東奔西走~刀剣迷走録~
「今回はどこの本丸も優しい奴らだったな」
そう感慨深げに呟いて、薬研藤四郎は今回の任務で訪れた本丸を思い返していた。
それは夏の始まる前だった。
大侵寇の後、複数の本丸から審神者が消えたとクダギツネから報告が上がり今回の任務は始まった。
不在の審神者に代わり該当の本丸の刀剣男士の手入を請け負った藤代はおよそ三ヶ月を掛けてその役目を果たし、そして現在その報告書の作成に追われている。
「そうですね。物量はエグかったけど皆さん手入に協力的だったので、仕事としても易しかったです。いつもこんな感じならいいんですけど」
パソコンから目を話さずに返事をする藤代は笑っているが顔色はあまり良くない。夏場でも日焼けのしていない色白は血色が悪く、長期間の集中手入の疲れが抜けきらないのだろうと薬研はその横顔を見ながら思う。
「行方知れずの審神者は13名。手入を必要とした刀剣男士は994振りだったな」
その膨大な刀数を口にして改めて薬研は「物量のエグさ」におののいた。
およそ千振り近い刀剣の手入を藤代は弱音も吐かずにやり遂げた。それもこの任務の前には大侵寇の急襲を受けた本部での手入も行っている。
手入の労力に加え、移動や暑さによる体力消耗、慣れない場所での寝食は肉体的にも精神的にも堪えたことだろう。
それを力が弱いために「審神者モドキ」の扱いを受ける一人の刀剣研磨役が成し遂げたのだ。
「俺は大将が恐ろしいよ」
自然と口に出てしまった言葉に薬研はしまったと口を噤んだ。
「恐ろしい?優しいの間違いでしょう」
しかし藤代は愉快そうに言葉を返すと薬研を見た。
小さな簡易テーブルで作業をする藤代の、その右脇に備え付けられたベッドに薬研は深く腰かけていた。
まるで自分の部屋のような無遠慮さだが、今さらとやかく言ってこないことを薬研は知っている。
本部で寝起きする審神者の数は膨大だ。与えられる私室も四畳半と狭くベッドが部屋の大半を占めてしまっているため、突然の訪問者に寝床をソファ代わりにされることを部屋の主は諦めているのだ。
「それともう一つ。俺をそう呼ぶのも間違いです」
「ん?」
人差し指を向けられて薬研は首を傾げる。
「任務は終わりました。今はただのシロですよ」
それは薬研達が彼を呼ぶ時の、本名とは別の愛称だった。正確に言えば彼に本名はない。名のない幼子を最初にそう呼んだのは誰だったのか薬研も覚えていないが、「藤代」となってからも薬研達はずっとそう呼んだ。そして今その呼び方に戻そうとしてくる青年に薬研はふっと鼻を鳴らす。
「報告書を提出するまでが任務だぜ?たーいしょ」
「・・・」
わざとらしく強調して言えば嫌な顔をされたが薬研は気にしない。
「任務終了の報告をした昨日の時点で、大将とやらの権利は面倒を押し付けてきたあのじいさんに戻ってますけど?」
「さぁて?そいつはどうだろうな」
「いや、どうだろうなって・・・」
言いかけて藤代は言葉を止めた。
ひどく疲れたような顔で薬研を見るのは、何を言ってもあれやこれやと言い訳を考えてきていることを察したのか、はたまた注意し続ける気力もないのか。結局言葉を続けないまま面倒そうに「早く終わらせよう」と再びパソコンに顔を向けてしまった。
「とは言え、無理はすんなよ。昨日の今日であんま休めてないんだろ?」
「お気遣いありがとうございます。テキトーに仕上げて休ませてもらうつもりなんで大丈夫です…つか本部じゃ引っ張りだこの刀がこんなところで油売ってる方が大丈夫なんですか?」
「あぁ、心配すんな。他の連中はさっそく審神者に捕まって出払ってるが、俺はあれこれ理由こさえてうまく断ってきてやったぜ?」
「へぇ・・・」
迷惑そうに横目で見られても薬研は気にしない。
「だから今日はあんたが少しでも早く休めるように手伝わせてくれ。記憶力には少し自信があるんだ。報告漏れがあれば気付けるかもしれねぇ。だろ?」
「・・・あー確かに。薬研さんの記憶力は意味不明すぎて恐怖すら感じるレベル」
「なんつった?」
「何でもないです」
指摘すれば即座に口を噤む藤代に薬研は小さくため息を吐いた。
彼の言う「意味不明な記憶力」とは、任務中の手入にかかる時間を少しだけ早めたことを薬研が見抜いたことであり、事実ほんの僅かな違いのそれを薬研以外は誰も気付くことは出来なかった。
「俺より大将の記憶力の方が意味不明だと思うがな。手入道具使えねぇからって俺達の本体すべて記憶しようとか普通考えねぇって」
「何を今さら…それは仕方ないじゃないですか。手入道具ってあれ使うとすごい疲れるんです。一人もまともに手入出来ないなら使う意味ないですよ」
「審神者の補助のためにあるはずなんだがなぁ」
「そうなんですよねぇ」
首をかしげる薬研の言う通り、手入道具には審神者の補助をする役割があった。
その一つに打ち粉なるものがあり、それには刀剣男士の万全な状態が記録されている。審神者が力を込めれば完全修復出来る術が仕込まれており、その便利さは多忙な審神者の助けとなる・・・はずなのだが、
「そんな万能アイテム俺だって使えるなら使いたいですよ!でも使えないから仕方なく、仕方なくっ」
