遠くからも近くからも響いている複数の悲鳴や絶叫。
耳が特別良くはなくても聞こえるそれらに呼応するように叫ぶことが出来れば少しは安心できるのだろうか。
湧き出した考えに自嘲して深い息を吐いた。
吐き出した白い息の不安の匂いを切り裂きながらただ走る。
雲の合間から見える赤い三日月がここにいるすべての人を嘲笑っているような気がした。

はじめは困惑しかなかった世界は徐々に絶望、怒気、悲嘆、茫然、様々な負の感情を鍋でドロドロに煮詰めたような匂いが上書きしていった。
まさしく鼻が曲がりそうで、眉間に深く皺が刻まれた。
恐慌状態の街をひたすらに駆け抜けた。