お前、名前はなんて言うんだ?
夢の始まり
「お前の名前は?」
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「……本当に、何をしてるんだ。 俺は……」
暖炉の火がパチパチと燃える。
今はその音すら、苛立ちを覚える。
ディアボロから休めと命令された翌日。
いつもの時間に目を覚まし、いつものコートに片腕を通したところでピタリ、と固まる。
「……そうか、今日から一週間休みか」
無意識に行動していた自分に自嘲しながら、コートを掛けてネクタイを緩める。
少し自暴自棄になり、ソファに身を投げて乱暴に座る。
特に代わり映えのしない照明を眺め、ふと、視界の端に映ったうつ伏せの写真立てを手に取る。
「俺は、休むことすら忘れてしまったみたいだ。リリィ」
宝石のようにキラキラと輝いた笑顔で、ほかの兄弟と楽しく遊んでいるリリィ。
いや、宝石の輝きなぞ、この笑顔の前では霞むだろう。
「ディアボロの下に
その姿を愛おしく、指でなぞる。
「なぜだろうか。 これほどまでに魔界も兄弟たちも変化し続けているのに。 こんなにも世話しなく月日は経つのに。 どうしてか、ふと歩みを止めると俺だけ取り残されている気分になるんだ」
聞いてくれ、リリィ。
「ディアボロは、本当に良い奴だ。 良い奴……というと、語弊があるな。 筋が通っていて、漢気のある奴だ。 ……少々、いや、かなり頑固者だがな」
お前に話したいことがあるんだ。
「兄弟たちも最初は魔界へかなり抵抗を示していたが……。 今ではなじんで、立派な悪魔になっている。 ただ、根本が変わってないからな。 きっとお前がいたら相変わらずだ、と笑ってたかもしれないな」
ほかの兄弟には話せないこと。
「シメオンも変わらず、飄々としているよ。 もう二度と会うことはないかと思っていたが……。 あのディアボロの思い付きで、留学生を招き入れることになってな。 大方あいつが来るだろうとは予想していたが……、可愛らしい子犬を連れてきたときには驚いたな」
お前だから、話せること。
「リリィ」
「人間界からも留学生が来たんだ。 美香夜と言ってな。 こいつがまた突拍子もなく、こちらの言うことも聞かないじゃじゃ馬娘でな。 無力で無知なヒトであるのに、無駄に肝が据わっていて」
「生意気で、命知らずで、無鉄砲で……」
「無垢で、お節介で、真っすぐで……」
もう一度、愛しいリリィの頬を撫でる。
「本当に、屈託なく、笑うんだ」
本当に。
異物な存在だと危惧していたのに。
気づけば、いなくてはならない存在になっていた。
もし彼女を失ってしまったら。
俺は、きっとこの感情をヒトが呼称する「こころ」というものなのだろうな、と苦笑した。
リリィ。
俺は、どうやら。
この長い年月の中で。
愛しいと思うものに出逢ってしまったみたいだ。
「……そうだな」
写真立てを静かに元の棚に飾り、俺は先ほど掛けなおしたコートを取る。
「せっかくだから、久しぶりに人間界に降りてみるかな。 美香夜の育った環境がどんなものか、そこからお前の人間として幸せだったか覗けるかもしれないしな」
俺はリリスに一声かけ、そのまま部屋を出た。