話している内に辛酸を嘗めた遠き日を思い出してしまったらしく頭を抱える藤代の背中を薬研は優しく叩いてやった。
「まぁまぁ。大将の売りは少量の力で、手早く、動ける状態に出来るってとこだからな。仕事と能力が合致して良かったな」
「・・・聞こえがいいように言いますけど、俺のは損傷の酷い部分だけに力を使って最低限動ける状態にする応急処置的なやり方です。特に今回のような複数の本丸を回る時なんて完治は目指せないし、なのに、なんでバレたのか。・・・俺は生活のために必要だったから覚えたという理由がある分、意味不明さでは薬研さんには負けますよ」
「勝負してたわけじゃないんだがなぁ」
しかしその意味不明な記憶力のおかげと言うべきか、せいと言うべきか、薬研達は政府のやらかしに気付いてしまい、今はそれに気付いていないふりをしなければならない状況にいた。
「大将…報告書に余計なことを書かないでくれよ?半端な正義感は身を滅ぼす」
政府のやらかし。それはまだ駆け出しの審神者達に説明も了承もなく"引き継ぎを待つ刀剣男士"を"新刀剣男士"として譲り渡していたことだった。
審神者が政府本部と交わした約款には、戦力補填の為に本部で保管している刀剣男士を譲り渡すことは可能とされているが、それには刀剣管理局から十分な説明を受けそれを了承、承認印付きの証文を受け取り初めて譲渡は完了となる。
それを抜きに騙すような形での悪質な譲渡は重大な不正行為に当たるのだが、力のない刀剣研磨役では妄言だと相手にされず、最悪無名の人間をいなかったことにするのもまた上にとっては造作もない。
うかつな言動はしないに越したことはなかった。
「へいへい、分は弁えてますよ。と言うか俺は最初から手入しかしてませんし、あんたらにもずっとそう言ってたはずですけどね」
「ははっ、そうだった」
その言葉の通り、藤代は最初から最後まで本丸のことには自分達が介入すべきではないと主張し続け、自分の仕事に専念していた。
本丸のことは本丸の人達が決めることだ、と。
「ここには本丸の手入は滞りなく終えたことだけを報告しますよ」
「ん。そうしてくれ」
にっと笑い返事をする薬研は、眠そうな淡緑の瞳を画面に向ける横顔を眺める。
薬研は藤代が慎重な性格であることを知っている。
思ったことがすぐ口に出て薬研達に悪態をつくこともあるが、それは慎重になる必要がない相手だと判断しているからだ。どの程度の言動が許されるのか、相手との距離を測るこの人が自分の首を締めるような真似はしないことを薬研は知っていた。
「後日譚を語るのは俺の役割ではないですからね」
こういうところを薬研は信頼している。
一一一一一一一一一一一一一一一
「忙しいところ集まってもらって悪かったねぇ」
のんびりとした老人の声に迎えられて、薬研は声の主の元へと歩みを進める。
すでに四振りの先客が立ち並ぶその端に立てば、眼鏡の奥の青い瞳がこちらを見て笑みを深くした。
「シロは?」
「報告書を送信してからぶっ倒れた」
老人にそう答えれば、「えっ!?」と四振りが一斉に薬研に顔を向け、老人はそうか、そうかと頷いていた。
「青実よ、笑っている場合ではないだろう。悪いが、俺は外させてもらおう」
「待ちなさい、三日月。薬研が見ていたんだから大丈夫だよ。ねぇ?」
部屋を出ようと踵を返す三日月宗近を老人・青実 は呼び止め、薬研に説明を求めた。
「あぁ呼吸も脈も問題ない。気絶してるみてぇに寝てるだけだ。ちゃんと布団に押し込んどいたから安心してくれていいぜ」
「ほらね。表現に乱暴なところはあるけど薬研は面倒見がいいんだから、心配ないよ」
その言葉で三日月を戻すと、青実は一同に顔を向けて穏やかに微笑んだ。
「では改めて、長期任務お疲れ様。いやぁ任務が無事済んで良かったねぇ。僕も嬉しいよ」
労いの言葉に一同は頭を下げる。
下げた視線の先には豪奢な刺繍を施された重厚な絨毯が目に入る。青実の趣味ではない。けれど立場上厳格な雰囲気を必要とされ調えられた執務室は冷厳な空気に満ちている。
「本当に嬉しいことがあったんだ。お前達も聞いてるかもしれないけど、行方不明だった審神者の子達が見つかったんだってねぇ。捜索していた調査隊が本丸周辺で保護したらしいよ。良かったねぇ」
冷厳な執務室に不釣り合いなほど心から嬉しく思っている青実の言葉は温かい。
青実の話しは薬研達も聞いていた。
昨日、最後の本丸の手入を終わらせた藤代が帰還している途中でクダギツネが現れ、教えてくれたのだ。
自分達も関わっていた本丸であり、クダギツネから調査状況を聞くなど交流はあったが、それだけでわざわざ知らせに来るほど仲間意識の強いキツネではない。
「すべての審神者が同じ日に見つかるなんて偶然あるんだねぇ。奇跡だよねぇ」
にこにことしながら一人一人の顔を見るその目が薬研にも向けられる。
偶然でも奇跡でもない。
本丸の者達が意図的に審神者を連れ出したのだ。それも調査隊に気付いてもらえる場所へ。
それは誰の目から見ても怪しんでくれと言っているようなもので、だからクダギツネも藤代の元へ現れた。
一一タイミングが良すぎる
一一共謀していたんじゃないか?
