
「ああー! まずい!
じゃあ2人とも、早く来てよね!」
釣られて視線を移したアスモは現状を理解したのか、慌てて食堂へと向かう。
と、ふと足を止めて私の方へ顔を向ける。
「あ、美香夜!」
「え、なに?」
「今度一緒に、お風呂、入ろうね?」
色っぽい仕草で人差し指を口元に当て、ウィンク。
そして「じゃねー」と走り去って行った。
「……さすが色欲」
ふぅ、と強張った体が緩むのを感じる。
そしてルシファーに向き直り、割烹着を脱ぎながら笑いかける。
「私はお風呂入ってから行くね」
「構わないが……夕飯は諦めるのか」
「そうだね……」
数時間であっても、かなりの運動量だったのか、もうお腹はペコペコだった。
しかし、普段綺麗に見えていたこの館も、倉庫や使われていない部屋はかなり汚れており、私の全身は煤だらけだった。
対してルシファーは本当に一緒に掃除していたのかと疑ってしまうくらい、割烹着も彼自身も汚れているところが見当たらない。
「同じく掃除していて、どうしてこうも汚れ方が違うのか……」
実際掃除をしている様子は見ていたから、余計自分の不器用さを痛感してしまう。
「作ってくれたアスモには申し訳ないけど、やっぱり体綺麗にしてから行くね。試しに帰りに食堂行ってみて、無かったらその時考える」
「そうか」
パチン、とまた弾ける音が響く。
すると、私やルシファーが持っていた竹箒と割烹着はどこかに消えていた。
「相変わらず、なんてファンタジーな世界……」
私が呆然としていると、ルシファーがこちらへ近づいてきた。
「え? どうし……」
「ご苦労だったな」
普段とは違う、とても優しい声色。
そして、私の頭をぽんぽん、とゆっくりなでた後
、「また後でな」と言い残し、廊下に出ていった。
取り残された私は、もう見えないというのに、彼が去った何もない廊下をしばらく眺めていた。
そしてハッと我にかえると、慌ててD.D.D.でアスモに入浴してから食堂に向かう連絡を入れ、お風呂へと向かった。