お前、名前はなんて言うんだ?
夢の始まり
「お前の名前は?」
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「……なんで私、ここに来ちゃったんだろう」
ノックをしようとしては、その手を下ろす。
私は、久しぶりの緊張感にどう対処していいか戸惑っていた。
そう、私は今、禁忌の区域に立ち入ろうとしていたーーー。
文面だけでも伝わる殺気を感じ取った兄弟たちは、無言で食事を食べ、そそくさと食卓を後にした。
ポツリと残された私は、遅れて完食し、とりあえず食べた食器類を片そうと食堂へ向かった。
きっと何か作業していれば、今日の予定も思いつくだろう、もし暇ならシメオンたちのところへ行くのもいいな、と思いながら。
食堂につき、今日の朝食作りに使った調理器具や食器を洗っていると、ふと父のことを思い出した。
「……そういや、お父さん二日酔いのとき、水欲しがってたな」
ジャーーと泡を流す水を見つめながら、その当時のお母さんの行動を思い返す。
洗い物が一通り片付き、時計を見る。
あのチャットが来てからまだそんなに時間が経っていない。
「どうせやることもないし、要らなかったら私が食べればいいもんね」
ふっと軽く息を吐いて妙な緊張感を吹き飛ばした後、私は腕まくりをして早速鍋を取り出した。
以前アスモが二日酔いになったとき、ルシファーが胃に入れた方がいいと何か作っていた気がする。
横目で見ていただけだが、まぁ、なんとかなるだろう。
「まずければ私が食べればいいし。 うん。 水さえ飲んでくれればそれで」
さっきから言い訳する独り言ばかり出てくる。
なぜこんなにも心臓がバクバク言ってるんだろう。
…そんなこんなで出来上がったお粥……らしきもの。
冷蔵庫にあるだけの具材と、二日酔いに効くと言っていた悪魔界の食材を煮込んでみただけ。
正直、味見してもよくわからなかった。
ホカホカと湯気の立つ食事を横目で見て、ゴクリと生唾を飲む。
「冷めちゃうから早くしなさい……!」
自分を叱責して深呼吸する。
そして拳を作り、扉の前にスッと差し出した。
「……さっきからそこで何をしている」
「!?」
ビクッと体が震える。
「え、る、ルシファー?!扉の前にいるの?!」
「おい。俺を誰だと思っている。下等な人間と違い、どこにいたってお前の気配を気取ることくらい造作もない」
「下等……」
どうやらかなり荒れているらしい。
逆に吹っ切れた私は、戦ってやるくらいの意気込みで扉に向かって話しかける。
「ルシファー! 朝から部屋に閉じこもってるけど、水は飲んだ? 後、胃に何か入れないと、回復が遅くなるよ!」
「……余計な世話だ」
不機嫌な声が返ってくる。
本当に嫌そうだが、拒絶しているわけではなさそうだ。
「ルシファー。 この間アスモに食べさせてた二日酔いに効く食事作ってみたの。 冷めないうちに食べてほしいな」
「お前が勝手に作ったんだろう。お前が食えばいい。邪魔だ」
ふぅ、とため息を吐き、最終手段に出る。
「あーそう。 部屋に入れてくれないなら、昨日の話、兄弟たちに話しちゃおうかな」
「…!」
ルシファーが息を呑むのがわかる。
……というか、どうやって話をしてるんだ…?