言外にそう怪しまれたが、藤代は審神者が見つかったことの喜びとクダギツネには感謝の言葉のみを送り丁重にお帰りいただいていた。
青実もまた偶然でも奇跡でもないと分かっている。
しかし薬研達は主とは言え審神者の頭役であるこの男に刀剣男士が審神者を隠した目的、その推察を話すわけにはいかなかった。
「審神者が見つかったことは俺達も心より安堵しています。審神者の捜索は我々の任務ではないとは言え、同じ本丸での出来事でしたから…。主不在の臣下の心中は察するに余り有るものです」
そう言葉を返したのはへし切長谷部だった。
背筋を伸ばし真剣な眼差しを向けるその姿を薬研は久しぶりに見た気がした。
嘘を付いているわけでもないのに、主であった藤代の言うことを聞かないどころか問い詰めて、本丸の刀剣男士達の緩慢な態度に苛立っていた姿を知っているためその言葉がとても嘘くさく聞こえてしまう。
「ピシッとしてる長谷部さん、久しぶりに見たかも」
「だな」
隣に立つ乱藤四郎が同じことを思ったようで、目を丸くして言うのに苦笑していると、「主の御前だ。口を慎め」と叱られてしまった。
「おやおや、へし切はシロを主と認められなかったのかい?」
そのやり取りを見て青実は意外そうな顔をして、長谷部が仲間内と変わらない態度で任務に当たっていたことを不思議がった。
「認めています。ただ、今さら態度を変えてはあいつも混乱するでしょう。任務に支障が出る可能性があるのなら普段通りが最適解と判断しました」
「ああ、そうだったんだね」
「・・・が、このような勘違いをさせてしまうのなら先に主の判断を仰ぐべきだったのかもしれませんね」
頭を下げる長谷部に執務机に肘を置く青実は、にこやかに微笑み首を横に振る。
「僕はあの子に三日月をあげた。これはね、一端の審神者だって認めた証なんだよ。だから今回の任務は僕の弟子としてじゃなくて審神者として行ってもらったわけで、僕がお前にこうしたらいいよ、こうしなきゃダメだよ、なんて言えないんだよ」
青実の老人特有のしわがれ声は不思議と耳に入りやすく心地がよい。
そう思うのはその声色が青実その人を表しているだけでなく、彼が薬研達を現世に呼んだ絶対的な主であるためで、言葉や表情、動作のひとつひとつに薬研達が忠誠を誓うに足る安心感を与えた。
けれど巨大な本丸システムを構築している本部の中では、刀剣男士は自分達を顕現させた者だけを主として見ることを許されない。
大勢の審神者が役割を分担している組織である以上、薬研達は青実から貸し出され別の審神者を「主」と呼び従う仕組みを受け入れなければならなかった。
「だから変える変えないはあの子と相談しなさいね」
自分の生徒を諭すように、本部の審神者として語りかける青実に長谷部はもう一度頭を下げた。
「話が脱線してしまったね。ええっと…何の話をしていたのかなぁ」
「審神者が見つかったってはなしだよ」
乱が促せば青実はうんうんと頷く。
「そうだったね。喜ばしいことだよ。体に痛いところはないって話だから安心したよ。少しだけ意識の混濁が見られて、何ヵ月も何処で過ごしていたのか思い出せないようだけどね…」
「何処にいたのか分かっていないのか?」
青実の語る審神者達の様子に口を開いたのは山姥切国広だった。あれだけ長い期間を本丸から離れて分からないはずがない、と疑うような目をしている。
「うん。知らない屋敷に居たと言う子もいたようだけど殆どの子は何処で何をしていたのか分かってない様子だねぇ。時間感覚も狂ってるみたいで、何より精神状態が良くない。それぞれ近くの支部で療養中だよ」
「精神・・・」
青実がここまで審神者の状態を知っているのは調査隊から逐一報告が来ているからだろう。
そのため審神者は嘘を吐ける状態でないと分かる。
むしろ今回の件に審神者は関わっているのかも怪しくなった。
仮に審神者達が三日月の白い世界に匿われていたのだとしたら、長時間の滞在は人間である審神者には毒となるのだろうか。
