お前、名前はなんて言うんだ?
夢の始まり
「お前の名前は?」
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「美香夜、美香夜」
……どこか遠くから、声が聞こえる。
聞き覚えのある、声……。
「……あ、れ」
ぼやけた視界からも分かる、見慣れない天井。
頭が、はっきりしない。
私は、私は……。
視界の端から、黒い影が現れる。
「良かった。目を覚ましてくれて」
「ソロモン……」
眩しくて右腕を瞼に当てる。
誰だか見なくても、その声の持ち主はすぐにわかった。
涙が、こぼれてくる。
「あ、あれ? どこか痛むのかい? 外傷はなさそうだったんだけど……」
本当に心配してくれているんだろうな。
ごめん、ソロモン。
「大丈夫?」
「うん……。 ごめん、少し頭が混乱していただけ。 ルシファーとシメオンは?」
情けないくらい声が震える。
「……彼らが心配なのは分かる。 だけど、今は自分を大切にして欲しい。 僕は君が心配だ」
ソロモンが私の右腕を取り、きれいに折り畳まれたハンカチで私の涙を拭う。
そして、壊れ物を扱うかのように抱きしめてくれた。
「驚くのも無理はない。 きっと、初めて死を感じたことだろう。 今まで君がみてきた悪魔たちとも違う」
子供をあやすかのように、ゆったりとしたリズムで背中を叩く。
「でもね、『あれ』が悪魔だ」
ソロモンは、その力を強める。
かなり苦しかったが、それよりも今の私には守ってもらっているようで、とても心地が良かった。
「良かった……。 少し落ち着いたみたいだね」
少しだけ体を離して顔を覗かれ、柔らかい指先で私の頬をなぞる。
「……。 美香夜、ルシファーとシメオンだが……。 今から言うことを、落ち着いて聞いてほしい」
安堵もつかの間。 私の心臓を早める。
「ルシファーとシメオンは、今、ディアボロの裁きを受けている」
「……!!」
思いもよらない言葉に、私はソロモンの顔を見る。
「さ、裁き……?」
手が震える。
何が起こっているのか、わからない。
「君が意識を失ってすぐ、ルシファーとシメオンはディアボロに呼ばれた。 何を言われたかまではわからないが、嘆きの館のメンバーがしつこくバルバトスに食い下がって、聞き出したそうだ」
ソロモンの表情も、何がなんだかわからない、という表情だ。
「かいつまんでいうと……。 ルシファーはディアボロの許可無く悪魔を消滅させた罪。 シメオンは、ルシファーの共犯者として、だとか」
どんどん先程までの記憶が流れ込んでくる。
そして、私の罪の重さも。
「ま。 待って!! それなら、私のせいなの!! 私が、あれほど注意されていたのに一人で魔界を歩いたから!! 勝手に寄り道をしたから!!」
ソロモンの両腕を乱暴に掴む。
すぐに外せるはずなのに、ソロモンは抵抗せず私の理不尽な行動を受け入れていた。
「シメオンはきっと、君があの場にいた痕跡を消したんだろう。 大悪魔の魔力の痕跡を消すのは困難だが、君であれば簡単に消すことができる。 シメオンから君を託されたときは気が付かなかったけど……」
ソロモンが項垂れる。
その悲しげな姿と声色に心がドクンと、痛みとは違う鈍くて不快な感覚を覚え、力が抜ける。
「ルシファーは側近。 シメオンは天界から招いた留学生だ。 だから、ディアボロも公にはしなかったんだろう。 しかし、『魔界の王子』としては見逃せなかった」
「そ、んな……」
私が起こした行動。
私が起こした軽率な判断。
私が起こした。
私が。
「シメオンはルシファーの魔力の暴走を抑えたから、言いようによっては罪に問われないかもしれない。 だが、ルシファーは……」
それ以上、耐えられなかった。
「美香夜!!」
私はソロモンを強く突き飛ばすと、そのまま乱暴に扉を開けて、入り口までがむしゃらに走る。
だめ。
だめ。
そんな。
私のせいなのに。
私が……。
止めなきゃ。
私のせいなんだから!!
