時を超えて、繋ぐ想い
伊知地さんと私は
分かれて街の見回りを行った。
改めてこうやって歩いてみると
低級霊がうようよしている。
私でも祓える程度の呪霊だから
放っておいても問題無いけど
数が多いので少しずつ間引いて行った。
見回りを終えて伊知地さんと合流する頃には
空の色は鮮やかな朱に染まり、夕方になっていた。
特に問題のある事象はなく
この日の見回りは無事に終わった。
「千歳さん、お疲れ様でした。」
「伊知地さんこそ、お疲れ様でした。」
「長い時間歩かせてしまったので疲れたでしょう。」
「大丈夫ですよ、野薔薇ちゃん達に比べたらこれ位……。」
「千歳さん……。」
「あ、変な意味じゃなくて!気にしないで下さい!」
「大丈夫ですよ、千歳さん。」
「え……?」
「皆さんは、貴方が思っている以上に貴方の事を大切に思ってます。」
「伊知地さん……。」
「勿論、私もです。」
優しいな、伊知地さんは。
高専の人達は、千歳の家の人達なんかよりずっと
私の事を思ってくれて、傍にいてくれて
家族という言葉の意味を考えてしまう程に
暖かくて、尊い存在だ。
命をかけても守りたいと思う気持ちも
私にとっては本心なんだと思う。
そして、死にたくないと思う気持ちも。
涙を零さないように、深く息を吸う。
肺の隅々まで入り込む空気が
感情の昂りを押さえ込む。
「泣きたい時は、泣いて良いんですよ。」
「っ……私……皆といる時は、笑顔でいたいから。」
「千歳さん……そうですね。」
伊知地さんは
それ以上何も言わなかった。
車を止めたコインパーキングまで
あと少しという所で
見知った人影を見つける。
「あれは……。」
「千歳さん?」
風景にあまり馴染ま無い
白のスーツに、青いシャツ。
金色の整えられた髪に
人よりも頭一つ分高い背丈。
見間違える事の無い
私の大好きなあの人だった。
「……七海さんだ。」
「本当だ、ここにいるという事は任務はもう終わったみたいですね。」
「あれ?誰かと一緒みたい……。」
「女性の方みたいですね。」
「凄く綺麗な人……。」
七海さんと腕を組んで歩くその女性は
彼の隣を歩く為に生まれたと言っても
過言では無い位にとても綺麗な人だった。
腰まで伸びた
ブロンズのウェーブがかった艶髪。
バランスの取れたボディライン。
色白でメイクの良く似合う肌。
とても大人っぽくて
それでいて可愛らしい雰囲気の女性。
ちんちくりんの子供じみた私とは大違い。
「恋人、でしょうか……。」
「どうでしょう、大人オブ大人の七海さんならいてもおかしくはないとは思いますが……。」
「……。」
「千歳さん?」
そうだよね。
七海さんに彼女がいたって
何の不思議もないよね。
だって七海さん格好良いんだもん。
誰にでも優しくて、誰にでも愛情深く接してくれて。
”愛しています”
慰めで言ってくれた
あの言葉を鵜呑みにして
自分の事を必要としてくれてるって
無理矢理にでも思いたかったんだ。
こういう所が、子供なんだろうな。
七海さんがいつも
私は大人で、貴方は子供って
耳にタコが出来てしまうのではと思う位
しつこく言うのはそういう事なんだと思う。
やがて七海さんとその女性は
ホテル街へと姿を消した。