そうであるなら精神が不安定になっていく審神者を前に、三日月宗近は何を思って隠し続けていたのか一一
自分達の推測は不十分な情報から組まれたもので抜けがあり、そもそも根本が違う可能性に薬研が思案にしていると、
「それでねぇ、ここからが本題なんだけど」
ぱんと青実が手を打って言葉を続ける。
「今日呼んだのは、後始末のことで話しておきたいことがあったからなんだ」
「後始末?」
「みんなにお願いしていた任務の方だね」
「主、和泉守は呼ばなくていいのか」
長期任務には和泉守兼定も編成に組まれていたが、その姿が今はない。
任務に関係することなら呼んだ方がいいだろう。薬研もそう思って自分が探して連れてこようか提案しようとした。しかし、
「和泉守はないしょ話に向いてない子だからね」
だから呼んでいないと青実ははっきりと言う。
「ないしょ話・・・?」
「うん、そう。仲間外れみたいで可哀想だけど、これは信頼とはまた別の、刀剣の持つ個性の問題なんだよね。お前達も本丸の子達が本丸を解体したがってるって考えたけど、和泉守にはその事を話していないんでしょ」
「!?」
青実の言葉に薬研は目を見開いた。
昨夜の任務報告時や先程提出した報告書にも、その内容は手入を無事終えたことしか伝えていない。
藤代がまかり間違って余計な文言を加えないか薬研は自分の目で間違いなく確認した。
それなのに見てきたかのようにそれを口にする青実に薬研は驚きを隠せない。他の四振りも同じ顔をしていた。
「作戦上、敢えて情報を共有しないことはよくあることだよね。実直で熱い闘志を持った和泉守は本丸のやり方を許せないはずだよ。「どうして審神者を探さない?」「どうして平気な顔をしている?」と掴みかかるくらいはしてそうだけど…まぁ、それが和泉守だよね。だから「どうして本丸を手放そうとする?」と問い詰めてこない様子を見せれば相手も油断するからね、いい手だと思うよ」
滔々と語る老人の言葉に薬研は声を出せずにいた。本当に見てきたかのように話すがあの場にはいなかったことは言うまでもなく、目となり耳となる式神を使役出来る力はこの老人にはない。
「適材適所だよ。自分達の出来ることと出来ないことをよく理解していて、とてもいいねぇ」
自分達を褒める青実の声が薬研の耳には入らなかった。
解体の件を知っているということは、そう結論付けるまでの過程も青実は知っている。では誰が彼に伝えたのか。審神者を捜索していた調査隊か。あり得ない。彼らもまた力の弱い審神者の集団だ。彼らの気配に自分達が気付けないわけがない。何匹かのクダギツネも放たれてはいたが、それも今はどうでもいい。
薬研は血の気が引いていた。
どこから洩れたのかはこの際思考するだけ無駄だった。
「引き継ぎ」のことが青実経由で上層部の耳に入る可能性が出てきてしまったのだ。気付いていないふりをしなければいけないと薬研は当人と話し合ったばかりなのに。
「主か」
茫然とする薬研の耳に聞こえたのは三日月の声だった。
「主が貴殿に事のすべてを話したのだな」
「・・・は?」
三日月の言葉が薬研には理解出来なかった。
話せば自分の首が飛ぶと言った本人が情報を洩らすとはどういうことか。
藤代はずっと本丸の事情には触れず、自分の仕事に専念することで自分の分を守っていた。
藪をつついて蛇を出す行為を厭うはずだ。
それなのに何故、と困惑する。
「適材適所だよ」
穏やかなしわがれ声が薬研達を見回す。
「大丈夫。ないしょ話と言っただろう?敏いあの子はね、本丸の子達が最悪の未来に向かおうとしているって気付いたんだ。だけどそれを止める力が自分にないことをよぉく知っているんだよ」
「最悪の…?」
長谷部の呟きが聞こえる。
最悪の未来。審神者の心を守るために本丸を解体することが本丸の者達の目的だとすれば、それは最悪の未来と呼ぶのだろうか。
しかしこれは自分達の推察だ。そもそもの根底が違うのであれば、本丸の目的は別にある。本丸が失くなった後の、もっと先の、未来に・・・?
