お前、名前はなんて言うんだ?
夢の始まり
「お前の名前は?」
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「……今日で、何日になる?」
「はい。 ディアボロ坊ちゃまに面会を求めてから3日が経とうとしています」
バルバトスが慣れた手付きでティーポットから紅茶をカップへ注ぐ。
ディアボロは執務室の窓から見える美香夜の姿を眺めていた。
「……そろそろ人間なら限界が来るはずだな。 三日三晩食わず寝ず居座り続けているにしてはよく保ったほうだ」
俯いて座り続けているため、美香夜の表情は見えない。
遠くから入れ代わり立ち代わり兄弟たちが美香夜の護衛をしている様子も見える。
他の悪魔に襲われず3日もここにいられたのも、上位の悪魔である兄弟たちのおかげだろう。
「坊ちゃま。 本当は美香夜のことが気になるのでしょう?」
コト、と静かに置かれたティーカップから華やかな香りが立ち上る。
「……」
「あの身勝手な兄弟たちが手を取り合い、自分たちの意思であの子を護っている。 彼らをそうまでして突き動かす理由を、坊ちゃまも知っているのではありませんか」
「……だから、どうしろと?」
ディアボロの少し怒りを滲ませた声にも動じず、淡々と続ける。
「私は坊ちゃまの執事です。 坊ちゃまのご命令のままに。 ご意思のままに」
見とれてしまうほど美しい所作で胸に手を当て、一礼する。
そのまま動きを止め、言葉を続ける。
「……どんなことでもいたします。 表のことでも、裏のことでも。 事実を曲げることも過去を変えることも」
その言葉を受け、ディアボロもなにかに気づいたようにバルバトスの方へ振り返る。
「……なるほど。 また、その手を使うというのか」
「彼女なら、やり遂げるでしょう」
お手本のような笑顔を見せるバルバトスをしばらく見つめ、また窓から見える美香夜の姿を見る。
そして短くフッと、息を吐く。
「……そうだな。 彼女なら。 美香夜なら、やり遂げるだろうな」
ディアボロは置かれたティーカップを持ち上げ、ゆっくりと一口飲む。
なみなみと注がれた紅茶は口をつけた反動で規則的に波をうち、歪んだディアボロの顔を映し出す。
「俺の判断は、正しかったのだろうか」
「おこがましいですが長くお側に仕えているものとして申し上げます。 坊ちゃまのご判断が間違ったことはございません」
それまで表情が見えなかったバルバトスの瞳に、熱が入る。
「坊ちゃまが堕ちてきたあの者を拾った時も。 留学生として彼女を選んだことも。 決して、間違いはございません」
「……」
「過去は変えられないと言いますが、今このときも過去として流れ続けております。 つまり過去も、そして未来もいかようにも変わります。 しかしながらその変化の兆しを与える重要な時間は『今』しかございません。 これからも坊ちゃまのご判断に間違いはございません。 今をどう動くか。 それこそが大事なのです」
「……簡単に言ってくれるな」
ティーカップに目線を落としたまま、自嘲気味に笑う。
「……申し訳ございません」
バルバトスは深く頭を下げる。
しばらくの沈黙の後、ディアボロは紅茶を一気に飲み干すとバルバトスの方へ勢いよく振り返る。
「バルバトス」
「はい。 坊ちゃま」
「俺は、ルシファーも美香夜も大事だ。 だが、魔界も大事だ。 だから」
「すべてを守ってほしい。 できるか」
バルバトスは一瞬息を呑むと、すぐにいつものお手本のような笑顔になる。
「はい。 この私にお任せください」
「はい。 ディアボロ坊ちゃまに面会を求めてから3日が経とうとしています」
バルバトスが慣れた手付きでティーポットから紅茶をカップへ注ぐ。
ディアボロは執務室の窓から見える美香夜の姿を眺めていた。
「……そろそろ人間なら限界が来るはずだな。 三日三晩食わず寝ず居座り続けているにしてはよく保ったほうだ」
俯いて座り続けているため、美香夜の表情は見えない。
遠くから入れ代わり立ち代わり兄弟たちが美香夜の護衛をしている様子も見える。
他の悪魔に襲われず3日もここにいられたのも、上位の悪魔である兄弟たちのおかげだろう。
「坊ちゃま。 本当は美香夜のことが気になるのでしょう?」
コト、と静かに置かれたティーカップから華やかな香りが立ち上る。
「……」
「あの身勝手な兄弟たちが手を取り合い、自分たちの意思であの子を護っている。 彼らをそうまでして突き動かす理由を、坊ちゃまも知っているのではありませんか」
「……だから、どうしろと?」
ディアボロの少し怒りを滲ませた声にも動じず、淡々と続ける。
「私は坊ちゃまの執事です。 坊ちゃまのご命令のままに。 ご意思のままに」
見とれてしまうほど美しい所作で胸に手を当て、一礼する。
そのまま動きを止め、言葉を続ける。
「……どんなことでもいたします。 表のことでも、裏のことでも。 事実を曲げることも過去を変えることも」
その言葉を受け、ディアボロもなにかに気づいたようにバルバトスの方へ振り返る。
「……なるほど。 また、その手を使うというのか」
「彼女なら、やり遂げるでしょう」
お手本のような笑顔を見せるバルバトスをしばらく見つめ、また窓から見える美香夜の姿を見る。
そして短くフッと、息を吐く。
「……そうだな。 彼女なら。 美香夜なら、やり遂げるだろうな」
ディアボロは置かれたティーカップを持ち上げ、ゆっくりと一口飲む。
なみなみと注がれた紅茶は口をつけた反動で規則的に波をうち、歪んだディアボロの顔を映し出す。
「俺の判断は、正しかったのだろうか」
「おこがましいですが長くお側に仕えているものとして申し上げます。 坊ちゃまのご判断が間違ったことはございません」
それまで表情が見えなかったバルバトスの瞳に、熱が入る。
「坊ちゃまが堕ちてきたあの者を拾った時も。 留学生として彼女を選んだことも。 決して、間違いはございません」
「……」
「過去は変えられないと言いますが、今このときも過去として流れ続けております。 つまり過去も、そして未来もいかようにも変わります。 しかしながらその変化の兆しを与える重要な時間は『今』しかございません。 これからも坊ちゃまのご判断に間違いはございません。 今をどう動くか。 それこそが大事なのです」
「……簡単に言ってくれるな」
ティーカップに目線を落としたまま、自嘲気味に笑う。
「……申し訳ございません」
バルバトスは深く頭を下げる。
しばらくの沈黙の後、ディアボロは紅茶を一気に飲み干すとバルバトスの方へ勢いよく振り返る。
「バルバトス」
「はい。 坊ちゃま」
「俺は、ルシファーも美香夜も大事だ。 だが、魔界も大事だ。 だから」
「すべてを守ってほしい。 できるか」
バルバトスは一瞬息を呑むと、すぐにいつものお手本のような笑顔になる。
「はい。 この私にお任せください」
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