お前、名前はなんて言うんだ?
夢の始まり
「お前の名前は?」
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「……おい、誰か聞いて来いよ」
朝の食堂。
いつもどおりの風景。
……ではなく、爽やかな朝に似つかわしくない、重々しい空気が流れていた。
耐え切れず口火を切ったのは、マモンだった。
「お前もわかってるだろ。 『あの』状態のときは絶対に問題を起こすなよ。触らぬ悪魔に祟りなし、だ」
サタンが無表情で朝食をフォークに刺し、口に運ぶ。
しかし、食べる前にぽろっと食事がフォークから零れ落ちる。
何も感じていないように見えるが、先ほどからフォークで刺しては食事が零れ落ちるのを繰り返している。
「大方、原因はあのお殿様だろ?」
レヴィが呆れながら呟く。だが、その目線はずっとD.D.D.を見ている。
「だよねー。もー巻き込まないでほしいんだけどぉー。ストレスはお肌の大敵なんだよねぇ」
食べ終わった食器をお盆に乗せながら、アスモが口を尖らせる。
「とりあえず鏡で僕の美貌でも見て落ち着こうっと」
「ふぁぁ……眠い……」
アスモと入れ違いに、ベルフェが目を擦りながら入ってくる。
ふと、ベルフェが歩みを止め、眉間に皺を寄せて席に座る兄弟たちを凝視する。
「……え、なにこの空気。 しんどいんだけど」
「おはようベルフェ。あと少し遅かったらお前の分も食べちゃってたぞ」
ベールはいつも通り、口に頬張りながらフォークを持った手でベルフェに手を振る。
「ベール以外、顔が暗すぎるんだけど」
「お前、チャット見て言ってんのか?!」
マモンが勢いよく立ち上がる。
「マモン。 あの時既読数が1つ足りなかっただろ。 ベルフェはまだ見てないんだ」
その様子をレヴィが諭す。
相変わらず目線はD.D.D.のままだ。
「チャット?」
「ベルフェ。 とりあえず座って食事をとるがいい。 俺が説明しよう」
サタンがベルフェの席を指さし、座るように促す。
こくんとうなずいたベルフェは、私に目配せする。
私は返事をするように頷き、そして食事が置かれていない席に視線を移した。
「……まぁ、簡単に言うと、ルシファーが二日酔いになった」
「うわぁ……」
その一言を聞いた瞬間、ベルフェの顔が暗くなった。
サタンは相変わらず食事が減っていない。
「さ、サタン……さっきから食べられてないけど、大丈夫?」
さっきから変わらぬ行動に心配になって声を掛けてみる。
「なにを言ってるんだ、美香夜?俺は至って普通だが?」
怪訝そうな顔をして手を止める。
その勢いで、フォークがべしょっ、と曲がった。
「いや、動揺してんじゃん。 フォーク乙」
やっとD.D.D.から目を外したレヴィが、今度はサタンのフォークに向かってD.D.D.を向けている。
「撮ろうとするな、レヴィ」
「ははは……。 ね、ねぇ。なんでルシファーが二日酔いってだけでこんなにみんな怖がってるの?」
ずっと気になっていたことを口に出す。
途端、まるで打ち合わせをしたかのように、全員が動きを止めた。
「お前……。ルシファーの二日酔いの恐ろしさを知らないんだな」
マモンが両肘をテーブルにつき、両手を顔の前で組んで上目遣いに私を見る。
まるでこれから怪談話でもするかのようだ。
「特別にこの優しいマモン様が教えてやろう……。
ルシファーはな、二日酔いになると、途端に自制が効かなくなるんだ」
「自制?」
私は首を傾げて聞き返す。
マモンは深く頷き、深呼吸する。
「ああ。
チャットでも分かっただろうが、ルシファーが二日酔いの状態で口が悪くなったときは、ドS剝き出しで暴言、魔力、すべてが解放されるんだ」
マモンは何かを思い出したのか、震えながら自分の肩を抱きすくめた。
「うう……。思い出しただけでも身震いするぜ……」
「マモン。 くどい。 もっとはっきり言えって」
「なっ?!」
芝居がかったマモンに面倒くさくなったのか、レヴィがスパッと遮る。
「この前、二日酔いになったルシファーは家にずっと籠りきりで、食事も来なかったんだ。誰とも話さず。ただ、唯一チャットで「頭が痛いから面倒を起こすな。」とか言っちゃって」
そしてレヴィが顔を曇らせたサタンとベルフェを交互に見る。
「そんでもって、弱ったところを襲えるチャンスだ!って盛り上がったこの二人が寝込みを襲いにルシファーの部屋へ行ったんだ。
だけど相手はルシファー。抜かりなく対策していた挙句、普段なら使わない魔力まで使ってサタンには目くらまし、ベルフェには眠れない魔法をかけて撃退したってわけ」
「うわぁ……」
端から聞いたらこの大変さが伝わらないかもしれないが、本を読むことが生きがいのサタンと寝ることが生きがいのベルフェにとっては苦痛でしかなかっただろう。
