鬱陶かつ親切【財団職員】
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「よし、着いたぞ!降りな。」
エレベーターの頑丈な扉が開き、同乗した警備員に声をかけられた。
「よく考えて降りな。一度降りたら、出口はない。もう2度とお天道様拝めなくなるかもしれないぞ。」
先程までずっと明朗快活に喋り通しだった彼が、若干緊張の面持ちでエレベーターを降りる。
彼を追いかけ扉をくぐると、すぐ後ろで派手な音を立てて通ったばかりの扉が閉まった。
扉の向こうから地鳴りのような振動と共にゴボゴボと海水が流れ込む音がする。
この施設で唯一外へと繋がるエレベーターは今、海水で満たされようとしていることだろう。
もう、逃げ道はない。
私は今回、とある実験を兼ねた試験を行うためにこの施設に訪れることになった。
しかし、個人行動が許されない立場にある私はそのための案内人をあてがわれた。それがこの警備員だった。
「にしても、いつ来ても緊張するねぇ。ここは。ここは初めてなんだって?」
「うん」
「どう!どう!?第一印象は?俺、ここでも働いてんだよ!この施設はだな」
とりあえず適当に頷いておく。
彼は構いたがりなのか、もしくはその逆なのか2人きりになってからずっと喋り通しだ。私が反応を示さなくても関係なし。正直鬱陶しかった。
「なんだ!テンションひくいじゃねぇの!なんか悩み事があったら俺になんでも言ってくれよ!」
それはエレベーターの中から引き続き今も現在進行形である。
「少し静かにしてもらってもいいですか?」
「ん?うるさい?まぁ、いいじゃねぇか!こうして女の子と話せるの久しぶりなんだ!付き合ってくれよ!」
「.......女の子って歳じゃないんですけど。」
「えぇ~。そうなの?何歳?若く見えるけど。あっ、俺はねぇ」
私は隠すことなく大きなため息をつく。
今私はこんな男の話に付き合うどころではなかった。
私は、男を勝手に喋らせておくことにする。
男の話は聞こえていたが、私の頭の中にはこれから会う人物のことでいっぱいだった。
ーー怖い。
本当に死んでしまうかもしれない。
人類を軽視する言葉
人間離れした身体能力
何度殺しても蘇る身体
殺人を快楽とする異常者
そして、私の.....
無意識に震えるからだを抱く。
隣の男は気付いていないのか、ずっと前を向いて話し続けている。
それでよかった。
自分から志願したことだというのに、こんなみっともなく震える姿はみられたくなかった。
「あの犬野郎、博士だからって調子乗り過ぎだ!そう思わないか?」
しばらく廊下を進んでいた時だろうか。
男は相変わらず喋り続けている。
私はというと体の震えが小さくなり、その場の空気に慣れ始めていた。
「.......」
ふと、男の声が止んだ。
見上げてみると、彼は私をみてなにか考え込んでいるようだった。
「なにか?」
「んー。そういや、お前のこと番号で呼んでるけどよ。名前はなんていうんだ?」
この組織では皆が私のことを番号で識別し、番号で呼ぶ。
だからこの施設に入ってからはほとんど本名で呼ばれたことがない。
この人とも今朝会ったばかりだが、私は自己紹介する必要はなかった。
既にこの男が私のことを知っていたし、その時から私を番号で呼んでいたのだ。
「番号で呼ばれるっていうことには何かしら意味があるんじゃないんですか?」
「さぁな?俺はそういうのわからねぇよ。......あぁ、言いたくなきゃ言わなくていいぞ?なんとなくだしな!」
なんというか、無責任かつ放漫だが悪い人ではなさそうだ。
おそらく彼とはもう2度と会うことはないだろうし、たかが名前だ。別に構わなかった。
「ジェーン。ジェーン・ドゥよ。」
「.......... ジェーン....?」
何やら気恥ずかしくなってきた。
ここ最近、私が自分で名前を名乗ることもましては名前を呼ばれることもなかったからかもしれない。
「ジェーン....へぇ、良い名前だな。」
少しの間をあけ、男は一言そう告げた。
私はあることに気づく。
私の名前を何度も繰り返し呟く彼をみて私はおもわず微笑んでしまう。
「...優しいんだね?」
「いや、本当にそう思ってるぞ!エキゾチックな響きで」
「そうじゃない」
私は首を小さく振った。
それをみて彼は怪訝な顔をする。
「貴方が気に病むことじゃないですよ。」
「なんの話だ。」
「表情に出てますよ。」
「何を言っているかさっぱりわからねぇな。そんなことよりさっきの続きだ!で、ブライト博士ってやつが..」
彼は結局最後までとぼけた。
しかし、名前を呟く彼が苦しげな表情を浮かべたのを私は見逃さなかった。
彼は私の過去を知っている...