「……さて」
ディアボロが切り出す。
声の調子はいつもと変わらないが、その視線は、目を合わせたものが息を止めるくらい、鋭い。
「説明してもらおうか」
ディアボロの書斎。
両腕を組み口元を隠して座るディアボロと、対面するルシファーとシメオン。
重苦しい雰囲気とは反して、ディアボロに向かうその姿は普段と変わらない。
「……説明など、ない。 消した。 それだけだ」
「意味がわからなかったか? これは誘導ではない。 命令だ。 俺は「説明しろ」とお前に命じたのだ」
ディアボロの声色は静かだ。
感情もなく、淡々と。
言語化できない彼の纏う何かがルシファーとシメオンの全身を拘束し、死を予感させた。
情に深く、魔界という名の混沌すべてを引き受けて背負うこの男だからこそ、彼の信条に反した途端どんな関係ですら消されることをルシファーは知っていた。
「抹消した悪魔は、制定したルールに違反し、公共の場に罠を仕掛け度々自分より弱い悪魔を食らっていた。 前から目をつけ、調査報告書に挙げていたB級の悪魔だ。 あやつは指名手配を受けていたと知ると、生意気にも俺に刃を向けてきた。 だから制裁を食らわせた。 それだけだ」
表情は微動だにせず、淡々と話し出す。
パリパリパリッ!!!
ルシファーの発言が終わったと同時に、ディアボロの背後にある窓ガラスがすべて粉々に砕けた。
「……俺を、誰だと思ってる?」
地を這うような声が、ルシファーとシメオンの表情を一変させる。
「それとも、俺を侮っているのか?」
窓の外から、冷たい雨が風とともに流れ込んでくる。
雨の音に混じって、鈍く低い音が鳴り響き、暗い部屋が稲光に照らされる。
一瞬の光により現れた影は、ディアボロの本来の姿を映し出していた。
ルシファーがすがりつくように、勢いよく片膝をつく。
「頼む!! 俺が、すべて悪いんだ! だから、罰するのは俺だけにしてくれ!!」
続いて、シメオンも深々と頭を下げる。
「ルシファーだけじゃない! 僕も事の重大さをわかっていながら、あのような行動を取った。 彼だけのせいではないんだ「チンケな美談は要らん」
ディアボロがシメオンの言葉を遮りパチンと指を鳴らすと、その隣に音もなくバルバトスが現れる。
「『いついかなる場合も、公正なる場において公平で平等な裁きをすべての魔界のものが享受するべきである』。 ……これは、前回の人間の留学生から知識を経て、あなたが提案し採用されたものですよね、ルシファー」
バルバトスが年季の入った厚い本をどこからか取り出し、その記載事項を読み上げる。
「しかしながら、あなたは不当にも独断で悪魔を裁いた。 魔王の許可無く」
「……」
「シメオン。 あなたは正当な理由なくその力を使い、ルシファーに加担した。 おそらく、欺けたのでしょう。 ……ディアボロ坊ちゃま以外なら」
「っ……」
シメオンが顔を歪める。
「裁きを言い渡す」
ディアボロはルシファーとシメオンには目もくれず、開放された窓に向かって歩きだす。
まるで雨が彼を恐れるかのように、避けて部屋に流れ込む。
「シメオン」
「……はい」
「魔界のルールに則り、処罰を下す。」
瞬間。
強い稲光に照らされ、翼の生えたシメオンの影が床に映る。
影絵のようにどこからかおぞましい影の怪物の腕がそのシメオンの背中の翼まで伸び、乱暴にもぎ取っていく。
「ッうぁ、」
痛みに耐えきれないといった様子で、肩を支えながらその場に両膝をつく。
「そしてルシファー」
「はい」
ルシファーは顔を上げず、姿勢を崩さない。
「100年間の投獄を命ずる」
「……!!」
放たれた言葉に合わせ、ルシファーの首や腕、足に鎖が付けられ、身動きがとれないまま姿が消えた。
「ルシ、ファー……ッ!!」
「以上だ」
キーーーーン、という耳鳴りのような音が部屋を支配し、シメオンが咄嗟に耳をふさぐ。
音が鳴り止み、シメオンが慌てて周囲を見回すと、すでに城の外に出されていた。
「そんな……」
悔しさで握りこぶしを地面に叩きつける。
クシャ、という乾いた音がしてふとその手のひらを確認すると、まるでパソコンで印字したかのような、正確な文字が書かれたメモに気づく。
