時を超えて、繋ぐ想い
「戻りました。」
「…お帰りなさい。」
「遅くなってすみません、すぐ準備しますね。」
ギュッ
「ん?どうしました。」
「……。」
「琉璃?」
買い物袋を持ったままの七海さんに
私は何の躊躇いもなく抱きついた。
このやりようのない不安を
誰かに聞いて欲しくて
大丈夫だよって抱きしめて欲しくて。
だけど
七海さんにそんな事をして貰う資格は
彼らの幸せを奪った私には無いから
両手の塞がっている彼に抱きついた。
私には抱き締めて貰う資格なんか無い。
「七海さん……私、七海さんの事大好きです。」
「知っています。ですが、それは今言わなくてはいけない事ですか。」
「……。」
「両手に袋を下げた状態では、貴方を抱き締める事もままならないのですが。」
「……っ……大好き。」
「……泣いているのか。」
「っ……泣いてないです。」
「相変わらず、貴方は嘘が下手ですね。」
「七海さん、意地悪……。」
「今更でしょう。」
「七海さん…少し屈んで?」
「ん?こうですかっ……んっ……ふっ……。」
彼の首を引き寄せて
キスをした。
いつも七海さんがしてくれる様な
上手なものでは無いけど
必死に舌を絡ませていく。
両手が塞がっていても
私のキスに応えてくれる。
私が仕掛けている筈なのに
気付けば彼のペースに飲まれていた。
「七海さっ……もっ……だめっ……。」
「もうですか。貴方から仕掛けてきたのに、おかしな話ですね。」
「うぅ……七海さん、お腹空きました。」
「まったく……すぐ準備します。」
七海さんはキッチンに入り
買ってきたものを冷蔵庫に入れ始めた。
その背中を眺めることしか出来ない。
どのタイミングで
ここからいなくなればいいか。
どうやったら七海さんに気付かれずに
ここからいなくなれるのか。
そんな事ばかりが頭をよぎり
時折話しかけてくれる彼の会話さえ
全くと言っていい程頭に入ってこなかった。
「琉璃、出来ましたよ。」
「………。」
「琉璃。」
「あっ……何ですか?」
「先程から上の空の様ですが、どうしたんですか。」
「な、何でもないです!うわぁ、美味しそうです。」
「………。」
「こんな料理が作れるなんて、七海さんは将来良い旦那さんになれますね。」
「それはどうも。」
七海さんが作ってくれたのは
カプレーゼ、チーズフォンデュ
バジルソースのパスタ、アクアパッツァ。
どれも美味しそうで、見た目も申し分無い。
こんな料理が作れるなんて七海さんは
本当に何でも出来てしまう人だ。
グラスにワインを注ぐ。
相手が私でなければそのワインを飲みながら
料理を肴に大人の会話が出来るのだろう
私のグラスに注がれたのは
リンゴ味のソーダ水だった。
「頂きます。」
「貴方の口に合うといいのですが。」
「美味しいです!」
「そうですか。」
「……。」
「琉璃。」
「え?何ですか?」
「私が外出している間に、何があったんですか。」
「え……別に何も……。」
七海さんはじっと私を見る。
何もないと言おうとした私を
視線だけで黙らせたのだ。
私がはったりをかました所で
この人には通用しないというのに。
私も学習能力が無い。