お前、名前はなんて言うんだ?
夢の始まり
「お前の名前は?」
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人間界に降り立っても、考えることは彼女のことばかりで。
ガヤガヤと耳障りな声が飛び交う商店街にいても、彼女が好きだとはしゃいでいた品にばかり目が行き。
気づいたらほとんどが彼女への手土産になってしまった。
遠くから、彼女の育った家、そして今住んでいる家を見る。
外観や家を出入りする人の表情を見れば、幸せかどうかなど容易にわかる。
リリィの墓。
墓石を見てもわかる。
定期的に来ているのだろう。
手入れの行き届いた様が見て取れる。
一輪のアマリリスを捧げ、俺は晴れた心で空を仰いだ。
大掃除を始めたのも、実は美香夜の気を引くためだった。
きっと俺が美香夜の慣れ親しんだ格好で掃除をしていたら、一緒に作業しだすだろう。
あいつの好奇心を狙った、大人げない計画の一部だった。
ベルゼブブがあいつを抱きしめていたとき。
スキンシップ程度なら慣れている。
俺もさほど気にしなかっただろう。
だが。
食い物にしかほとんど興味を示さないベルゼブブが。
あんな壊れないように、大事そうに抱きしめているのを見て。
俺が普通でいられるわけがない。
正直、今思えば、心の奥底で懲らしめてやろうと思っていたかもしれない。
ただ、まだディアボロからもらった酒を開けるのには勇気がいった。
できればもっと雰囲気を楽しめる時がいい。
俺はとっさにその酒瓶を避け、度数が強くて有名なデモナスを手に勝負を仕掛けた。
危なければ何かしら理由をつけてあいつを止めようと思っていた。
それなのに、美香夜は一向に酔った様子がない。
張り合って戦った結果、俺は無様な姿を晒してしまった。
どうせなら、記憶ごと奪い去ってくれたらよかったのに。
思った以上にデモナスのアルコールは俺の頭を殴り続けた。
なぜ美香夜はベルゼブブの行動を拒まなかったのか。
どうしてあんな表情をしたまま、されるがままになっていたのか。
なら、どうして俺にあんな言葉を投げかけたのか。
いっそのこと、檻に閉じ込めてしまおうか。
部屋のノックの音が頭に響く。
この状況下で俺の部屋をノックできるのは、恐らくベルゼブブだけだろう。
「……開いている」
キィ、と少し軋んだ音を立てながらゆっくりと扉が開く。
扉側から感じる微かな魔力に、俺は反射的にベルゼブブを見た。
「……ルシファー。 美香夜に、何をした」
その言葉は、今まで聞いたことがない、重みのある言葉だった。
今にも喉元を噛み千切りそうな魔力に、俺は身構える。
「……お前に、話す必要があるか?」
「……」
ベルゼブブは俺を視界に捉えながらも、近くの棚に頼んでおいた資料を置いた。
「殿下から取り寄せた資料だ。 ありがたいが、なるべく休むように、だそうだ」
「……そうか」
俺は資料を横目で見て、無意識に目を逸らした。
ベルゼブブは「それじゃ」というと、俺に背を向け、扉を開けた。
「……随分と大人しく帰るんだな」
俺は少し挑発的に笑った。
だが、ベルゼブブは振り返りもせず、淡々と返す。
「資料のお礼は要らない。 今から大事な用ができた」
「……」
「もし美香夜を傷つけるなら、たとえルシファーでも許しはしない」
瞬間、ベルゼブブが本来の瞳を取り戻し、俺を睨みつける。
「美香夜は食い物以外で初めて満たしてくれた。 だから、俺は、何があってもあいつを守ると決めたんだ」
この長く、永い年月の中で。
初めて、ベルゼブブが食い物以外で俺に楯突いた。
暖炉の火が、パチパチと音を立てる。
まるで、存在を主張するかのように。
今は何も聞きたくない。