「だから僕を頼った。僕にはそれを止める力…"発言力"があるからねぇ。だてに長いことお偉いさんやってないんだよ」
どこか嬉しそうな青実の言葉に薬研達は置いてかれている気持ちになる。
それを見て笑みを深めた青実は言葉を続けた。
「さぁ、お前達に優しい優しい神様達の後日譚を聞かせてあげよう」
そう感慨深げに呟いて、薬研藤四郎は今回の任務で訪れた本丸を思い返していた。
それは夏の始まる前だった。
大侵寇の後、複数の本丸から審神者が消えたとクダギツネから報告が上がり今回の任務は始まった。
不在の審神者に代わり該当の本丸の刀剣男士の手入を請け負った藤代はおよそ三ヶ月を掛けてその役目を果たし、そして現在その報告書の作成に追われている。
「そうですね。物量はエグかったけど皆さん手入に協力的だったので、仕事としても易しかったです。いつもこんな感じならいいんですけど」
パソコンから目を話さずに返事をする藤代は笑っているが顔色はあまり良くない。夏場でも日焼けのしていない色白は血色が悪く、長期間の集中手入の疲れが抜けきらないのだろうと薬研はその横顔を見ながら思う。
「行方知れずの審神者は13名。手入を必要とした刀剣男士は994振りだったな」
その膨大な刀数を口にして改めて薬研は「物量のエグさ」におののいた。
およそ千振り近い刀剣の手入を藤代は弱音も吐かずにやり遂げた。それもこの任務の前には大侵寇の急襲を受けた本部での手入も行っている。
手入の労力に加え、移動や暑さによる体力消耗、慣れない場所での寝食は肉体的にも精神的にも堪えたことだろう。
それを力が弱いために「審神者モドキ」の扱いを受ける一人の刀剣研磨役が成し遂げたのだ。
「俺は大将が恐ろしいよ」
自然と口に出てしまった言葉に薬研はしまったと口を噤んだ。
「恐ろしい?優しいの間違いでしょう」
しかし藤代は愉快そうに言葉を返すと薬研を見た。
小さな簡易テーブルで作業をする藤代の、その右脇に備え付けられたベッドに薬研は深く腰かけていた。
まるで自分の部屋のような無遠慮さだが、今さらとやかく言ってこないことを薬研は知っている。
本部で寝起きする審神者の数は膨大だ。与えられる私室も四畳半と狭くベッドが部屋の大半を占めてしまっているため、突然の訪問者に寝床をソファ代わりにされることを部屋の主は諦めているのだ。
「それともう一つ。俺をそう呼ぶのも間違いです」
「ん?」
人差し指を向けられて薬研は首を傾げる。
「任務は終わりました。今はただのシロですよ」
それは薬研達が彼を呼ぶ時の、本名とは別の愛称だった。正確に言えば彼に本名はない。名のない幼子を最初にそう呼んだのは誰だったのか薬研も覚えていないが、「藤代」となってからも薬研達はずっとそう呼んだ。そして今その呼び方に戻そうとしてくる青年に薬研はふっと鼻を鳴らす。
「報告書を提出するまでが任務だぜ?たーいしょ」
「・・・」
わざとらしく強調して言えば嫌な顔をされたが薬研は気にしない。
「任務終了の報告をした昨日の時点で、大将とやらの権利は面倒を押し付けてきたあのじいさんに戻ってますけど?」
「さぁて?そいつはどうだろうな」
「いや、どうだろうなって・・・」
言いかけて藤代は言葉を止めた。
ひどく疲れたような顔で薬研を見るのは、何を言ってもあれやこれやと言い訳を考えてきていることを察したのか、はたまた注意し続ける気力もないのか。結局言葉を続けないまま面倒そうに「早く終わらせよう」と再びパソコンに顔を向けてしまった。
「とは言え、無理はすんなよ。昨日の今日であんま休めてないんだろ?」
「お気遣いありがとうございます。テキトーに仕上げて休ませてもらうつもりなんで大丈夫です…つか本部じゃ引っ張りだこの刀がこんなところで油売ってる方が大丈夫なんですか?」
「あぁ、心配すんな。他の連中はさっそく審神者に捕まって出払ってるが、俺はあれこれ理由こさえてうまく断ってきてやったぜ?」
「へぇ・・・」
迷惑そうに横目で見られても薬研は気にしない。
「だから今日はあんたが少しでも早く休めるように手伝わせてくれ。記憶力には少し自信があるんだ。報告漏れがあれば気付けるかもしれねぇ。だろ?」
「・・・あー確かに。薬研さんの記憶力は意味不明すぎて恐怖すら感じるレベル」
「なんつった?」
「何でもないです」
指摘すれば即座に口を噤む藤代に薬研は小さくため息を吐いた。
彼の言う「意味不明な記憶力」とは、任務中の手入にかかる時間を少しだけ早めたことを薬研が見抜いたことであり、事実ほんの僅かな違いのそれを薬研以外は誰も気付くことは出来なかった。
「俺より大将の記憶力の方が意味不明だと思うがな。手入道具使えねぇからって俺達の本体すべて記憶しようとか普通考えねぇって」
「何を今さら…それは仕方ないじゃないですか。手入道具ってあれ使うとすごい疲れるんです。一人もまともに手入出来ないなら使う意味ないですよ」
「審神者の補助のためにあるはずなんだがなぁ」
「そうなんですよねぇ」
首をかしげる薬研の言う通り、手入道具には審神者の補助をする役割があった。
その一つに打ち粉なるものがあり、それには刀剣男士の万全な状態が記録されている。審神者が力を込めれば完全修復出来る術が仕込まれており、その便利さは多忙な審神者の助けとなる・・・はずなのだが、