「いいの? 昨日のルシファーはすっごく素直でかわい「わかった。 入れ」」
大声で暴露しようとしたら、焦った声が返ってきた。
……初勝利。
「失礼します」
扉を開けると、あの不思議な書斎は無く、すぐにルシファーの部屋があった。
恐る恐る入りながら、辺りを見回す。
「あ、いた」
少し薄暗くて見えづらかったが、質のいい革のソファに長い手足を投げ出し横になるルシファーの姿があった。
私はソファの目の前にあるテーブルまで食事を運んだあと、水差しからコップに水を注ぎ、それを持ち上げ渡そうとソファを見る。
「ルシファー、水、飲めそう?」
ルシファーは顔を埋めたまま、びくともしない。
思ったより具合が悪そうだ。
私はコップをテーブルに置き、ルシファーの様子を探ろうと顔を近づける。
「…うわっ?!」
瞬間。
景色がぐるんと反転した。
「……あ」
吸い込まれるような妖艶な紅い瞳。
艷やかな黒髪が、私の頬にかかる。
「……デジャヴ……」
体が覚えている。
完全に、ルシファーに上から体を抑えつけられている。
「あ、あのー…また、お酒、呑みました?」
耳が割れそうなくらい鳴る心臓の鼓動を落ち着けようと、わざとひょうきんな声を出す。
しかし、それもつかの間。
真剣な瞳に睨まれ、反射的に口をつぐんだ。
「…お前。のこのこと、よく俺のところに来れたな」
少し苛立ちの声色で、ルシファーが更に顔を近づける。
「人間はデモナスにそうそう酔わないんだな。知っていたなら初めからそう言え」
ぎゅ、と腕に力が込められる。
「いたっ…」
「俺のあんな無様な姿を見て、嘲笑っていたのか? 愉しかったか? あぁ、愉しかったろうな」
怒りに満ちた表情とともに、漆黒の双翼が不気味に、そして威厳を放つ存在感で勢い良く背中から現れる。
「弄んでいたのか? 人間の分際で。 この、俺を?」
「痛い…ッ!放して、ルシファー…!」
声は届かず、抑えつけられている太腿も痛くなってきた。
「ふざけるな。 たかが人間が。 なら、証明してやろうか。 格の違いというものをな…!」
まずい。
全身から冷や汗が流れる。
もうおちゃらける余裕は無くなっていた。
本能が告げる。
このままじゃ、死ぬ。
…だけど。
私は、そんなヤワじゃない。
「【ルシファー!待て!!】」
「?!」
途端、ルシファーが硬直した。
当のルシファーは、何があったかわからないといった表情で、目を見開いている。
「具合が悪いからって、八つ当たりしないの!少し落ち着いて、反省しなさい!!」
「…!?」
ルシファーの体を勢い良く押しのけ、体勢を整える。
押し倒されたルシファーは、口をパクパクさせながらも、そのまま背中からソファに倒れ込んだ。
「えっる、ルシファー?!」
びっくりした私は、慌ててルシファーの体を揺さぶり、体の硬直が解けるのを騒ぎながら待ち続けた。
「…まったく、まさかここで契約した代償が出るとはな」
ルシファーが私から水の入ったコップを受け取り、勢い良く飲み干す。
そして、空になったコップを私に差し出すと、悔しそうにつぶやいた。
「いやぁ…。私も無自覚だったから、びっくりしちゃった…ははは」
ルシファーから空のコップを受け取ると、水差しからまた注いでいく。
なんとなく申し訳ないのと、慌てふためいた先程の自分の姿に恥ずかしくなり、声がだんだん小さくなってしまう。
私がもう一度ルシファーにコップを差し出すと、それを無言で受け取り、また飲み干した。
無言だが、その所作は優しく、あの禍々しい双翼も今は見えなくなった。
「…ソロモンが面白がるわけだな」
ぽつりとルシファーがこぼす。
「え?」
「いや、なんでもない」
意図がわからず反射的に聞き返すと、ルシファーは静かにコップを置き、ルシファーの隣に座っている私の方へ体を向けた。
「ほかの兄弟たちから止められなかったか?」
先ほどとは打って変わって、優しく温かな声色だ。
…それはそれで、怖いが。
「あ、いや…。 誰にも相談しないで勝手に決めたの」
