時を超えて、繋ぐ想い







その後、高専に戻り報告書を提出して
気分転換に外に散歩に出た。




爽やかな夜風が頬を撫でる。

夕方に見た七海さんと女性の姿が
走馬灯の様に頭の中を巡る。







七海さんはあの人に
どんなキスをするのだろう。
どんな風に抱くのだろう。

七海さんに触らないで。
私から彼を取らないで。

そんな邪な思いばかりが
胸をいっぱいにする。




醜い感情……。









こんな私が神子?








………笑わせる。








「………。」


「琉璃。」


「え……七海さん?」


「どうしました、今にも泣きそうな顔をして。」


「どうして……。」


「どうして、とはどういう意味ですか。」






声のする方を振り返ると
そこにいたのは七海さんだった。






どうしてここに?

あの人とホテル街の方に
向かっていたはずなのに。




彼が会いに来てくれた嬉しさと
どうしてここにいるのかという戸惑いで
頭が上手く働いてくれない。






「あ、あの……。」


「どうしました。」


「えと……お疲れ様です。」


「ん?あぁ、お疲れ様です。」


「……。」


「琉璃。」


「あ、私そろそろ部屋にっ……。」








ギュッ








「あっ……。」


「何故、逃げるのですか。」


「…………。」







だって
その腕はあの人が触れたから。
貴方の本当に愛しい人のものだから。






七海さんの胸に抱かれ
そんな事を思ってしまう私は
きっと弄れている。


でもそう思わなければいられない程
あの人を見る七海さんの瞳は
酷く優しかったのだ。





本当は離れたくない。
だけど、七海さんが優しいからって
私が傍にいたらあの人が悲しむ。





意を決して
七海さんの広い胸を押し返す。






「っ……琉璃?」


「……私、今日疲れちゃって。」


「今日、任務は無かったはずですが。」


「伊知地さんのお手伝いで、街の見回りに行ったんです。」


「伊知地君と?」


「私が一人でいたので、伊知地さんが誘ってくれたんです。」


「そうですか、それはお疲れ様でした。」


「伊知地さんは優しいです。いつも私達を見守ってくれて、欲しい時に欲しい言葉をかけてくれて。」


「……。」


「伊知地さんには幸せになって欲しっ……んっ……。」






言葉を言い終わる前に
七海さんは私の唇を塞いだ。



舌が淫らに絡み
あまりの激しさに離れようとしても
後頭部を抑えられ、彼の唇を受け止めるしかない。




七海さんの息が荒くなって
頬が少し火照っている様に見える。

彼の瞳に燻っている怒りは
一体何に向けられたものなのか。
私には想像も出来ない。







「んんっ……ふぁっ……ぁっ……なっ……みさっ…。」


「琉璃っ……貴方は、わざと私を煽っているのですか。」


「えっ……?」


「私と二人の時に、その様な幸せそうな顔をして他の男の話をしないで下さい。」


「だ、だって伊知地さんはっ……んっ……はっ…。」


「貴方は、私のものだ。」


「んぁっ……ふっ……ぅっ……んぅっ……。」








自身のネクタイを緩め
更に激しさを増す七海さんのキス。






恋人がいるのにどうして?








大人ってずるい。
いつだって私の気持ちを追い越して
どんどん先に進んでいってしまう。











七海さんも、ずるい。
36/43ページ
スキ