二人が漫画のようにどよん…と青筋を立てて落ち込んでいる。
「とどめがこのバカ。」
レヴィがマモンを鋭く睨みつける。
マモンは悪戯が見つかった子供のように「うっ」と顔を歪ませ、後ろに仰け反った。
「その直後、殿下にルシファーの伝言を伝えに行ったマモンが、殿下の家の高そうな調度品をいくつかくすねたんだよ。
でもあっという間にバルバトスに見つかって、報告を聞いたルシファーが大激怒。
マモンのクレジットカードは即取り上げられて凍結。
さらにこれ以上問題を起こさせないようにって、無害な僕たちにまで、ルシファーが満足するまでD.D.D.の使用禁止、さらにお金まで没収……!」
レヴィが絶望した表情になり、頭を抱えてテーブルに突っ伏す。
そしてドン!と力強くテーブルを叩く。
それを見逃さなかったベールが、口をもごもごと動かしながらもお皿をひょいっと持ち上げ、回避する。
「その日は『花ルリたんプラスαドラマCD限定販売〜花ルリたん非公開設定イラスト集特典付〜』の発売日だったのに……!!」
うぁぁぁぁぁと泣き叫ぶレヴィを止める者はおらず、なんだか地獄絵図のような食卓になってしまった(ベール以外)。
ふと、ベルフェが私を見る。
「ねぇ、昨日ルシファーと掃除してたよね。 美香夜は何があったか知らないの?」
今度は私が「うっ」と言葉を詰まらせる。
まさか私が原因で(持ち掛けられたとはいえ)こんな地獄絵図になっているとは言えない……。
「さ、さぁ……掃除が終わってからは会ってないか…も…多分」
ははは、と乾いた笑いが出る。
自分でも動揺している気がして、慌てて話題を切り替える。
「あ、ね、ねぇ!今日はRADお休みだよね!みんなはこれからどうするの?」
わざと明るく話したが、自分でも感じる。 わざとらしすぎる……。
しかし、レヴィがテーブルから顔を上げずに反応する。
「……今日は新作のゲームが届いたから、徹夜漬けでフルコンプリート目指すつもり。 本当は美香夜とやりたい積みゲーあったんだけど、美香夜とやると盛り上がりすぎて叫んじゃうからな……。うるさいなんて言われてゲームまで取り上げられたら生きていけない」
「俺も今日は図書館に籠るかな。 できるだけ接触は控えたい」
続いてサタンが遠い目をしながら窓の外を見つめる。
「僕はいつもの場所で寝るかな……。寝てればすぐ終わってるでしょ」
ベルフェがもぐもぐと食事を食べる。
サタンの方が先に席についていたのに、もう食べ終わりそうだ。
「俺は今日モデルの仕事3本も入ってんだわ」
マモンはD.D.D.の画面を指で操作している。きっとスケジュールを見ているのだろう。
「はぁー。 うまかった。美香夜の飯はやっぱり最高だな」
満足げなベールが立ち上がる。
「本当は今日、美香夜に紹介したい店があったから一緒に行きたかったんだけど、ルシファーからRAD絡みの頼み事されてな。 褒美が予約殺到の煉獄饅頭だって言われたら引き受けざる得なかった……」
食器を片しながらも、ベールが悔しそうに言う。 ……の割にはよだれが垂れている……。
パタン、とベールが静かに扉を閉めて出て行ったあと、ポツリとつぶやく。
「そっかぁ……。みんな予定が詰まってるんだね」
私がシュンとしていると、マモンが突然鼻息を荒くし始めた。
「ま、まぁ! 俺様は大人気で引っ張りだこの超一流読者モデルだが、お前がどうしてもっていうなら、多忙な中時間割いてやってもいいぜ?」
「マモン。 下心見え見え。 これだからバカは嫌だね」
レヴィが蔑んだ目でマモンを制す。
「美香夜、こんな奴と一緒にいると何されるかわからん。行くところないなら、俺と図書館に行くか?」
サタンが優しく私に手を差し伸べる。
しかし、ベルフェがすかさずその手に本を乗せる。
「うぉ?!」
「ほら、サタンが食事の時まで持ち歩いてる本だよ。 足元に落ちていたから拾ってあげたんだ」
「……ベルフェ。俺がいつも足元に本を置いてるって知ってるだろ……」
そんなサタンの怒りの声を遮り、ベルフェが目をキラキラさせて、グイっと身を乗り出す。
「ねぇねぇ美香夜。 それなら一緒に添い寝してよ。 あんたと寝るといつもいい夢見れるんだ。 ……ダメ?」
「はぁ?!ちょ、ま、え、お、え?!ま、前も添い寝したの?!お、お、お、おい、待て待て待て説明kwsk」
「おいおいおい?!初めての男がまだやったことねーことを何ぬけぬけとやってんだぁ?!おいおいおい、俺は許可してねーぞ?!」
レヴィが勢いよく顔を上げ、マモンが叫びながらベルフェの胸ぐらを掴む。
「え、なに。 気づいてないの? バカマモンは変なこと考えてるから嫌がられてるんだよ」
「な、、は、はぁ?!?!お、俺がいつ変なことを考えてるって?!?!
