とある本丸の日常会話 [完結]

小話その37「刀剣男士はチョコレートが欲しいようです」


一本丸裏庭一
宗近「一一この石段の横辺りにな、植えたいのだ」

藤代「そうですね。ここなら日当たりもいいですし、確かに良さそうです」

宗近「そうだろう。植えるならここしかないと思っていてな。畑に行く者達があの香りに少しでも和やかな気持ちになってくれたら良いのだ」

藤代「はい。では、宗近さんの希望は赤羽様に伝えておきます。希望が通るかどうかは赤羽様の判断次第ですからね」

宗近「審神者殿も花を好む御仁だからな。きっと色好い返事をくれるだろう」

藤代「一一と言うか、俺を通さないで赤羽様に直接言えばいいじゃないですか」

宗近「それがな…いつだったかな。もう一人の俺に『俺の主と話しをするな』と言われてしまってなぁ・・・俺の声はお前を通さねば届かなくなってしまったのだ」

藤代「相変わらず三日月さんの当たりが強いようですが、それを素直に聞く必要もないでしょう。宗近さんはお人好しが過ぎる」

宗近「あっはっはっは。俺はこの本丸のはぐれ者だからなぁ。刀剣男士としての役目も果たせず、畑の神としてのお株も奪われてしまった俺に出来ることは、この本丸で短刀達と遊び、茶飲み仲間と和やかに過ごし、時折庭木の世話をするくらいだ」

藤代「じいさんの一日かよ」

一文字「ほぉ、宗近も隠居の身か。それは良いな!僕も付き合おう」

藤代「こっちのじいさんは何で付いてきたのか分からないし」

一文字「うははは。僕もお前さんに用があってなぁ。聞いてほしいことがあるのだ。そちらの用事が済んでからでいいぞ」

藤代「俺に?・・・宗近さんの用件は済みましたよね」

宗近「ああ。あとは審神者殿によろしく伝えてくれ」

藤代「はい。じゃあ話し、聞きますよ」

一文字「ところで何の相談をしていたのだ?」

藤代「話し戻すのかよ!・・・えぇと、宗近さんが蝋梅という花木なんですが、それを気に入ったようで一一」

一文字「ああ、蝋梅か。知っているぞ。確か青実あおざねが自分の刀剣男士達に今にもほころびそうな枝を与えたはずなのに、そっくりお前さんに渡ってしまったと笑っていたなぁ」

藤代「・・・は?」

一文字「そうかそうか。気に入ったのか。あの者らが聞いたら喜ぶだろうなぁ。顔には出んだろうが」

藤代「ちょっと待ってください!・・・一文字さん、あんたまさか」

一文字「それはそうと、聞いてほしいことなんだがな」

藤代「人の話し聞かないな!?」

一文字「・・・あぁ、立ち話もなんだから縁側に行こう。日の当たるところが良いな。案内せよ」

藤代「このじいさん、自由すぎる~・・・」



一縁側一
一文字「主からちょこれいとが欲しいのだ」

藤代「は?」

一文字「ちょこれいとだ。甘くて溶ける茶色の菓子だぞ?坊主は若いから知っているだろう?」

藤代「知ってますが・・・赤羽様から欲しいって、まさかバレンタインの催促ですか?」

一文字「それだ。もうすぐちょこれいとが貰える日が来るからな。どうせ貰うなら若い娘からが良いと思ったのだ。では頼んだぞ」

藤代「まだ了承してない!てか何で俺に言うんですか。赤羽様に直接言えばいいじゃないですか!」

一文字「坊主…そこに愛はあるんか?」

藤代「え、なに」

一文字「そこに愛はあるんかぁ?!」

藤代「某CMやめろ!!」

一文字「うはははは。催促して貰うなど味気ない、そうだろう?それとなく主に伝えて、僕にこっそり渡すように誘導してほしい。なに簡単なお使いではないか」

藤代「むずかしってか無理!…そもそもバレンタインなんてハイカラな言葉、誰に吹き込まれたんですか。顕現したばかりのあんたが知ってるものじゃないでしょう」

一文字「何を言う。僕はもう一年以上前から現世に呼ばれておったわ」

藤代「え」

宗近「なんと」

一文字「青実に呼ばれてなぁ」

藤代「!」

一文字「あー…ほらあれよ。特命調査。その経路をこじ開けるから手伝えと言われたことから始まり、現地調査の為に刀剣男士達が潜入するのを見送り、そして危険を掻い潜りながら長い時間をかけてようやく大々的にあの特命調査が行われたのよ」

