*season 10* fin
「涼ちゃんて、凄く良い子だね!」
「せやろ!涼はほんまに良ぇ子やねん。」
「それはそうと……二人は、付き合うって事?」
「あ、えっと……どうかな、種ヶ島君。」
もう、いいよね?
私、頑張ったよね?
彼の事を好きだった気持ちも
彼の隣にいたいと思った気持ちも
彼の力になりたいと思った気持ちも
全部、もう必要ないんだよね?
もう離れよう。
いつまでも彼の傍にはいられない。
私は親友になんてなりたくないから。
「奈々ちゃん、種ヶ島君をよろしくお願いします。」
「え、涼?」
「涼ちゃん…。」
「種ヶ島君、凄く優しいから奈々ちゃんの事大切にしてくれると思います。たまに抜けてるところもあるから、そんな時は助けてあげて下さい。」
「……うん、わかった!」
「種ヶ島君、もう私の役目は終わったから…あとは二人で頑張ってね!」
「涼、ちょい待っ……。」
「私寄るとこあるから、バイバイ!!」
手に持っていたハートのピアスを戻し
人混みの中へと紛れ込む。
涙はまだ止まらない。
すれ違う人が不思議そうに私を見る。
きっと酷い顔をしているんだろう。
彼と過ごしたこの一年間は
私にとって、彼にとって何だったのだろう。
あの日、彼の後ろの席にならなかったら
こんな思いをする事もなかったのかな。
必要以上に関わらなければ
彼を特別に思う事なんてなかったのかな。
私が欲しいと思ったものは
いつだって手をすり抜けていってしまう。
だから私は必要以上に人と関わる事をやめた。
それなのに
種ヶ島君は一つ一つ
閉ざした筈の扉をこじ開けていった。
全部全部、消してしまいたい。
彼と過ごした時間も
彼と過ごした記憶さえも全て。
「っ………雨だ………。」
近くの公園まで来たところで
雨が降り出してきた。
水滴が肌に当たる感覚が
何故だか妙に心地よくて
折り畳み傘を持っていたけれど
敢えてそれを使おうとはしなかった。
流れていく涙と混じって
全て洗い流してくれているようだ。
こんな雨の中
傘もささず公園のベンチに座っている私は
他から見たら異様な光景なのだろう。
そんな事さえ、今の私にはどうでも良かった。
「っ………うわぁぁっ……ぅっ……。」
「涼っ!!」
「えっ………?」
「はぁっ……やっと見つけた。」
「何で……奈々ちゃんは……?」
「そないな事、どうでも良ぇ。」
声が聞こえた先にいたのは
種ヶ島君だった。
どうしてここにいるの。
今頃奈々ちゃん達と遊んでる筈じゃ……。
意味がわからない、もうやめて欲しい。
これ以上私に関わらないで。
これ以上何も期待させないで。
これ以上はどうかしてしまいそうだから。
「っ………どうでもよくないよっ……。」
「………。」
「やっと両想いになれたんでしょ!?なのにこんな所で何してるのっ!?」
「涼、俺……。」
「もう、やめてよっ………。」
彼には私の気持ちがわかっている。
だからこそ
いたたまれなくなって
ここまで追いかけて来たのだろう。
優しいくせに残酷な人。
その優しさが私を苦しめていると
いい加減気づいて欲しい。
何の為に私が離れたのかを理解して欲しい。
「涼、聞いて。」
「聞きたくないっ、もう何も聞きたくないっ!」
ギュッ
「あっ……。」
「頼むから、俺の話聞いて。」
「っ……もうっ………やだっ………。」
「涼?……涼!!」
彼に抱きしめられた途端
気が抜けたのかそのまま気を失った。
彼が私の所に来てくれた事も
結局夢だったのではないか
目が覚めたら結局一人なのではないか。
夢の中でさえ歪な想いが巡る。
閉じゆく瞳が捉えたのは
切なげな表情の彼の姿だった。