*season 11* fin
雨に濡れながら家に着いて
体も拭かずにベッドに横になった。
酷く体が冷えているのに
そんな事はどうでもよく感じた。
もう何も考えたくなかった。
目を瞑ってしまえば
何も見えないし何も考えなくて済む。
泣きたくないのに
涙はどんどん溢れてくる。
いくら手で拭っても止まる事はなかった。
もう終わりにしよう。
永四郎の事は大好きだし別れたくなんかない。
だけど永四郎にとって私は負担でしかないから。
彼の重荷になるような事だけはしたくない。
翌日。
酷い頭痛と悪寒で目が覚めた。
頭が痛くて吐き気がある。
立ち上がろうにも足元がおぼつかない。
きっと風邪をひいたんだ。
昨日あれだけ雨に濡れたにも関わらず
体も拭かずにそのまま眠ってしまったのだから。
当たり前だと皮肉にも笑ってしまう。
何とか携帯を手に取り
学校に連絡、休む旨を伝える。
両親は仕事で海外に出張中で
家には私一人だけ。
正直寂しかった。
だから、永四郎が私を見てくれなくても
傍にいさせてくれるだけでよかった。
なのに私はどんどん欲深くなっていった。
笑いかけて欲しい。
力強く抱きしめて欲しい。
恋人みたいなキスをして欲しい。
いつも傍にいて欲しい。
好きだよって言って欲しい。
私は永四郎に何もしてあげられないのに
自分の欲しいものばかり要求する。
こんな私だから彼も嫌気がさしたんだろう。
「頭……痛いっ……。」
携帯を握り締め
何とか廊下まで出て来たが
あまりの痛さに座り込んでしまった。
結構な高熱なんだと思う。
キッチンにさえ辿りつければ
解熱剤があるのだがどうにも
体が言う事をきいてくれない。
呼吸が熱を帯びて
汗が首を伝って胸元へ流れる。
熱い、痛い、苦しい……。
誰かに助けを求めたところで
周りには誰もいない。
結局私は一人ぼっちなのだ。
意識を失いかけたその時
スマホの着信音がけたたましく鳴り響いた。
頭にガンガン鳴り響いて頭痛に拍車をかける。
ふと画面を見ると
”永四郎”の三文字が浮かびあがる。
少しの間その文字をボーッと眺めてから
受話器のボタンを押した。
「っ……もし……もしっ?」
「もしもし、俺です。」
「ん………どっ……したの………。」
「先程、君が風邪で休むと担任から聞きました。」
「風邪ひいた……だけ……だからっ……大丈夫っ……。」
「呼吸が乱れてますね…大丈夫ですか。」
聞きたかった筈の永四郎の声でさえ
頭に響いて酷い痛みに変わる。
涙が溢れて呼吸が荒くなる。
痛くて苦しくて、傍にいてほしいのに
彼に言葉にする事は出来ない。
だって、彼にとって私は迷惑なのだから。
「もっ……切るねっ……。」
「……泣いているのか?」
「っ………何でもっ……な………。」
バタッ
「莉音?………っ莉音!」
途切れかけた意識の中
私の名前を呼ぶ彼の声が聞こえた。
永四郎に名前を呼ばれたのいつ以来だろう。
部活が忙しかったりとかでなかなか会えなかったし
永四郎からは連絡もあまりなかった。
なんでもっと早く
永四郎を自由にしてあげなかったんだろう。
想いの無い関係に意味なんか無いのに。
私が縋ったせいで無駄な時間を使わせてしまった。
もう終わりにするから
もう少しだけ待っててくれるかな。
今はもう目を開けていられないや。