ちょっと気まずくなり、苦笑いが出る。
でも、と少し身を乗り出す。
「辛いときに一人でなんとかしようとするのは良くないよ!」
そして、ちょっと寂しい気持ちがよぎる。
「…できれば、頼ってほしかった…」
ルシファーの顔が見れず、俯く。
自分でもいろんな説明できない感情が混ざり合い、どんな顔してルシファーを見ればいいのかわからなくなった。
「美香夜」
ふと、聞きなれない単語に顔を上げる。
唇に、温かくて柔らかな感触を感じる。
そのまま噛まれるように唇を吸われ、静かな部屋に水音が響いた。
「…え」
「ん?」
固まった私の表情を、口元を歪ませて愉しそうに見つめる。
「どうした。足りなかったか?」
「あ、え、いや、あの、今…」
私が動揺して頭が真っ白になっていると、またもや温かな息が顔にかかる。
「だから言ったろう。
のこのこと、よく来たなって」
そして、私の瞼を手で優しく閉じると、包み込むように反対の手で私の頭を引き寄せ、啄むように唇を重ねた。
ノックをしようとしては、その手を下ろす。
私は、久しぶりの緊張感にどう対処していいか戸惑っていた。
そう、私は今、禁忌の区域に立ち入ろうとしていたーーー。
文面だけでも伝わる殺気を感じ取った兄弟たちは、無言で食事を食べ、そそくさと食卓を後にした。
ポツリと残された私は、遅れて完食し、とりあえず食べた食器類を片そうと食堂へ向かった。
きっと何か作業していれば、今日の予定も思いつくだろう、もし暇ならシメオンたちのところへ行くのもいいな、と思いながら。
食堂につき、今日の朝食作りに使った調理器具や食器を洗っていると、ふと父のことを思い出した。
「……そういや、お父さん二日酔いのとき、水欲しがってたな」
ジャーーと泡を流す水を見つめながら、その当時のお母さんの行動を思い返す。
洗い物が一通り片付き、時計を見る。
あのチャットが来てからまだそんなに時間が経っていない。
「どうせやることもないし、要らなかったら私が食べればいいもんね」
ふっと軽く息を吐いて妙な緊張感を吹き飛ばした後、私は腕まくりをして早速鍋を取り出した。
以前アスモが二日酔いになったとき、ルシファーが胃に入れた方がいいと何か作っていた気がする。
横目で見ていただけだが、まぁ、なんとかなるだろう。
「まずければ私が食べればいいし。 うん。 水さえ飲んでくれればそれで」
さっきから言い訳する独り言ばかり出てくる。
なぜこんなにも心臓がバクバク言ってるんだろう。
…そんなこんなで出来上がったお粥……らしきもの。
冷蔵庫にあるだけの具材と、二日酔いに効くと言っていた悪魔界の食材を煮込んでみただけ。
正直、味見してもよくわからなかった。
ホカホカと湯気の立つ食事を横目で見て、ゴクリと生唾を飲む。
「冷めちゃうから早くしなさい……!」
自分を叱責して深呼吸する。
そして拳を作り、扉の前にスッと差し出した。
「……さっきからそこで何をしている」
「!?」
ビクッと体が震える。
「え、る、ルシファー?!扉の前にいるの?!」
「おい。俺を誰だと思っている。下等な人間と違い、どこにいたってお前の気配を気取ることくらい造作もない」
「下等……」
どうやらかなり荒れているらしい。
逆に吹っ切れた私は、戦ってやるくらいの意気込みで扉に向かって話しかける。
「ルシファー! 朝から部屋に閉じこもってるけど、水は飲んだ? 後、胃に何か入れないと、回復が遅くなるよ!」
「……余計な世話だ」
不機嫌な声が返ってくる。
本当に嫌そうだが、拒絶しているわけではなさそうだ。
「ルシファー。 この間アスモに食べさせてた二日酔いに効く食事作ってみたの。 冷めないうちに食べてほしいな」
「お前が勝手に作ったんだろう。お前が食えばいい。邪魔だ」
ふぅ、とため息を吐き、最終手段に出る。
「あーそう。 部屋に入れてくれないなら、昨日の話、兄弟たちに話しちゃおうかな」
「…!」
ルシファーが息を呑むのがわかる。
……というか、どうやって話をしてるんだ…?
