*season 11* fin







何だろう。

ひんやりして気持ち良い……。
体に籠っていた熱が少しだけ楽になった。




だけど、相変わらず体がだるいし
瞼が重くて開けられない。
動かない体を何とか動かそうと
身を捩ってみるけど上手くいかない。






上がらない瞼を何とか擦り目を開く。

上半身を起こすと
窓の外にオレンジ色の空が広がっていた。
夕方まで眠ってしまったみたいだ。







「あれ……?」







ここは私の部屋。

確か廊下に出て、動けなくなって……。
どうやってここまで戻ってきたんだろう。







「目が覚めましたか。」


「永四郎………?」


「気分はどうですか。」






部屋に入って来たのは永四郎だった。

どうして永四郎がここにいるのか
そんな事はどうでもよくて
彼が会いに来てくれたという事実が
今の私にとっては何よりも大事だった。




両手で顔を覆い
涙が零れそうになるの防ぐ。
嗚咽を漏らすまいと口を紡ぐ。




どんな顔をして会えばいいのか
私にはわからない。

迷惑かけたくないのに
これ以上嫌われたくないのに。
永四郎は何も言っていないけど
ネガティブな事ばかりが頭に浮かぶ。





「莉音。」


「っ……。」


「顔を、見せて。」


「やっ……。」





両手を覆っていた私の手を
優しく包み、開かせる。
涙に溢れた表情が露になる。


目を開いた先には
切なげに微笑む永四郎がいた。





「君は本当に世話が焼けますね。」


「っ……ごめんっ……なさい……。」


「人の話も聞かず、あんな雨の中を傘もささずに帰って風邪を引かない方がおかしい。」


「っ………こんな私なんか……呆れられて当然だよね。」


「………。」


「来てくれてありがとう……でも、もういいよっ…。」


「もういいとは、どういう意味ですか。」







別れよう。


頭ではそう思っているのに
唇が震えて上手く言えない。



その一言で全て終わってしまう。
大好きな彼との全てが終わってしまう。
でも、言わなければいけない。
もう彼を私に縛っておくわけにはいかないから。






「もう……別れようっ……。」


「………。」


「私は永四郎に何もしてあげられないしっ、私なんかいてもいなくても同じだしっ……。」


「莉音。」


「私の事好きでもないのに付き合わせてっ、本当にごめんねっ……。」


「……少し黙りなさい。」









永四郎は優しく私を抱き締めた。


そんな事してもらう資格、私にはない。
もう傷つきたくないから、もうやめてよ。
そんな事されたらまた勘違いしちゃう。



彼の鍛えられた体を押し返す。
案の定私の力ではビクともしない。
それが気に食わなかったのか
彼の腕に少しだけ力が籠る。







「永四郎、やだっ……。」


「こんな風になる程、俺は君を傷つけていたのか。」


「え………?」


「君の存在が、君が傍にいてくれる事が当たり前だと思っていました。」


「永四郎……?」


「部活が忙しくて会う時間が無くても、君といる時間に何をしていても、笑顔で寄り添ってくれましたね。」


「……。」


「そんな尊い事を、俺は当たり前だと勘違いしてしまった。」


「っ……うぅっ……。」


「好きです。愛らしい君の笑顔もこの涙も……誰かにくれてやる気はありません。」


「何でっ………。」


「傷付けてすまなかった……頼むから、俺の傍にいて下さい。」








彼の切なげな低い声が
頭の中で木霊する。


行かないでと縋ってくる子供のように
力強く私を抱き締める。
こんな永四郎を初めて見た。



ずっと寂しかった。
ずっとこうやって抱き締めて欲しかった。
好きだって言って欲しかった。





私、永四郎の彼女でいいの?
永四郎の隣にいていいの?







「っ……ふぇっ……。」


「莉音、こっちを向いて。」


「え……んっ……ふぅっ……。」


「莉音、好きだっ……。」


「だめっ……んんっ……かぜっ……ぁっ……ん……。」


「そんな事、どうでもいい。」









永四郎は私を抱き締めながら
何度も唇を重ねた。
堕ちてしまいそうな程深いキス。


風邪が移ってしまうと思い
ダメだと訴えたが彼の耳には届かない。






私が辛くないように
そっとベットに横にさせる。

熱のせいか、彼からの愛のせいか
私の呼吸は乱れ瞳は熱を帯びて潤いをもつ。



いつもは冷静な永四郎も
頬を赤らめて私の唇を貪る。
彼の瞳は熱に浮かされているようだった。







「莉音、愛してるっ……。」


「んっ……私も……ぅっ……好きっ……んぅ……。」





















翌日、永四郎が熱を出したのは
言うまでもありません。








―完―
3/3ページ