そりゃ腕枕して一緒に寝てみたいとか後ろから抱きしめてドラマ観たいとかあんなことやこんなこと考えてなくもないっつったら嘘だけど!あ、じゃ、なくってだなぁ?!?!」
「思い切り欲望丸出しだな」
サタンがため息をついて宥めようとするも、マモンとベルフェの攻防が止まらない。
「り、り、り、リア充ってどうしてそんな高難易度なイベントを起こせるんだ……。ぼ、ぼ、ぼ、僕だって数々の女の子たちを攻略してきたけど……。一緒にゲームしててもそんなイベント発生しなかったぞ……。どこでフラグ折ってたんだ…?まだ好感度が足りないっていうのか…」
レヴィはというと、白目を向いて何かボソボソとつぶやいている。
「この生意気な弟め!!」
「バカマモン!!」
「お前ら落ち着け!!」
「どうしてリア充って生き物は((ry」
デロデロデロデ~ン
全員のD.D.D.が一斉に鳴る。
それまで喧噪で溢れていた食卓が一気に凍る。
私は恐る恐る新着通知を見る。
画面には一言。
『それ以上騒いだ奴は死刑』
「「「「「……」」」」」
朝の食堂。
いつもどおりの風景。
……ではなく、爽やかな朝に似つかわしくない、重々しい空気が流れていた。
耐え切れず口火を切ったのは、マモンだった。
「お前もわかってるだろ。 『あの』状態のときは絶対に問題を起こすなよ。触らぬ悪魔に祟りなし、だ」
サタンが無表情で朝食をフォークに刺し、口に運ぶ。
しかし、食べる前にぽろっと食事がフォークから零れ落ちる。
何も感じていないように見えるが、先ほどからフォークで刺しては食事が零れ落ちるのを繰り返している。
「大方、原因はあのお殿様だろ?」
レヴィが呆れながら呟く。だが、その目線はずっとD.D.D.を見ている。
「だよねー。もー巻き込まないでほしいんだけどぉー。ストレスはお肌の大敵なんだよねぇ」
食べ終わった食器をお盆に乗せながら、アスモが口を尖らせる。
「とりあえず鏡で僕の美貌でも見て落ち着こうっと」
「ふぁぁ……眠い……」
アスモと入れ違いに、ベルフェが目を擦りながら入ってくる。
ふと、ベルフェが歩みを止め、眉間に皺を寄せて席に座る兄弟たちを凝視する。
「……え、なにこの空気。 しんどいんだけど」
「おはようベルフェ。あと少し遅かったらお前の分も食べちゃってたぞ」
ベールはいつも通り、口に頬張りながらフォークを持った手でベルフェに手を振る。
「ベール以外、顔が暗すぎるんだけど」
「お前、チャット見て言ってんのか?!」
マモンが勢いよく立ち上がる。
「マモン。 あの時既読数が1つ足りなかっただろ。 ベルフェはまだ見てないんだ」
その様子をレヴィが諭す。
相変わらず目線はD.D.D.のままだ。
「チャット?」
「ベルフェ。 とりあえず座って食事をとるがいい。 俺が説明しよう」
サタンがベルフェの席を指さし、座るように促す。
こくんとうなずいたベルフェは、私に目配せする。
私は返事をするように頷き、そして食事が置かれていない席に視線を移した。
「……まぁ、簡単に言うと、ルシファーが二日酔いになった」
「うわぁ……」
その一言を聞いた瞬間、ベルフェの顔が暗くなった。
サタンは相変わらず食事が減っていない。
「さ、サタン……さっきから食べられてないけど、大丈夫?」
さっきから変わらぬ行動に心配になって声を掛けてみる。
「なにを言ってるんだ、美香夜?俺は至って普通だが?」
怪訝そうな顔をして手を止める。
その勢いで、フォークがべしょっ、と曲がった。
「いや、動揺してんじゃん。 フォーク乙」
やっとD.D.D.から目を外したレヴィが、今度はサタンのフォークに向かってD.D.D.を向けている。
「撮ろうとするな、レヴィ」
「ははは……。 ね、ねぇ。なんでルシファーが二日酔いってだけでこんなにみんな怖がってるの?」