『坊っちゃんはあなたがたの素行に免じ、かなり温情的に取り計らわれました。 本来坊っちゃん直々に裁きを下すなどありえないこと。 そのご厚意を無駄にしないよう、勉学に励んでください』
「……ルシファー」
全身に痛みが走る。
「ッ、………天使も翼を取られたら、ただの人間だね」
ふ、と笑う。
そして、ふらふらとその重たい体を引きずりながら、彼は仲間の待つところへと歩き出した。
……どこか遠くから、声が聞こえる。
聞き覚えのある、声……。
「……あ、れ」
ぼやけた視界からも分かる、見慣れない天井。
頭が、はっきりしない。
私は、私は……。
視界の端から、黒い影が現れる。
「良かった。目を覚ましてくれて」
「ソロモン……」
眩しくて右腕を瞼に当てる。
誰だか見なくても、その声の持ち主はすぐにわかった。
涙が、こぼれてくる。
「あ、あれ? どこか痛むのかい? 外傷はなさそうだったんだけど……」
本当に心配してくれているんだろうな。
ごめん、ソロモン。
「大丈夫?」
「うん……。 ごめん、少し頭が混乱していただけ。 ルシファーとシメオンは?」
情けないくらい声が震える。
「……彼らが心配なのは分かる。 だけど、今は自分を大切にして欲しい。 僕は君が心配だ」
ソロモンが私の右腕を取り、きれいに折り畳まれたハンカチで私の涙を拭う。
そして、壊れ物を扱うかのように抱きしめてくれた。
「驚くのも無理はない。 きっと、初めて死を感じたことだろう。 今まで君がみてきた悪魔たちとも違う」
子供をあやすかのように、ゆったりとしたリズムで背中を叩く。
「でもね、『あれ』が悪魔だ」
ソロモンは、その力を強める。
かなり苦しかったが、それよりも今の私には守ってもらっているようで、とても心地が良かった。
「良かった……。 少し落ち着いたみたいだね」
少しだけ体を離して顔を覗かれ、柔らかい指先で私の頬をなぞる。
「……。 美香夜、ルシファーとシメオンだが……。 今から言うことを、落ち着いて聞いてほしい」
安堵もつかの間。 私の心臓を早める。
「ルシファーとシメオンは、今、ディアボロの裁きを受けている」
「……!!」
思いもよらない言葉に、私はソロモンの顔を見る。
「さ、裁き……?」
手が震える。
何が起こっているのか、わからない。
「君が意識を失ってすぐ、ルシファーとシメオンはディアボロに呼ばれた。 何を言われたかまではわからないが、嘆きの館のメンバーがしつこくバルバトスに食い下がって、聞き出したそうだ」
ソロモンの表情も、何がなんだかわからない、という表情だ。
「かいつまんでいうと……。 ルシファーはディアボロの許可無く悪魔を消滅させた罪。 シメオンは、ルシファーの共犯者として、だとか」
どんどん先程までの記憶が流れ込んでくる。
そして、私の罪の重さも。
「ま。 待って!! それなら、私のせいなの!! 私が、あれほど注意されていたのに一人で魔界を歩いたから!! 勝手に寄り道をしたから!!」
ソロモンの両腕を乱暴に掴む。
すぐに外せるはずなのに、ソロモンは抵抗せず私の理不尽な行動を受け入れていた。
「シメオンはきっと、君があの場にいた痕跡を消したんだろう。 大悪魔の魔力の痕跡を消すのは困難だが、君であれば簡単に消すことができる。 シメオンから君を託されたときは気が付かなかったけど……」
ソロモンが項垂れる。
その悲しげな姿と声色に心がドクンと、痛みとは違う鈍くて不快な感覚を覚え、力が抜ける。
「ルシファーは側近。 シメオンは天界から招いた留学生だ。 だから、ディアボロも公にはしなかったんだろう。 しかし、『魔界の王子』としては見逃せなかった」
「そ、んな……」
私が起こした行動。
私が起こした軽率な判断。
私が起こした。
私が。
「シメオンはルシファーの魔力の暴走を抑えたから、言いようによっては罪に問われないかもしれない。 だが、ルシファーは……」
それ以上、耐えられなかった。
「美香夜!!」
私はソロモンを強く突き飛ばすと、そのまま乱暴に扉を開けて、入り口までがむしゃらに走る。
だめ。
だめ。
そんな。
私のせいなのに。
私が……。
止めなきゃ。
私のせいなんだから!!