「ここには貴方のような方もいるんですね。」
「ん?なんか言ったか?」
「私事です。気にしないでください。」
「そうか?でも、なんかあったら言えよ?」
なぜだろう。
これから死んでしまうかもしれないというのに自分は明らかに幸せだと感じている。
なんだか、単純なようで嫌だが彼の声をもっと聞いていたいと思った。
男の声に耳を傾ける。
案外、面白い内容じゃないか。
つい聞き入ってしまう。
鬱陶しいと思ってたのが冗談だったように。
いくつものセキュリティゲートをくぐり、この施設特有の殺人廊下を渡る。
「ここの廊下を抜けたらすぐだ。ほら。」
彼の指差す方向に目を向けると、そこには-ーー大きな黒い扉。
その前には、彼と同じ格好をした警備員が2人扉の両端を挟むように立っていた。
私にここに待つように言い、彼が2人に声をかける。
2人がチラリとこっちをみた。若干の憐れみを含んだ目だ。
「来い、今から扉を開ける。」
話し合いが終わったらしい。
案内人は手まねきで私を呼びつる。
「やっとだね」
「あぁ、もう直ぐあいつらが扉を開けてくれるらしい。」
「じゃあ、ここでお別れだね」
「.....あぁ」
先程までの軽快なマシンガントークはどうしたのやら、明らかに彼は口数が減っていた。
「どうしたの?元気ないですよ」
「いや、なんていうか...うん。」
「なぁに?今更になって扉が開くの怖がってるの?」
「ち、ちげぇよ!俺はただ....」
「ただ?」
彼は顔を背けうーん、と唸り声をあげた。その様子が何やらおかしくて、ついクスクスと笑ってしまう。
「あー!!もう、どうにでもなっちまえ!!」
突然彼が叫んだ。
目を丸くする私には目もくれず、彼は私に近づくと早口でまくし立てた。
「いいか、あいつを怒らせないでくれよ。ただ、あいつはどこでスイッチが入るかわからねぇ。だから、これをもっておけ」
そう言われ、手渡されたのは拳銃だった。
私は拳銃には詳しくないが、それが普通の威力のものではない事が見た目と重さからわかった。
突然のことにまた驚愕するが、自分には重すぎる実感を確かめながらニヤッと男を見上げた。
「私なんかにこんなのわたしていいの?」
相手はそんな私をみて、大きくため息をつく。
「馬鹿。言っただろう、逃げ場はないって。今ここで俺たちを殺して逃げたって、このサイトからは出られねぇぜ。」
誤射してしまうかもしれないとばかり考えていた私には考えも及ばなかったことだった。
その言葉についたじろいでしまう。
「わ、私は別に...」
「ハハハ、わかってる。冗談だよ。でも、さっきのは本気だ。どこで怒りを爆発させるかわからない。」
いい終わると同時に彼の背後の扉がゴゴゴッと重い音を鳴らしゆっくりと開く。
それを確認し、彼は"中の人物"に聞こえてもおかしくない音量で最後の忠告をする。
「やばくなったら、迷わず撃て!」
それだけ言うと男は私の腕を引くと同時に扉の向こうへ押しやった。
抵抗はしない。再び閉まろうとする扉の隙間から案内人が"顔"がみえた。
彼はこの仕事に向いていないな、と考えながら私は彼に手を振り微笑みかける。
カシャン
意外と大きな音も立てず扉が閉じた。
後悔はしてないが、何故か寂しさを感じてしまった。
ついさっきまでこの部屋にいるであろう彼のことしか考えていなかったのに
「最後にあの人の名前を聞いておけばよかったな...」
暗い部屋の向こうから、獣の唸り声のような声が聞こえる。
さぁ、頑張ろう
わたされた拳銃を携え、私はくるりと振り返る。
「アベル。ずっと会いたかったよ。」
私は暗闇へと突き進んで行った。部屋の奥にいるであろう彼を求めて...