ずっと気になっていたことを口に出す。
途端、まるで打ち合わせをしたかのように、全員が動きを止めた。
「お前……。ルシファーの二日酔いの恐ろしさを知らないんだな」
マモンが両肘をテーブルにつき、両手を顔の前で組んで上目遣いに私を見る。
まるでこれから怪談話でもするかのようだ。
「特別にこの優しいマモン様が教えてやろう……。
ルシファーはな、二日酔いになると、途端に自制が効かなくなるんだ」
「自制?」
私は首を傾げて聞き返す。
マモンは深く頷き、深呼吸する。
「ああ。
チャットでも分かっただろうが、ルシファーが二日酔いの状態で口が悪くなったときは、ドS剝き出しで暴言、魔力、すべてが解放されるんだ」
マモンは何かを思い出したのか、震えながら自分の肩を抱きすくめた。
「うう……。思い出しただけでも身震いするぜ……」
「マモン。 くどい。 もっとはっきり言えって」
「なっ?!」
芝居がかったマモンに面倒くさくなったのか、レヴィがスパッと遮る。
「この前、二日酔いになったルシファーは家にずっと籠りきりで、食事も来なかったんだ。誰とも話さず。ただ、唯一チャットで「頭が痛いから面倒を起こすな。」とか言っちゃって」
そしてレヴィが顔を曇らせたサタンとベルフェを交互に見る。
「そんでもって、弱ったところを襲えるチャンスだ!って盛り上がったこの二人が寝込みを襲いにルシファーの部屋へ行ったんだ。
だけど相手はルシファー。抜かりなく対策していた挙句、普段なら使わない魔力まで使ってサタンには目くらまし、ベルフェには眠れない魔法をかけて撃退したってわけ」
「うわぁ……」
端から聞いたらこの大変さが伝わらないかもしれないが、本を読むことが生きがいのサタンと寝ることが生きがいのベルフェにとっては苦痛でしかなかっただろう。
二人が漫画のようにどよん…と青筋を立てて落ち込んでいる。
「とどめがこのバカ。」
レヴィがマモンを鋭く睨みつける。
マモンは悪戯が見つかった子供のように「うっ」と顔を歪ませ、後ろに仰け反った。
「その直後、殿下にルシファーの伝言を伝えに行ったマモンが、殿下の家の高そうな調度品をいくつかくすねたんだよ。
でもあっという間にバルバトスに見つかって、報告を聞いたルシファーが大激怒。
マモンのクレジットカードは即取り上げられて凍結。
さらにこれ以上問題を起こさせないようにって、無害な僕たちにまで、ルシファーが満足するまでD.D.D.の使用禁止、さらにお金まで没収……!」
レヴィが絶望した表情になり、頭を抱えてテーブルに突っ伏す。
そしてドン!と力強くテーブルを叩く。
それを見逃さなかったベールが、口をもごもごと動かしながらもお皿をひょいっと持ち上げ、回避する。
「その日は『花ルリたんプラスαドラマCD限定販売〜花ルリたん非公開設定イラスト集特典付〜』の発売日だったのに……!!」
うぁぁぁぁぁと泣き叫ぶレヴィを止める者はおらず、なんだか地獄絵図のような食卓になってしまった(ベール以外)。
ふと、ベルフェが私を見る。
「ねぇ、昨日ルシファーと掃除してたよね。 美香夜は何があったか知らないの?」
今度は私が「うっ」と言葉を詰まらせる。
まさか私が原因で(持ち掛けられたとはいえ)こんな地獄絵図になっているとは言えない……。
「さ、さぁ……掃除が終わってからは会ってないか…も…多分」
ははは、と乾いた笑いが出る。
自分でも動揺している気がして、慌てて話題を切り替える。
「あ、ね、ねぇ!今日はRADお休みだよね!みんなはこれからどうするの?」
わざと明るく話したが、自分でも感じる。 わざとらしすぎる……。
しかし、レヴィがテーブルから顔を上げずに反応する。