「いいの? 昨日のルシファーはすっごく素直でかわい「わかった。 入れ」」
大声で暴露しようとしたら、焦った声が返ってきた。
……初勝利。
「失礼します」
扉を開けると、あの不思議な書斎は無く、すぐにルシファーの部屋があった。
恐る恐る入りながら、辺りを見回す。
「あ、いた」
少し薄暗くて見えづらかったが、質のいい革のソファに長い手足を投げ出し横になるルシファーの姿があった。
私はソファの目の前にあるテーブルまで食事を運んだあと、水差しからコップに水を注ぎ、それを持ち上げ渡そうとソファを見る。
「ルシファー、水、飲めそう?」
ルシファーは顔を埋めたまま、びくともしない。
思ったより具合が悪そうだ。
私はコップをテーブルに置き、ルシファーの様子を探ろうと顔を近づける。
「…うわっ?!」
瞬間。
景色がぐるんと反転した。
「……あ」
吸い込まれるような妖艶な紅い瞳。
艷やかな黒髪が、私の頬にかかる。
「……デジャヴ……」
体が覚えている。
完全に、ルシファーに上から体を抑えつけられている。
「あ、あのー…また、お酒、呑みました?」
耳が割れそうなくらい鳴る心臓の鼓動を落ち着けようと、わざとひょうきんな声を出す。
しかし、それもつかの間。
真剣な瞳に睨まれ、反射的に口をつぐんだ。
「…お前。のこのこと、よく俺のところに来れたな」
少し苛立ちの声色で、ルシファーが更に顔を近づける。
「人間はデモナスにそうそう酔わないんだな。知っていたなら初めからそう言え」
ぎゅ、と腕に力が込められる。
「いたっ…」
「俺のあんな無様な姿を見て、嘲笑っていたのか? 愉しかったか? あぁ、愉しかったろうな」
怒りに満ちた表情とともに、漆黒の双翼が不気味に、そして威厳を放つ存在感で勢い良く背中から現れる。
「弄んでいたのか? 人間の分際で。 この、俺を?」
「痛い…ッ!放して、ルシファー…!」
声は届かず、抑えつけられている太腿も痛くなってきた。
「ふざけるな。 たかが人間が。 なら、証明してやろうか。 格の違いというものをな…!」
まずい。
全身から冷や汗が流れる。
もうおちゃらける余裕は無くなっていた。
本能が告げる。
このままじゃ、死ぬ。
…だけど。
私は、そんなヤワじゃない。
「【ルシファー!待て!!】」
「?!」
途端、ルシファーが硬直した。
当のルシファーは、何があったかわからないといった表情で、目を見開いている。
「具合が悪いからって、八つ当たりしないの!少し落ち着いて、反省しなさい!!」
「…!?」
ルシファーの体を勢い良く押しのけ、体勢を整える。
押し倒されたルシファーは、口をパクパクさせながらも、そのまま背中からソファに倒れ込んだ。
「えっる、ルシファー?!」
びっくりした私は、慌ててルシファーの体を揺さぶり、体の硬直が解けるのを騒ぎながら待ち続けた。
「…まったく、まさかここで契約した代償が出るとはな」
ルシファーが私から水の入ったコップを受け取り、勢い良く飲み干す。
そして、空になったコップを私に差し出すと、悔しそうにつぶやいた。
「いやぁ…。私も無自覚だったから、びっくりしちゃった…ははは」
ルシファーから空のコップを受け取ると、水差しからまた注いでいく。
なんとなく申し訳ないのと、慌てふためいた先程の自分の姿に恥ずかしくなり、声がだんだん小さくなってしまう。
私がもう一度ルシファーにコップを差し出すと、それを無言で受け取り、また飲み干した。
無言だが、その所作は優しく、あの禍々しい双翼も今は見えなくなった。
「…ソロモンが面白がるわけだな」
ぽつりとルシファーがこぼす。
「え?」
「いや、なんでもない」
意図がわからず反射的に聞き返すと、ルシファーは静かにコップを置き、ルシファーの隣に座っている私の方へ体を向けた。
「ほかの兄弟たちから止められなかったか?」
先ほどとは打って変わって、優しく温かな声色だ。
…それはそれで、怖いが。
「あ、いや…。 誰にも相談しないで勝手に決めたの」
ちょっと気まずくなり、苦笑いが出る。
でも、と少し身を乗り出す。
「辛いときに一人でなんとかしようとするのは良くないよ!」
そして、ちょっと寂しい気持ちがよぎる。
「…できれば、頼ってほしかった…」
ルシファーの顔が見れず、俯く。
自分でもいろんな説明できない感情が混ざり合い、どんな顔してルシファーを見ればいいのかわからなくなった。
「美香夜」
ふと、聞きなれない単語に顔を上げる。
唇に、温かくて柔らかな感触を感じる。
そのまま噛まれるように唇を吸われ、静かな部屋に水音が響いた。
「…え」
「ん?」
固まった私の表情を、口元を歪ませて愉しそうに見つめる。
「どうした。足りなかったか?」
「あ、え、いや、あの、今…」
私が動揺して頭が真っ白になっていると、またもや温かな息が顔にかかる。
「だから言ったろう。
のこのこと、よく来たなって」
そして、私の瞼を手で優しく閉じると、包み込むように反対の手で私の頭を引き寄せ、啄むように唇を重ねた。