今は何もしたくない。
俺は指を鳴らすと、シュゥ、と音を立てて暖炉の火が消える。
無音だけが、俺を癒してくれていた。
ガヤガヤと耳障りな声が飛び交う商店街にいても、彼女が好きだとはしゃいでいた品にばかり目が行き。
気づいたらほとんどが彼女への手土産になってしまった。
遠くから、彼女の育った家、そして今住んでいる家を見る。
外観や家を出入りする人の表情を見れば、幸せかどうかなど容易にわかる。
リリィの墓。
墓石を見てもわかる。
定期的に来ているのだろう。
手入れの行き届いた様が見て取れる。
一輪のアマリリスを捧げ、俺は晴れた心で空を仰いだ。
大掃除を始めたのも、実は美香夜の気を引くためだった。
きっと俺が美香夜の慣れ親しんだ格好で掃除をしていたら、一緒に作業しだすだろう。
あいつの好奇心を狙った、大人げない計画の一部だった。
ベルゼブブがあいつを抱きしめていたとき。
スキンシップ程度なら慣れている。
俺もさほど気にしなかっただろう。
だが。
食い物にしかほとんど興味を示さないベルゼブブが。
あんな壊れないように、大事そうに抱きしめているのを見て。
俺が普通でいられるわけがない。
正直、今思えば、心の奥底で懲らしめてやろうと思っていたかもしれない。
ただ、まだディアボロからもらった酒を開けるのには勇気がいった。
できればもっと雰囲気を楽しめる時がいい。
俺はとっさにその酒瓶を避け、度数が強くて有名なデモナスを手に勝負を仕掛けた。
危なければ何かしら理由をつけてあいつを止めようと思っていた。
それなのに、美香夜は一向に酔った様子がない。
張り合って戦った結果、俺は無様な姿を晒してしまった。
どうせなら、記憶ごと奪い去ってくれたらよかったのに。
思った以上にデモナスのアルコールは俺の頭を殴り続けた。
なぜ美香夜はベルゼブブの行動を拒まなかったのか。
どうしてあんな表情をしたまま、されるがままになっていたのか。
なら、どうして俺にあんな言葉を投げかけたのか。
いっそのこと、檻に閉じ込めてしまおうか。
部屋のノックの音が頭に響く。
この状況下で俺の部屋をノックできるのは、恐らくベルゼブブだけだろう。
「……開いている」
キィ、と少し軋んだ音を立てながらゆっくりと扉が開く。
扉側から感じる微かな魔力に、俺は反射的にベルゼブブを見た。
「……ルシファー。 美香夜に、何をした」
その言葉は、今まで聞いたことがない、重みのある言葉だった。
今にも喉元を噛み千切りそうな魔力に、俺は身構える。
「……お前に、話す必要があるか?」
「……」
ベルゼブブは俺を視界に捉えながらも、近くの棚に頼んでおいた資料を置いた。
「殿下から取り寄せた資料だ。 ありがたいが、なるべく休むように、だそうだ」
「……そうか」
俺は資料を横目で見て、無意識に目を逸らした。
ベルゼブブは「それじゃ」というと、俺に背を向け、扉を開けた。
「……随分と大人しく帰るんだな」
俺は少し挑発的に笑った。
だが、ベルゼブブは振り返りもせず、淡々と返す。
「資料のお礼は要らない。 今から大事な用ができた」
「……」
「もし美香夜を傷つけるなら、たとえルシファーでも許しはしない」
瞬間、ベルゼブブが本来の瞳を取り戻し、俺を睨みつける。
「美香夜は食い物以外で初めて満たしてくれた。 だから、俺は、何があってもあいつを守ると決めたんだ」
この長く、永い年月の中で。
初めて、ベルゼブブが食い物以外で俺に楯突いた。
暖炉の火が、パチパチと音を立てる。
まるで、存在を主張するかのように。
今は何も聞きたくない。
今は何もしたくない。
俺は指を鳴らすと、シュゥ、と音を立てて暖炉の火が消える。
無音だけが、俺を癒してくれていた。