「そんな万能アイテム俺だって使えるなら使いたいですよ!でも使えないから仕方なく、仕方なくっ」
話している内に辛酸を嘗めた遠き日を思い出してしまったらしく頭を抱える藤代の背中を薬研は優しく叩いてやった。
「まぁまぁ。大将の売りは少量の力で、手早く、動ける状態に出来るってとこだからな。仕事と能力が合致して良かったな」
「・・・聞こえがいいように言いますけど、俺のは損傷の酷い部分だけに力を使って最低限動ける状態にする応急処置的なやり方です。特に今回のような複数の本丸を回る時なんて完治は目指せないし、なのに、なんでバレたのか。・・・俺は生活のために必要だったから覚えたという理由がある分、意味不明さでは薬研さんには負けますよ」
「勝負してたわけじゃないんだがなぁ」
しかしその意味不明な記憶力のおかげと言うべきか、せいと言うべきか、薬研達は政府のやらかしに気付いてしまい、今はそれに気付いていないふりをしなければならない状況にいた。
「大将…報告書に余計なことを書かないでくれよ?半端な正義感は身を滅ぼす」
政府のやらかし。それはまだ駆け出しの審神者達に説明も了承もなく"引き継ぎを待つ刀剣男士"を"新刀剣男士"として譲り渡していたことだった。
審神者が政府本部と交わした約款には、戦力補填の為に本部で保管している刀剣男士を譲り渡すことは可能とされているが、それには刀剣管理局から十分な説明を受けそれを了承、承認印付きの証文を受け取り初めて譲渡は完了となる。
それを抜きに騙すような形での悪質な譲渡は重大な不正行為に当たるのだが、力のない刀剣研磨役では妄言だと相手にされず、最悪無名の人間をいなかったことにするのもまた上にとっては造作もない。
うかつな言動はしないに越したことはなかった。
「へいへい、分は弁えてますよ。と言うか俺は最初から手入しかしてませんし、あんたらにもずっとそう言ってたはずですけどね」
「ははっ、そうだった」
その言葉の通り、藤代は最初から最後まで本丸のことには自分達が介入すべきではないと主張し続け、自分の仕事に専念していた。
本丸のことは本丸の人達が決めることだ、と。
「ここには本丸の手入は滞りなく終えたことだけを報告しますよ」
「ん。そうしてくれ」
にっと笑い返事をする薬研は、眠そうな淡緑の瞳を画面に向ける横顔を眺める。
薬研は藤代が慎重な性格であることを知っている。
思ったことがすぐ口に出て薬研達に悪態をつくこともあるが、それは慎重になる必要がない相手だと判断しているからだ。どの程度の言動が許されるのか、相手との距離を測るこの人が自分の首を締めるような真似はしないことを薬研は知っていた。
「後日譚を語るのは俺の役割ではないですからね」
こういうところを薬研は信頼している。
一一一一一一一一一一一一一一一
「忙しいところ集まってもらって悪かったねぇ」
のんびりとした老人の声に迎えられて、薬研は声の主の元へと歩みを進める。
すでに四振りの先客が立ち並ぶその端に立てば、眼鏡の奥の青い瞳がこちらを見て笑みを深くした。
「シロは?」
「報告書を送信してからぶっ倒れた」
老人にそう答えれば、「えっ!?」と四振りが一斉に薬研に顔を向け、老人はそうか、そうかと頷いていた。
「青実よ、笑っている場合ではないだろう。悪いが、俺は外させてもらおう」
「待ちなさい、三日月。薬研が見ていたんだから大丈夫だよ。ねぇ?」
部屋を出ようと踵を返す三日月宗近を老人・
「あぁ呼吸も脈も問題ない。気絶してるみてぇに寝てるだけだ。ちゃんと布団に押し込んどいたから安心してくれていいぜ」
「ほらね。表現に乱暴なところはあるけど薬研は面倒見がいいんだから、心配ないよ」
その言葉で三日月を戻すと、青実は一同に顔を向けて穏やかに微笑んだ。
「では改めて、長期任務お疲れ様。いやぁ任務が無事済んで良かったねぇ。僕も嬉しいよ」
労いの言葉に一同は頭を下げる。
下げた視線の先には豪奢な刺繍を施された重厚な絨毯が目に入る。青実の趣味ではない。けれど立場上厳格な雰囲気を必要とされ調えられた執務室は冷厳な空気に満ちている。
「本当に嬉しいことがあったんだ。お前達も聞いてるかもしれないけど、行方不明だった審神者の子達が見つかったんだってねぇ。捜索していた調査隊が本丸周辺で保護したらしいよ。良かったねぇ」
冷厳な執務室に不釣り合いなほど心から嬉しく思っている青実の言葉は温かい。
青実の話しは薬研達も聞いていた。
昨日、最後の本丸の手入を終わらせた藤代が帰還している途中でクダギツネが現れ、教えてくれたのだ。
自分達も関わっていた本丸であり、クダギツネから調査状況を聞くなど交流はあったが、それだけでわざわざ知らせに来るほど仲間意識の強いキツネではない。
「すべての審神者が同じ日に見つかるなんて偶然あるんだねぇ。奇跡だよねぇ」
にこにことしながら一人一人の顔を見るその目が薬研にも向けられる。
偶然でも奇跡でもない。
本丸の者達が意図的に審神者を連れ出したのだ。それも調査隊に気付いてもらえる場所へ。
それは誰の目から見ても怪しんでくれと言っているようなもので、だからクダギツネも藤代の元へ現れた。
一一タイミングが良すぎる
一一共謀していたんじゃないか?