あの人の案内が無駄にならないように
私の存在理由を証明するために
エレベーターの頑丈な扉が開き、同乗した警備員に声をかけられた。
「よく考えて降りな。一度降りたら、出口はない。もう2度とお天道様拝めなくなるかもしれないぞ。」
先程までずっと明朗快活に喋り通しだった彼が、若干緊張の面持ちでエレベーターを降りる。
彼を追いかけ扉をくぐると、すぐ後ろで派手な音を立てて通ったばかりの扉が閉まった。
扉の向こうから地鳴りのような振動と共にゴボゴボと海水が流れ込む音がする。
この施設で唯一外へと繋がるエレベーターは今、海水で満たされようとしていることだろう。
もう、逃げ道はない。
私は今回、とある実験を兼ねた試験を行うためにこの施設に訪れることになった。
しかし、個人行動が許されない立場にある私はそのための案内人をあてがわれた。それがこの警備員だった。
「にしても、いつ来ても緊張するねぇ。ここは。ここは初めてなんだって?」
「うん」
「どう!どう!?第一印象は?俺、ここでも働いてんだよ!この施設はだな」
とりあえず適当に頷いておく。
彼は構いたがりなのか、もしくはその逆なのか2人きりになってからずっと喋り通しだ。私が反応を示さなくても関係なし。正直鬱陶しかった。
「なんだ!テンションひくいじゃねぇの!なんか悩み事があったら俺になんでも言ってくれよ!」
それはエレベーターの中から引き続き今も現在進行形である。
「少し静かにしてもらってもいいですか?」
「ん?うるさい?まぁ、いいじゃねぇか!こうして女の子と話せるの久しぶりなんだ!付き合ってくれよ!」
「.......女の子って歳じゃないんですけど。」
「えぇ~。そうなの?何歳?若く見えるけど。あっ、俺はねぇ」
私は隠すことなく大きなため息をつく。
今私はこんな男の話に付き合うどころではなかった。
私は、男を勝手に喋らせておくことにする。
男の話は聞こえていたが、私の頭の中にはこれから会う人物のことでいっぱいだった。
ーー怖い。
本当に死んでしまうかもしれない。
人類を軽視する言葉
人間離れした身体能力
何度殺しても蘇る身体
殺人を快楽とする異常者
そして、私の.....
無意識に震えるからだを抱く。
隣の男は気付いていないのか、ずっと前を向いて話し続けている。
それでよかった。
自分から志願したことだというのに、こんなみっともなく震える姿はみられたくなかった。
「あの犬野郎、博士だからって調子乗り過ぎだ!そう思わないか?」
しばらく廊下を進んでいた時だろうか。
男は相変わらず喋り続けている。
私はというと体の震えが小さくなり、その場の空気に慣れ始めていた。
「.......」
ふと、男の声が止んだ。
見上げてみると、彼は私をみてなにか考え込んでいるようだった。
「なにか?」
「んー。そういや、お前のこと番号で呼んでるけどよ。名前はなんていうんだ?」
この組織では皆が私のことを番号で識別し、番号で呼ぶ。
だからこの施設に入ってからはほとんど本名で呼ばれたことがない。
この人とも今朝会ったばかりだが、私は自己紹介する必要はなかった。
既にこの男が私のことを知っていたし、その時から私を番号で呼んでいたのだ。
「番号で呼ばれるっていうことには何かしら意味があるんじゃないんですか?」
「さぁな?俺はそういうのわからねぇよ。......あぁ、言いたくなきゃ言わなくていいぞ?なんとなくだしな!」
なんというか、無責任かつ放漫だが悪い人ではなさそうだ。
おそらく彼とはもう2度と会うことはないだろうし、たかが名前だ。別に構わなかった。
「ジェーン。ジェーン・ドゥよ。」
「.......... ジェーン....?」
何やら気恥ずかしくなってきた。
ここ最近、私が自分で名前を名乗ることもましては名前を呼ばれることもなかったからかもしれない。
「ジェーン....へぇ、良い名前だな。」
少しの間をあけ、男は一言そう告げた。
私はあることに気づく。
私の名前を何度も繰り返し呟く彼をみて私はおもわず微笑んでしまう。
「...優しいんだね?」
「いや、本当にそう思ってるぞ!エキゾチックな響きで」
「そうじゃない」
私は首を小さく振った。
それをみて彼は怪訝な顔をする。
「貴方が気に病むことじゃないですよ。」
「なんの話だ。」
「表情に出てますよ。」
「何を言っているかさっぱりわからねぇな。そんなことよりさっきの続きだ!で、ブライト博士ってやつが..」
彼は結局最後までとぼけた。
しかし、名前を呟く彼が苦しげな表情を浮かべたのを私は見逃さなかった。
彼は私の過去を知っている...