「……さて」
ディアボロが切り出す。
声の調子はいつもと変わらないが、その視線は、目を合わせたものが息を止めるくらい、鋭い。
「説明してもらおうか」
ディアボロの書斎。
両腕を組み口元を隠して座るディアボロと、対面するルシファーとシメオン。
重苦しい雰囲気とは反して、ディアボロに向かうその姿は普段と変わらない。
「……説明など、ない。 消した。 それだけだ」
「意味がわからなかったか? これは誘導ではない。 命令だ。 俺は「説明しろ」とお前に命じたのだ」
ディアボロの声色は静かだ。
感情もなく、淡々と。
言語化できない彼の纏う何かがルシファーとシメオンの全身を拘束し、死を予感させた。
情に深く、魔界という名の混沌すべてを引き受けて背負うこの男だからこそ、彼の信条に反した途端どんな関係ですら消されることをルシファーは知っていた。
「抹消した悪魔は、制定したルールに違反し、公共の場に罠を仕掛け度々自分より弱い悪魔を食らっていた。 前から目をつけ、調査報告書に挙げていたB級の悪魔だ。 あやつは指名手配を受けていたと知ると、生意気にも俺に刃を向けてきた。 だから制裁を食らわせた。 それだけだ」
表情は微動だにせず、淡々と話し出す。
パリパリパリッ!!!
ルシファーの発言が終わったと同時に、ディアボロの背後にある窓ガラスがすべて粉々に砕けた。
「……俺を、誰だと思ってる?」
地を這うような声が、ルシファーとシメオンの表情を一変させる。
「それとも、俺を侮っているのか?」
窓の外から、冷たい雨が風とともに流れ込んでくる。
雨の音に混じって、鈍く低い音が鳴り響き、暗い部屋が稲光に照らされる。
一瞬の光により現れた影は、ディアボロの本来の姿を映し出していた。
ルシファーがすがりつくように、勢いよく片膝をつく。
「頼む!! 俺が、すべて悪いんだ! だから、罰するのは俺だけにしてくれ!!」
続いて、シメオンも深々と頭を下げる。
「ルシファーだけじゃない! 僕も事の重大さをわかっていながら、あのような行動を取った。 彼だけのせいではないんだ「チンケな美談は要らん」
ディアボロがシメオンの言葉を遮りパチンと指を鳴らすと、その隣に音もなくバルバトスが現れる。
「『いついかなる場合も、公正なる場において公平で平等な裁きをすべての魔界のものが享受するべきである』。 ……これは、前回の人間の留学生から知識を経て、あなたが提案し採用されたものですよね、ルシファー」
バルバトスが年季の入った厚い本をどこからか取り出し、その記載事項を読み上げる。
「しかしながら、あなたは不当にも独断で悪魔を裁いた。 魔王の許可無く」
「……」
「シメオン。 あなたは正当な理由なくその力を使い、ルシファーに加担した。 おそらく、欺けたのでしょう。 ……ディアボロ坊ちゃま以外なら」
「っ……」
シメオンが顔を歪める。
「裁きを言い渡す」
ディアボロはルシファーとシメオンには目もくれず、開放された窓に向かって歩きだす。
まるで雨が彼を恐れるかのように、避けて部屋に流れ込む。
「シメオン」
「……はい」
「魔界のルールに則り、処罰を下す。」
瞬間。
強い稲光に照らされ、翼の生えたシメオンの影が床に映る。
影絵のようにどこからかおぞましい影の怪物の腕がそのシメオンの背中の翼まで伸び、乱暴にもぎ取っていく。
「ッうぁ、」
痛みに耐えきれないといった様子で、肩を支えながらその場に両膝をつく。
「そしてルシファー」
「はい」
ルシファーは顔を上げず、姿勢を崩さない。
「100年間の投獄を命ずる」
「……!!」
放たれた言葉に合わせ、ルシファーの首や腕、足に鎖が付けられ、身動きがとれないまま姿が消えた。
「ルシ、ファー……ッ!!」
「以上だ」
キーーーーン、という耳鳴りのような音が部屋を支配し、シメオンが咄嗟に耳をふさぐ。
音が鳴り止み、シメオンが慌てて周囲を見回すと、すでに城の外に出されていた。
「そんな……」
悔しさで握りこぶしを地面に叩きつける。
クシャ、という乾いた音がしてふとその手のひらを確認すると、まるでパソコンで印字したかのような、正確な文字が書かれたメモに気づく。
『坊っちゃんはあなたがたの素行に免じ、かなり温情的に取り計らわれました。 本来坊っちゃん直々に裁きを下すなどありえないこと。 そのご厚意を無駄にしないよう、勉学に励んでください』
「……ルシファー」
全身に痛みが走る。
「ッ、………天使も翼を取られたら、ただの人間だね」
ふ、と笑う。
そして、ふらふらとその重たい体を引きずりながら、彼は仲間の待つところへと歩き出した。