お前、名前はなんて言うんだ?
夢の始まり
「お前の名前は?」
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気持ちいい揺れに身を任せていると、着いた場所は双子の部屋だった。
「ベルフェはいつもの場所で寝ているから、今は二人きりだ」
ベールが自分のベッドに、そっと私を座らせる。
まるで大事なものを壊さないように扱ってくれているみたいで、また熱いものがこみ上げる。
情けない姿を見られたくなくて下を向くと、私と向かい合うようにベールが座る。
そのまま、頭を引き寄せられ、体を預ける体勢になる。
「?!」
びっくりしてベールを見ると、私の髪をゆっくりと梳きながら優しく微笑んだ。
「言っただろ?今、ここには二人しかいない。だから、誰に見られることもない」
そして私の頭を両腕で包み込む。
「お前が満足するまで、こうしている」
ごつごつとした指先で、また私の髪をゆっくりと梳く。
「お前が今日のことを忘れて欲しいなら、俺は忘れる。二人だけの、約束だ」
その言葉が耳に届いた瞬間、私は、耐え切れなくなった。
本当に子供のころに戻ったみたいに、嗚咽しながら。情けなく。
泣きじゃくりながら、ベールの袖をくしゃくしゃに掴む。
体裁とか、もう、どうでもいい。
感情の赴くまま、涙が枯れるまで。
空しさが、埋まるまで。
「…ベール…ごめん」
落ち着いた私は、ベールにティッシュを貰って、後ろに顔を向けながら鼻をかむ。
色気もそっけもないが、満足したころには顔がぐしゃぐしゃになっていた。
そんな私の恥ずかしい姿にも表情を変えず、ベールは軽快に笑う。
「なんだ、今更。満足したか?」
「だって、ベールの服、強く掴んだだけじゃなくって、涙とかで、その、ぐしゃぐしゃにしちゃったし…」
「別に。服なんかどうでもいい。俺は、食い物があればそれでいいんだ」
ちらっと横目で見ると、ベールが少し頭を傾げて、不思議そうに私を見ている。
「ティッシュはここだ」
そして、私に小さなごみ箱を差し出してくれた。
「あ…ありがとう」
くるくると丸めてティッシュを捨てると、ベールはごみ箱を元の場所に戻し、またあやすように私の頭を、ぽんぽん、と撫でた。
「少しは、満足したか?」
「…うん。だいぶ」
「そうか、よかった」
心配そうに私の顔を伺うと、ふと、何かを思い出したかのように固まった。
「…どうしたの?」
「忘れ物をした」
勢いよく立ち上がると、ベールは部屋の入口に向かう。
「あっ…じゃあ、私、そろそろ戻るよ」
「待て」
立ち上がろうとする私を、振り返って制するベール。
「すぐ戻る。お前と一緒に行きたいところがあるんだ」
ついでに飲み物を持ってくる、と言い残してベールは部屋から出て行った。
パタン。
扉が閉まり、私はしばらく放心状態になっていた。
「…って、なんか凄いことしてない?!私?!」
数秒後、冷水を被ったかのように頭が動き出し、今まで起こったことが走馬灯のように脳に流れ込む。
「~~~~~~っ」
表現しがたい羞恥が、体全身駆け巡る。
悶えてベッドにごろごろ転がっていると、ふと疑問が過る。
「…どうしてベールは、理由を聞かなかったんだろう…」
ベッドの棚に飾ってある、写真立てが視界に入る。
そこには、幸せそうに笑う、ベールとベルフェ…そして、彼女が写っている。
「こんなに優しいのも…きっと、『彼女』、だからだよね」
人って悲しいもので。
理由の分からない優しさを向けられると、何かしらの理由があると思って勝手に推測してしまう。
そうじゃないと、その優しさの真意にいずれ気づいたときに、壊れてしまいそうだから。
「…って、私ルシファーのこと言えないじゃん…」
矛盾した自分の思考に思わず嘲笑し、両腕で目を覆い隠した。
久しぶりに泣いたせいか、どっと疲れが全身を襲う。
心地いい香りに包まれて、体の力が抜けていく。
「入るぞ」
ハッと意識が戻る。
扉の向こうから、気遣う声が聞こえる。
どれくらい時間が経っていたのだろう。
それすらわからなくなるくらい、私はどうやら眠っていたらしい。
静かに扉を開けたベールの手には、水の入ったコップがあった。
「とりあえず、これでも飲め」
私は体を起こし、ベッドに座りなおす。
ベールは私にコップを渡しながら、隣に座った。
「…ありがとう」
ぐいっと水を飲み干す。
すると、心も体もすぅっと洗い流されたかのように、すっきりした感覚になる。
「はぁ…」
「良い飲みっぷりだな」
私からコップを受け取り、近くの棚に置く。
「今朝の話、覚えてるか?」
「今朝?」
唐突な話にびっくりして、ベールの顔を見る。
そこには、先ほどの落ち着き払った大人の姿はなく、ワクワクと遊園地に行きたがる無邪気な子供のようなベールがいた。
「そうだ。今朝、お前を連れていきたいと言っていた店の話だ」
「ああ!」
その話を思い出した途端、ぎゅるるる、とお腹が鳴る。
「…ごめん」
私のお腹だ。
最悪だぁ…。
恥ずかしくて俯くと、ベールが私の顎をそっと掴み、顔を上げさせた。
「腹が減ると、力が出ない。こういう時は、食い物が一番だ」
きらきらとした目に吸い込まれる。
ベールは手を放して立ち上がり、私の手を引いて立たせた。
「さぁ、行くぞ。美味い飯が待ってる」