言外にそう怪しまれたが、藤代は審神者が見つかったことの喜びとクダギツネには感謝の言葉のみを送り丁重にお帰りいただいていた。
青実もまた偶然でも奇跡でもないと分かっている。
しかし薬研達は主とは言え審神者の頭役であるこの男に刀剣男士が審神者を隠した目的、その推察を話すわけにはいかなかった。
「審神者が見つかったことは俺達も心より安堵しています。審神者の捜索は我々の任務ではないとは言え、同じ本丸での出来事でしたから…。主不在の臣下の心中は察するに余り有るものです」
そう言葉を返したのはへし切長谷部だった。
背筋を伸ばし真剣な眼差しを向けるその姿を薬研は久しぶりに見た気がした。
嘘を付いているわけでもないのに、主であった藤代の言うことを聞かないどころか問い詰めて、本丸の刀剣男士達の緩慢な態度に苛立っていた姿を知っているためその言葉がとても嘘くさく聞こえてしまう。
「ピシッとしてる長谷部さん、久しぶりに見たかも」
「だな」
隣に立つ乱藤四郎が同じことを思ったようで、目を丸くして言うのに苦笑していると、「主の御前だ。口を慎め」と叱られてしまった。
「おやおや、へし切はシロを主と認められなかったのかい?」
そのやり取りを見て青実は意外そうな顔をして、長谷部が仲間内と変わらない態度で任務に当たっていたことを不思議がった。
「認めています。ただ、今さら態度を変えてはあいつも混乱するでしょう。任務に支障が出る可能性があるのなら普段通りが最適解と判断しました」
「ああ、そうだったんだね」
「・・・が、このような勘違いをさせてしまうのなら先に主の判断を仰ぐべきだったのかもしれませんね」
頭を下げる長谷部に執務机に肘を置く青実は、にこやかに微笑み首を横に振る。
「僕はあの子に三日月をあげた。これはね、一端の審神者だって認めた証なんだよ。だから今回の任務は僕の弟子としてじゃなくて審神者として行ってもらったわけで、僕がお前にこうしたらいいよ、こうしなきゃダメだよ、なんて言えないんだよ」
青実の老人特有のしわがれ声は不思議と耳に入りやすく心地がよい。
そう思うのはその声色が青実その人を表しているだけでなく、彼が薬研達を現世に呼んだ絶対的な主であるためで、言葉や表情、動作のひとつひとつに薬研達が忠誠を誓うに足る安心感を与えた。
けれど巨大な本丸システムを構築している本部の中では、刀剣男士は自分達を顕現させた者だけを主として見ることを許されない。
大勢の審神者が役割を分担している組織である以上、薬研達は青実から貸し出され別の審神者を「主」と呼び従う仕組みを受け入れなければならなかった。
「だから変える変えないはあの子と相談しなさいね」
自分の生徒を諭すように、本部の審神者として語りかける青実に長谷部はもう一度頭を下げた。
「話が脱線してしまったね。ええっと…何の話をしていたのかなぁ」
「審神者が見つかったってはなしだよ」
乱が促せば青実はうんうんと頷く。
「そうだったね。喜ばしいことだよ。体に痛いところはないって話だから安心したよ。少しだけ意識の混濁が見られて、何ヵ月も何処で過ごしていたのか思い出せないようだけどね…」
「何処にいたのか分かっていないのか?」
青実の語る審神者達の様子に口を開いたのは山姥切国広だった。あれだけ長い期間を本丸から離れて分からないはずがない、と疑うような目をしている。
「うん。知らない屋敷に居たと言う子もいたようだけど殆どの子は何処で何をしていたのか分かってない様子だねぇ。時間感覚も狂ってるみたいで、何より精神状態が良くない。それぞれ近くの支部で療養中だよ」
「精神・・・」
青実がここまで審神者の状態を知っているのは調査隊から逐一報告が来ているからだろう。
そのため審神者は嘘を吐ける状態でないと分かる。
むしろ今回の件に審神者は関わっているのかも怪しくなった。
仮に審神者達が三日月の白い世界に匿われていたのだとしたら、長時間の滞在は人間である審神者には毒となるのだろうか。
そうであるなら精神が不安定になっていく審神者を前に、三日月宗近は何を思って隠し続けていたのか一一
自分達の推測は不十分な情報から組まれたもので抜けがあり、そもそも根本が違う可能性に薬研が思案にしていると、
