時を超えて、繋ぐ想い
「お願い……離して、下さい。」
「私の質問に答えて下さい。」
「っ………。」
「……はぁ。」
七海さんは
重ねた手を離した。
そして大きな溜息をついた。
彼を振り回してばかりの私に
ほとほと呆れているのだろう。
私は未だに彼の顔を見れないでいた。
「本心で私から離れようとしているのなら、もう止める事はしません。」
「え……?」
「本心なのならば、ですが。」
「っ……そんな聞き方っ……。」
「ずるいとでも言いたそうですね。ですが、二度も黙っていなくなろうとした貴方はどうですか。」
「あ……。」
「私がどの様な気持ちでいたか、わかりますか。」
七海さんは少し辛そうな
歪んだ表情を見せた。
いつも冷静沈着なこの人が
こんな表情をするなんて…。
鎌倉に行った時も思ったけど
本当は感情が豊かな人なんだ。
彼の思いとは裏腹に呑気にそんな事を思ってしまう。
彼の溢れんばかりの怒りと悲しみから
目を逸らしたいんだと思う。
「わからない……。」
「え?」
「七海さんの事なんてっ、何もわからないよっ!」
「琉璃……。」
「何で私を選んだのっ?私なんか神子である以外何の価値もないのにっ……。」
「……。」
「七海さんと麗華さんの仲を壊そうなんてっ、思ってなかったのにっ!」
「やはり、その話ですか。」
「え……?」
「麗華から全て聞きました。」
「…………。」
「ちゃんと話しましょう。貴方の思いを貴方の口から聞かせて下さい。」
子供みたいに喚き散らす私なんか
さっさと放り出してしまえばいいのに
どうしてそんなに愛情に満ちた瞳で見るの?
ふわりと私を抱き上げる。
自分で歩けると言っても
七海さんは離そうとはしなかった。
結局、リビングまで戻ってしまった。
「それで、麗華から何を聞いたのですか。」
「……。」
「他人の携帯を勝手に見る事は、褒められた事ではありませんが…それについては目を瞑りましょう。」
「ごめん、なさい……。」
「謝罪は結構です。質問に答えて下さい。」
「………七海さんと麗華さんは婚約者だったけど、最近婚約を解消したって。」
「…それで。」
「理由も教えてくれなかったから誰かを妊娠させたか……未成年に手を出したから責任をとってって…。」
「………。」
「だから、私のせいでって………。」
「…………はぁ。」
七海さんは目頭を抑えながら
深い溜息をついた。
今度は何の溜息?
私にはわからない。
だって私は子供だから。
ちゃんと言ってくれなきゃわからない。
七海さんと同じ位置で
同じ目線で話がしたいのに
私は彼を困らせてばかりだ。
絶望の余り寄り縋った事で
七海さんの自由を奪ったんだ。
「だから………。」
「……その先を聞かなかったのですか。」
「え……?」
「まったく、貴方も麗華も最も重要な所を……。」
「七海さん……?」
「確かに、私と麗華は婚約関係でした。」
「……。」
「お酒を飲み交わしながら何となくで始まった関係でした。私は彼女を人として尊敬していましたし、特に問題はありませんでした。」
「何だか、五条先生可哀想……。」
「あの人は論外です。ですが、彼女には好意を寄せている男性がいました。」
「え?」
「麗華も、それを貴方に伝えようとしたらしいですが……何を勘違いしたのか貴方は”諦めなくて大丈夫ですから”、そう答えたらしいですね。」
”私ね、好きな………”
麗華さんがあの時言いかけたのって
そういう事だったの?
「でも、七海さんは……。」
「言ったでしょう、何となくで始まった関係だと。それに私も麗華も無駄に真面目な所があるので、やっぱりやめようとは言えませんでした。」
「……。」
「私自身、彼女に想い人がいたのはわかっていたので婚約解消のタイミングを見計らっていました。」
「そう、だったんですね……なら、どうして昨日ホテル街に……。」
「ん?見ていたのですか。」
「見回り中に、たまたま……。」
「そうですか。あれは酔っ払った麗華から連絡が来て支離滅裂な事を言っていたので、仕方無く迎えに行ったんです。」
「で、でも……。」
「ホテル街に向かったのは、それが彼女の自宅までの最短距離だっただけの事。」
二人が婚約解消したのは
心の伴っていない関係だったから……。
麗華さんには別に好きな人がいて
七海さんも引くにひけなくなって関係を続けた。
二人が離れるタイミングが
たまたま、このタイミングだっただけ。
私の勘違いだった………?