時を超えて、繋ぐ想い


「貴方の事は、誰よりも理解しているつもりです。」


「七海さん……。」


「貴方は嘘をつく時、下を向く癖があります。」


「っ……。」


「それと、口元に指をあてる。」


「……。」






この人に隠し事なんてするものじゃない。

自分でも気付かない部分まで
七海さんはわかってる。




素直になりたいって
口に出せたらどんなに楽だろうって。

だけど、もし口に出してしまったら
優しすぎる程優しいこの人は
麗華さんにだけでなく私にまで
不必要な贖罪を背負ってしまうから。




だから言わない。
これ以上重荷になりたくないから。






「琉璃。」









プルルルッ








「電話……。」


「……失礼。」


「あ、はい。」


「はい、七海です。……ん?麗華か。」


「っ!!」


「大丈夫ですが、場所を移動するので少し待って頂けますか。」








私に気を遣ったのか
七海さんはベランダに出て行った。




まずい。

麗華さんからの電話なら
さっきの話が七海さんの耳に入る恐れがある。
だけど、それを防ぐ術は私には無い。






今こそ、この部屋を出る絶好のタイミングだ。
これを逃したらもう次は無いかもしれない。



急いでソファーに置いてあった荷物を纏める。
荷物と言っても上着や財布、スマホくらいしか…





あれ?スマホが見当たらない。

ここではいじってない筈なのに
どこにも見当たらない。
ただでさえ時間が無いというのに。







「あれっ……どこにも……あっ!あった!」







上着のポケットにスマホを発見。





すぐに玄関に向かって走り出す。

着いた時は分からなかったけど
七海さんの部屋やたら廊下が長い。
高級マンションなんだろうけど
玄関までの距離がとてつもなく長く感じる。





やっと玄関に辿り着いたと思ったら
今度は鍵が四つも着いたドア。

防犯意識が高い事については申し分ないが
今の私には迷惑でしかなかった。
ただでさえ焦りで手元がおぼつかないのに。




何とか最後の鍵を回し
ドアノブに手をかける。










「どこに行くのですか。」


「あっ………。」


「もう一度聞く、一人でどこに行くつもりだ。」








ドアノブに手をかけたその上から
彼の、七海さんの大きな手が覆い被さった。


七海さんの顔は見えない。
ただ、耳元で聞こえた彼の声は
普段よりも低くて太かった。



七海さんが怒っているのは
私でさえ容易に想像がついた。
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