とある本丸の日常会話 [完結]

小話その32「本丸の住人の年の瀬は旅の空のようです」

一縁側一
五月雨「一一・・・雀顔出す 花の中、ですか」

藤代「雀がいるんですか?」

五月雨「!」

藤代「あ、すみません。こんなところでボンヤリ何をしてるのか気になって…雨降ってますけど、雀が雨宿りでもしていましたか」

五月雨「・・・」

藤代「外に何かいたんですか?」

五月雨「・・・」

藤代「名前に雨が付いてるだけあって、雨が気になるとか?」

五月雨「・・・」

藤代「あー・・・答えたくないならいいですけどね」

五月雨「・・・季語を、」

藤代「お」

五月雨「季語を、探していました」

藤代「きご?」

五月雨「四季を感じ取れる情景を、その感動を詠む為に本丸内を探索していたのです。今はここから山茶花の咲き誇る姿が見えた為、一句思い出していました」

藤代「はぁ~」

五月雨「あまり興味がなさそうですね」

藤代「あはは。いや、驚いていただけです。口の重いタイプかと思いましたが意外に話せますね。俳句とか和歌とか、詠む人のその感性は純粋にすごいと思いますよ。俺にはないものです。この雨も、冬の寒さも、ただただ嫌だなーとしか思えないんですよね」

五月雨「それでいいと思います。浮かんだ思いを素直に詠むことが大事なのですから」

藤代「そういうものですか。・・・あ、のんびりしてる場合じゃなかった。すみません、ちょっと人を探していまして知っていたら教えてほしいんですが」

五月雨「私に力になれるか分かりませんが、伺います」

藤代「桑名さん見ませんでしたか?」

五月雨「くわな・・・あぁ、今朝方、江の者と食事を共にしましたがその後の行方までは…しかし、あの者は畑にいることが多いと推測されますが、如何ですか」

藤代「そうですね。俺もそう思いました。この雨、長く続くようですが数日後には雪となるそうで、畑で何か対策してるかもなーって行ってみたんです。でも既に対策済みでいませんでした。部屋にも書庫にも蜻蛉切さんのとこにもいないから、もうどこにいるのやら」

五月雨「他の江のところでは?」

藤代「松井さん以外見つかりませんでした」

五月雨「そうですか」

小夜「一一松井さんの居場所は…知ってるんだ」

藤代「うおっ!?小夜さん!」

五月雨「!」

小夜「驚かせてごめん。…松井さんの居る所、知っているの?」

藤代「あ、はい。松井さん寒がりですから、こたつのある部屋にいることが多くて・・・さっきまで俺の仕事部屋にいましたよ」

小夜「・・・なるほど。ありがとう。・・・あ、それと五月雨さん」

五月雨「はい。私ですか」

小夜「少し、待ってて。・・・すぐ戻るから」

五月雨「?・・・はい」

藤代「なんだ?行っちゃった」

五月雨「あの者は、小夜左文字でしたか・・・歌が名の由来となった刀剣男士ですね」

藤代「歌にあるほど綺麗なものじゃない、と本人は言いますけどね」

五月雨「そうですか。…それにしても、近寄られても気配に気づかないとは、忍として不甲斐ない…」

藤代「まー・・・小夜さん、こっそり近寄るの得意ですからね。小夜さんだけでなく、短刀ってそういうところあります」

五月雨「・・・貴方もです。季語を探していたとは言え、声を掛けられるまで接近に気づきませんでした。精進しなければなりませんね」

藤代「いやー・・・俺の場合、単純に影が薄いとか存在感がないとかそういうやつですけど・・・意識してやってるわけじゃないんで」

小夜「一一・・・お待たせ」

藤代「あ、おかえりなさい」

篭手切「はああっ、いた!いました!小夜さん、ありがとう!」

五月雨「篭手切」

篭手切「五月雨さん、探しました。れっすんです。れっすんの時間です」

五月雨「れっすん…?」

篭手切「一緒に歌って踊れる付喪神を目指しましょう!その為にはれっすんが必要です」

五月雨「歌、ですか」

篭手切「はい!まずはめんばーに集合してもらわなければなりません。松井さんの場所は今、小夜さんから聞きました。あとはりぃだぁと桑名さんを探しましょう」

藤代「いや全然見つけられてないんかい。篭手切さんなら居場所を知ってると思ったんだけどなぁ・・・」

篭手切「あ、藤代。いたんだね」

藤代「いました」

篭手切「その口振りは、誰か探して・・・て、余所行きの恰好だ。外套まで来て、どこかへ出掛けるのかい」

藤代「がいとう…?あ、コートのことか。あ、はい。そうです。出動要せ・・・一一少し野暮用がありまして、数日本丸を離れなければならないんです。桑名さんに言っていかないと後が面倒でしょう?だから探してるんですが、見つからないんですよね。時間ないのに」

篭手切「おや?先月、勤めを果たして帰還したばかりなのに、もう次の任務に行くのだな」

藤代「この時期って特に忙しいんですよね。年末最後の大掃除と思って行ってきます」

五月雨「?・・・勤め、とは」

藤代「あー・・・と、ホントに時間ないや。詳しいことは篭手切さんに聞いてください。篭手切さん、桑名さん見つけたら出掛けること言っておいてください。帰るのは多分年明けです」

篭手切「わかった。気をつけて行ってらっしゃい」

小夜「藤代。…何かあったら復讐は任せて」

藤代「また縁起でもない・・・では、行ってきます!」


・・・・・・


篭手切「一一というわけで、彼は政府からの命で各地を奔走しているわけです」

五月雨「なるほど。南船北馬ですか。各地を巡る旅…羨ましく思います。帰還した折りには旅情を伺えると良いのですが」

小夜「・・・。そんなにいい話しは聞けないと思うよ」



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冒頭の五月雨の口にする句は「あの方」のものではないですが、その句を詠んだ人は五月雨と同じくらい「あの方」を尊敬していると思います。多分。
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