「それでねぇ、ここからが本題なんだけど」
ぱんと青実が手を打って言葉を続ける。
「今日呼んだのは、後始末のことで話しておきたいことがあったからなんだ」
「後始末?」
「みんなにお願いしていた任務の方だね」
「主、和泉守は呼ばなくていいのか」
長期任務には和泉守兼定も編成に組まれていたが、その姿が今はない。
任務に関係することなら呼んだ方がいいだろう。薬研もそう思って自分が探して連れてこようか提案しようとした。しかし、
「和泉守はないしょ話に向いてない子だからね」
だから呼んでいないと青実ははっきりと言う。
「ないしょ話・・・?」
「うん、そう。仲間外れみたいで可哀想だけど、これは信頼とはまた別の、刀剣の持つ個性の問題なんだよね。お前達も本丸の子達が本丸を解体したがってるって考えたけど、和泉守にはその事を話していないんでしょ」
「!?」
青実の言葉に薬研は目を見開いた。
昨夜の任務報告時や先程提出した報告書にも、その内容は手入を無事終えたことしか伝えていない。
藤代がまかり間違って余計な文言を加えないか薬研は自分の目で間違いなく確認した。
それなのに見てきたかのようにそれを口にする青実に薬研は驚きを隠せない。他の四振りも同じ顔をしていた。
「作戦上、敢えて情報を共有しないことはよくあることだよね。実直で熱い闘志を持った和泉守は本丸のやり方を許せないはずだよ。「どうして審神者を探さない?」「どうして平気な顔をしている?」と掴みかかるくらいはしてそうだけど…まぁ、それが和泉守だよね。だから「どうして本丸を手放そうとする?」と問い詰めてこない様子を見せれば相手も油断するからね、いい手だと思うよ」
滔々と語る老人の言葉に薬研は声を出せずにいた。本当に見てきたかのように話すがあの場にはいなかったことは言うまでもなく、目となり耳となる式神を使役出来る力はこの老人にはない。
「適材適所だよ。自分達の出来ることと出来ないことをよく理解していて、とてもいいねぇ」
自分達を褒める青実の声が薬研の耳には入らなかった。
解体の件を知っているということは、そう結論付けるまでの過程も青実は知っている。では誰が彼に伝えたのか。審神者を捜索していた調査隊か。あり得ない。彼らもまた力の弱い審神者の集団だ。彼らの気配に自分達が気付けないわけがない。何匹かのクダギツネも放たれてはいたが、それも今はどうでもいい。
薬研は血の気が引いていた。
どこから洩れたのかはこの際思考するだけ無駄だった。
「引き継ぎ」のことが青実経由で上層部の耳に入る可能性が出てきてしまったのだ。気付いていないふりをしなければいけないと薬研は当人と話し合ったばかりなのに。
「主か」
茫然とする薬研の耳に聞こえたのは三日月の声だった。
「主が貴殿に事のすべてを話したのだな」
「・・・は?」
三日月の言葉が薬研には理解出来なかった。
話せば自分の首が飛ぶと言った本人が情報を洩らすとはどういうことか。
藤代はずっと本丸の事情には触れず、自分の仕事に専念することで自分の分を守っていた。
藪をつついて蛇を出す行為を厭うはずだ。
それなのに何故、と困惑する。
「適材適所だよ」
穏やかなしわがれ声が薬研達を見回す。
「大丈夫。ないしょ話と言っただろう?敏いあの子はね、本丸の子達が最悪の未来に向かおうとしているって気付いたんだ。だけどそれを止める力が自分にないことをよぉく知っているんだよ」
「最悪の…?」
長谷部の呟きが聞こえる。
最悪の未来。審神者の心を守るために本丸を解体することが本丸の者達の目的だとすれば、それは最悪の未来と呼ぶのだろうか。
しかしこれは自分達の推察だ。そもそもの根底が違うのであれば、本丸の目的は別にある。本丸が失くなった後の、もっと先の、未来に・・・?
「だから僕を頼った。僕にはそれを止める力…"発言力"があるからねぇ。だてに長いことお偉いさんやってないんだよ」
どこか嬉しそうな青実の言葉に薬研達は置いてかれている気持ちになる。
それを見て笑みを深めた青実は言葉を続けた。
「さぁ、お前達に優しい優しい神様達の後日譚を聞かせてあげよう」
5/5ページ
