*season 10* fin


「……種ヶ島君は、私といて本当に楽しいの?」


「え?当たり前やん。」


「当たり前って……私は奈々ちゃんみたいに明るくないし、可愛くないし、どちらかと言うと人付き合い上手くないし。」


「……。」


「種ヶ島君にこんな事してもらう理由なんて、私には……。」






口から出た言葉は奈々ちゃんへの嫉妬。
彼女と自分を比べたところで何の意味もないのに。


種ヶ島君は楽しい事が大好きだから
こういう話は聞いていて退屈なはずだ。


彼にとって私は
彼が言った””親友””という言葉の
それ以上でもそれ以下でもないのに
私はそれ以外を求めてはいけない。






「涼は、俺といるん退屈なん?」


「え……?」


「最近、俺といても楽しそうやないし…一緒に帰るのやめようとか言うし。」


「そ、それは……。」


「あれ……隣の組の、種ヶ島君?」


「え、奈々ちゃん!?」






そこに現れたのは
彼の大好きな奈々ちゃんだった。


今日は学校の筈なのに
どうして彼女がここにいるんだろう。
それに同じクラスの子かな?
奈々ちゃん含め男女四人で遊びに来たみたい。





「奈々ちゃん、今日学校やないん?」


「うちのクラス、先週末課外授業があったからそれの振替なの。種ヶ島君は?」


「俺?ズル休み!」


「そうなんだ、何か意外!」


「そうか?」


「種ヶ島君、意外と真面目そうだし。」


「ま、やる時はやる男やで。」


「あははは!」






奈々ちゃん達が現れた事で
場の雰囲気が一気に明るくなった。


沢山の人がいるこの場所でも
種ヶ島君と奈々ちゃんは
まさに美男美女という感じで
一際目立っているようだった。



本当にお似合いだと思う。





「ところで、種ヶ島君と同じクラスの涼ちゃんだよね?」


「あ、うん……。」


「奈々ちゃん、涼の事知っとるん?」


「知ってると言うか、いつも種ヶ島君と一緒にいる可愛い子は誰だってクラスの男子が噂してたから。」


「可愛いやて、涼!良かったやん!」


「……。」


「二人は付き合ってたり、する?」


「え……?」






奈々ちゃんは少し照れくさそうな表情で
付き合っているのか、そう口にした。



その言葉の意味を理解出来ない私は
ただ彼女を見つめる事しか出来なかった。
何の為にそんな質問をするのだろう。



私の思考回路は心の速度に
まるでついていっていないようだった。





「私達は……。」


「付き合ってへんよ、涼は俺の親友なんよ。」


「そうなんだ、良かったね!奈々!」


「ちょ、ちょっと!」


「良かったって…?」


「奈々ね、種ヶ島君の事好きだから涼ちゃんと付き合ってたらどうしようって心配してたの!」


「え!?ほんまに!?」


「もー!!何で言っちゃうの!?」







あ、そっか。







二人共両想いだったんだ。











最初からわかってた。

種ヶ島君みたいに格好良くて
明るくて優しくて皆の人気者で
そんな彼には奈々ちゃんみたいな子が
隣に居るべきなんだって。








最初からわかってたのに
彼と一緒にいたいなんて
どうして思ってしまったんだろう。








「っ……。」


「………涼、どないしたん!?」


「え、涼ちゃんどうしたの!?何で泣いて…。」


「種ヶ島君はっ、あなたの事ずっと好きだったの……。」


「え、そうなの!?」


「涼!?」


「だから、両想いだったのが嬉しくて…。」


「涼……。」










そんなわけない。
この涙は嬉し涙じゃない。


種ヶ島君をとられてしまったような
苦しくて、悲しくて、寂しくて
言い様のない孤独感が胸をいっぱいにする。



彼の片想いが成就した事を喜ばなくては
この涙は説明のつかないものになってしまう。
うまくこの場を取り繕わなくてはいけない。



そして、一秒でも早く
ここからいなくならなくては
私の演技も直にばれてしまうから。
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