宗近「・・・」

一文字「大元を叩く為の情報や経路の安定化が不十分であれば、まだ審神者には任せられぬからな。どうだ?それだけ現世を謳歌していれば僕がばれん…何とかを知っていてもおかしくはあるまい」

藤代「色々ツッコみたいところはありますが、まさかバレンタインを通して知ることになるとは・・・こんなくだらないことで知りたくなかった」

一文字「くだらなくはない。あれは愛の祭典だ。そして僕はちょこれいとが食べたい」

宗近「則宗よ。その日が来ればチョコレートは食堂に置かれる。そこから自由に持っていくといい。セルフサービスというやつだ」

一文字「一番で縛らぬ主だとは加州ぼうずから聞いてはいたが…義理以上に雑ではないか!あぁ、嘆かわしい。僕は本命が欲しい」

藤代「赤羽様の真心を雑と言わないでください!形にしなくても十分伝わる赤羽様の愛情をわざわざ手ずから用意してくださるそれはどれも本命です!ありがたく受け取るべきです!」

一文字「ふっ…お前さんは清々しいまでに一番に縛られているなぁ。雁字搦めではないか。何を、恐れているのだ」

藤代「は…恐れ?」

一文字「お前さん、青実のとこの坊主だろう?と言っても実の子ではないだろうが。師匠と弟子といったところか」

藤代「・・・」

一文字「青実は政府お抱えの審神者だ。その中でも最も政府に重宝されている…言うなれば後鳥羽院の御番鍛冶、その中でも一際信頼の厚かった則宗のような男よ。其れ故、霊力も並みではない。物語のある刀剣を付喪神として現世に繋ぎ止める、我ら刀剣男士の最初の契約者。それがお前さんの師匠だ」

藤代「よくご存知で・・・でも師匠なんて冗談じゃない。じじいで十分ですよ。人に尻拭いばかりさせるくそじじいだ」

一文字「はっはっ!上手いことを言う。確かに青実はくせ者よ。今は自由にさせてもらっていても、いつか連れ戻されるのではと、お前さんそれを恐れているのではないか?」

藤代「・・・」

一文字「図星だな?この一年の間、呼び戻される数も増えていただろう?何かと理由をつけて、お前さんを手入れの為に呼び寄せていた」

宗近「…くろのすけによる監査もその為か」

一文字「あれは偶々よ。だが長期間坊主を本丸から離す口実にはなる。それを見逃す男ではないよ。あの頃は特に特命調査の下準備の為に負傷者が増えていたからなぁ」

藤代「・・・」

一文字「だが安心しろ。特命調査はこれにて終幕。政府の刀剣男士達が強行軍で傷つくことも、お前さんが頻繁に呼ばれることもそうあるまい」

藤代「あ・・・。・・・そうですか」

一文字「素直に喜べ。僕はそれを伝えに来たのだ。青実に頼まれていたからなぁ」

藤代「・・・。・・・はい。ありがとうございます」

一文字「礼ならちょこれいとで良いぞ」

藤代「え」

一文字「それと蝋梅は植えるように。以上。一一では、じじいは南泉と炬燵で丸くなるかな。うははは」

藤代「えっ、いやちょっと待っ・・・えぇー?!」

宗近「あっはっはっ。これは審神者殿に頼み込むしかなくなったな、主よ」

藤代「あぁ~・・・ったく、赤羽様に余計な苦労をかけたくないのに・・・どうしよう。俺が用意してテキトーに渡すか?」

宗近「それでは満足しないだろうな」

藤代「はぁぁ・・・食えないじいさんが増えちゃったなぁ」


・・・・・・
















いつも以上に捏造度高めでお送りしました。
とりあえず今回の特命調査が終了したことで、藤代も頻繁に外に出ることはなくなると思います(絶対に出ないとは言ってない)。
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