「ここには貴方のような方もいるんですね。」
「ん?なんか言ったか?」
「私事です。気にしないでください。」
「そうか?でも、なんかあったら言えよ?」
なぜだろう。
これから死んでしまうかもしれないというのに自分は明らかに幸せだと感じている。
なんだか、単純なようで嫌だが彼の声をもっと聞いていたいと思った。
男の声に耳を傾ける。
案外、面白い内容じゃないか。
つい聞き入ってしまう。
鬱陶しいと思ってたのが冗談だったように。
いくつものセキュリティゲートをくぐり、この施設特有の殺人廊下を渡る。
「ここの廊下を抜けたらすぐだ。ほら。」
彼の指差す方向に目を向けると、そこには-ーー大きな黒い扉。
その前には、彼と同じ格好をした警備員が2人扉の両端を挟むように立っていた。
私にここに待つように言い、彼が2人に声をかける。
2人がチラリとこっちをみた。若干の憐れみを含んだ目だ。
「来い、今から扉を開ける。」
話し合いが終わったらしい。
案内人は手まねきで私を呼びつる。
「やっとだね」
「あぁ、もう直ぐあいつらが扉を開けてくれるらしい。」
「じゃあ、ここでお別れだね」
「.....あぁ」
先程までの軽快なマシンガントークはどうしたのやら、明らかに彼は口数が減っていた。
「どうしたの?元気ないですよ」
「いや、なんていうか...うん。」
「なぁに?今更になって扉が開くの怖がってるの?」
「ち、ちげぇよ!俺はただ....」
「ただ?」
彼は顔を背けうーん、と唸り声をあげた。その様子が何やらおかしくて、ついクスクスと笑ってしまう。
「あー!!もう、どうにでもなっちまえ!!」
突然彼が叫んだ。
目を丸くする私には目もくれず、彼は私に近づくと早口でまくし立てた。
「いいか、あいつを怒らせないでくれよ。ただ、あいつはどこでスイッチが入るかわからねぇ。だから、これをもっておけ」
そう言われ、手渡されたのは拳銃だった。
私は拳銃には詳しくないが、それが普通の威力のものではない事が見た目と重さからわかった。
突然のことにまた驚愕するが、自分には重すぎる実感を確かめながらニヤッと男を見上げた。
「私なんかにこんなのわたしていいの?」
相手はそんな私をみて、大きくため息をつく。
「馬鹿。言っただろう、逃げ場はないって。今ここで俺たちを殺して逃げたって、このサイトからは出られねぇぜ。」
誤射してしまうかもしれないとばかり考えていた私には考えも及ばなかったことだった。
その言葉についたじろいでしまう。
「わ、私は別に...」
「ハハハ、わかってる。冗談だよ。でも、さっきのは本気だ。どこで怒りを爆発させるかわからない。」
いい終わると同時に彼の背後の扉がゴゴゴッと重い音を鳴らしゆっくりと開く。
それを確認し、彼は"中の人物"に聞こえてもおかしくない音量で最後の忠告をする。
「やばくなったら、迷わず撃て!」
それだけ言うと男は私の腕を引くと同時に扉の向こうへ押しやった。
抵抗はしない。再び閉まろうとする扉の隙間から案内人が"顔"がみえた。
彼はこの仕事に向いていないな、と考えながら私は彼に手を振り微笑みかける。
カシャン
意外と大きな音も立てず扉が閉じた。
後悔はしてないが、何故か寂しさを感じてしまった。
ついさっきまでこの部屋にいるであろう彼のことしか考えていなかったのに
「最後にあの人の名前を聞いておけばよかったな...」
暗い部屋の向こうから、獣の唸り声のような声が聞こえる。
さぁ、頑張ろう
わたされた拳銃を携え、私はくるりと振り返る。
「アベル。ずっと会いたかったよ。」
私は暗闇へと突き進んで行った。部屋の奥にいるであろう彼を求めて...
あの人の案内が無駄にならないように
私の存在理由を証明するために
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