「……今日は新作のゲームが届いたから、徹夜漬けでフルコンプリート目指すつもり。 本当は美香夜とやりたい積みゲーあったんだけど、美香夜とやると盛り上がりすぎて叫んじゃうからな……。うるさいなんて言われてゲームまで取り上げられたら生きていけない」
「俺も今日は図書館に籠るかな。 できるだけ接触は控えたい」
続いてサタンが遠い目をしながら窓の外を見つめる。
「僕はいつもの場所で寝るかな……。寝てればすぐ終わってるでしょ」
ベルフェがもぐもぐと食事を食べる。
サタンの方が先に席についていたのに、もう食べ終わりそうだ。
「俺は今日モデルの仕事3本も入ってんだわ」
マモンはD.D.D.の画面を指で操作している。きっとスケジュールを見ているのだろう。
「はぁー。 うまかった。美香夜の飯はやっぱり最高だな」
満足げなベールが立ち上がる。
「本当は今日、美香夜に紹介したい店があったから一緒に行きたかったんだけど、ルシファーからRAD絡みの頼み事されてな。 褒美が予約殺到の煉獄饅頭だって言われたら引き受けざる得なかった……」
食器を片しながらも、ベールが悔しそうに言う。 ……の割にはよだれが垂れている……。
パタン、とベールが静かに扉を閉めて出て行ったあと、ポツリとつぶやく。
「そっかぁ……。みんな予定が詰まってるんだね」
私がシュンとしていると、マモンが突然鼻息を荒くし始めた。
「ま、まぁ! 俺様は大人気で引っ張りだこの超一流読者モデルだが、お前がどうしてもっていうなら、多忙な中時間割いてやってもいいぜ?」
「マモン。 下心見え見え。 これだからバカは嫌だね」
レヴィが蔑んだ目でマモンを制す。
「美香夜、こんな奴と一緒にいると何されるかわからん。行くところないなら、俺と図書館に行くか?」
サタンが優しく私に手を差し伸べる。
しかし、ベルフェがすかさずその手に本を乗せる。
「うぉ?!」
「ほら、サタンが食事の時まで持ち歩いてる本だよ。 足元に落ちていたから拾ってあげたんだ」
「……ベルフェ。俺がいつも足元に本を置いてるって知ってるだろ……」
そんなサタンの怒りの声を遮り、ベルフェが目をキラキラさせて、グイっと身を乗り出す。
「ねぇねぇ美香夜。 それなら一緒に添い寝してよ。 あんたと寝るといつもいい夢見れるんだ。 ……ダメ?」
「はぁ?!ちょ、ま、え、お、え?!ま、前も添い寝したの?!お、お、お、おい、待て待て待て説明kwsk」
「おいおいおい?!初めての男がまだやったことねーことを何ぬけぬけとやってんだぁ?!おいおいおい、俺は許可してねーぞ?!」
レヴィが勢いよく顔を上げ、マモンが叫びながらベルフェの胸ぐらを掴む。
「え、なに。 気づいてないの? バカマモンは変なこと考えてるから嫌がられてるんだよ」
「な、、は、はぁ?!?!お、俺がいつ変なことを考えてるって?!?!
そりゃ腕枕して一緒に寝てみたいとか後ろから抱きしめてドラマ観たいとかあんなことやこんなこと考えてなくもないっつったら嘘だけど!あ、じゃ、なくってだなぁ?!?!」
「思い切り欲望丸出しだな」
サタンがため息をついて宥めようとするも、マモンとベルフェの攻防が止まらない。
「り、り、り、リア充ってどうしてそんな高難易度なイベントを起こせるんだ……。ぼ、ぼ、ぼ、僕だって数々の女の子たちを攻略してきたけど……。一緒にゲームしててもそんなイベント発生しなかったぞ……。どこでフラグ折ってたんだ…?まだ好感度が足りないっていうのか…」
レヴィはというと、白目を向いて何かボソボソとつぶやいている。
「この生意気な弟め!!」
「バカマモン!!」
「お前ら落ち着け!!」
「どうしてリア充って生き物は((ry」
デロデロデロデ~ン
全員のD.D.D.が一斉に鳴る。
それまで喧噪で溢れていた食卓が一気に凍る。
私は恐る恐る新着通知を見る。
画面には一言。
『それ以上騒いだ奴は死刑』
「「「「「……」」」」」