「…うん!」
完全にベールのペースに飲まれている。
何かを考える隙間がない。
それが、今はとても、心地がいい。
「ベルフェはいつもの場所で寝ているから、今は二人きりだ」
ベールが自分のベッドに、そっと私を座らせる。
まるで大事なものを壊さないように扱ってくれているみたいで、また熱いものがこみ上げる。
情けない姿を見られたくなくて下を向くと、私と向かい合うようにベールが座る。
そのまま、頭を引き寄せられ、体を預ける体勢になる。
「?!」
びっくりしてベールを見ると、私の髪をゆっくりと梳きながら優しく微笑んだ。
「言っただろ?今、ここには二人しかいない。だから、誰に見られることもない」
そして私の頭を両腕で包み込む。
「お前が満足するまで、こうしている」
ごつごつとした指先で、また私の髪をゆっくりと梳く。
「お前が今日のことを忘れて欲しいなら、俺は忘れる。二人だけの、約束だ」
その言葉が耳に届いた瞬間、私は、耐え切れなくなった。
本当に子供のころに戻ったみたいに、嗚咽しながら。情けなく。
泣きじゃくりながら、ベールの袖をくしゃくしゃに掴む。
体裁とか、もう、どうでもいい。
感情の赴くまま、涙が枯れるまで。
空しさが、埋まるまで。
「…ベール…ごめん」
落ち着いた私は、ベールにティッシュを貰って、後ろに顔を向けながら鼻をかむ。
色気もそっけもないが、満足したころには顔がぐしゃぐしゃになっていた。
そんな私の恥ずかしい姿にも表情を変えず、ベールは軽快に笑う。
「なんだ、今更。満足したか?」
「だって、ベールの服、強く掴んだだけじゃなくって、涙とかで、その、ぐしゃぐしゃにしちゃったし…」
「別に。服なんかどうでもいい。俺は、食い物があればそれでいいんだ」
ちらっと横目で見ると、ベールが少し頭を傾げて、不思議そうに私を見ている。
「ティッシュはここだ」
そして、私に小さなごみ箱を差し出してくれた。
「あ…ありがとう」
くるくると丸めてティッシュを捨てると、ベールはごみ箱を元の場所に戻し、またあやすように私の頭を、ぽんぽん、と撫でた。
「少しは、満足したか?」
「…うん。だいぶ」
「そうか、よかった」
心配そうに私の顔を伺うと、ふと、何かを思い出したかのように固まった。
「…どうしたの?」
「忘れ物をした」
勢いよく立ち上がると、ベールは部屋の入口に向かう。
「あっ…じゃあ、私、そろそろ戻るよ」
「待て」
立ち上がろうとする私を、振り返って制するベール。
「すぐ戻る。お前と一緒に行きたいところがあるんだ」
ついでに飲み物を持ってくる、と言い残してベールは部屋から出て行った。
パタン。
扉が閉まり、私はしばらく放心状態になっていた。
「…って、なんか凄いことしてない?!私?!」
数秒後、冷水を被ったかのように頭が動き出し、今まで起こったことが走馬灯のように脳に流れ込む。
「~~~~~~っ」
表現しがたい羞恥が、体全身駆け巡る。
悶えてベッドにごろごろ転がっていると、ふと疑問が過る。
「…どうしてベールは、理由を聞かなかったんだろう…」
ベッドの棚に飾ってある、写真立てが視界に入る。
そこには、幸せそうに笑う、ベールとベルフェ…そして、彼女が写っている。
「こんなに優しいのも…きっと、『彼女』、だからだよね」
人って悲しいもので。
理由の分からない優しさを向けられると、何かしらの理由があると思って勝手に推測してしまう。
そうじゃないと、その優しさの真意にいずれ気づいたときに、壊れてしまいそうだから。
「…って、私ルシファーのこと言えないじゃん…」
矛盾した自分の思考に思わず嘲笑し、両腕で目を覆い隠した。
久しぶりに泣いたせいか、どっと疲れが全身を襲う。
心地いい香りに包まれて、体の力が抜けていく。
「入るぞ」
ハッと意識が戻る。
扉の向こうから、気遣う声が聞こえる。
どれくらい時間が経っていたのだろう。
それすらわからなくなるくらい、私はどうやら眠っていたらしい。
静かに扉を開けたベールの手には、水の入ったコップがあった。
「とりあえず、これでも飲め」
私は体を起こし、ベッドに座りなおす。
ベールは私にコップを渡しながら、隣に座った。
「…ありがとう」
ぐいっと水を飲み干す。
すると、心も体もすぅっと洗い流されたかのように、すっきりした感覚になる。
「はぁ…」
「良い飲みっぷりだな」
私からコップを受け取り、近くの棚に置く。
「今朝の話、覚えてるか?」
「今朝?」
唐突な話にびっくりして、ベールの顔を見る。
そこには、先ほどの落ち着き払った大人の姿はなく、ワクワクと遊園地に行きたがる無邪気な子供のようなベールがいた。
「そうだ。今朝、お前を連れていきたいと言っていた店の話だ」
「ああ!」
その話を思い出した途端、ぎゅるるる、とお腹が鳴る。
「…ごめん」
私のお腹だ。
最悪だぁ…。
恥ずかしくて俯くと、ベールが私の顎をそっと掴み、顔を上げさせた。
「腹が減ると、力が出ない。こういう時は、食い物が一番だ」
きらきらとした目に吸い込まれる。
ベールは手を放して立ち上がり、私の手を引いて立たせた。
「さぁ、行くぞ。美味い飯が待ってる」
「…うん!」
完全にベールのペースに飲まれている。
何かを考える隙間がない。
それが、今はとても、心地がいい。