*season 10* fin




私達は先週オープンした
大型のショッピングモールに向かった。


平日とはいえ
オープンしたばかりだからか
沢山の人で溢れ返っていた。
油断すると人の流れに飲まれそうになる。





「えらい人やなぁ。」


「そ、そうだね……。」


「涼、手離したらあかんで。」


「う、うん。」





種ヶ島君は相変わらず
私の手を離さない。


人で溢れ返ったこの場所では
それが正しいのだとは思うけど
恋人繋ぎする意味はないと思う。



それとは裏腹に
その行為自体を嬉しく思ってしまう。




「ふぅ、やっと抜けたな。」


「凄い人だったね。」


「せやな、大丈夫か?」


「うん、ありがとう。」


「そっか!なら良ぇわ!」


「だから、もう手……離して大丈夫だよ。」


「何で?」


「え……?」


「別に良ぇやん、繋いどこ。」





そっか。

彼にとって手を繋ぐ事は
別に特別な事じゃないのか。


私だから繋いでいる訳じゃなくて
手を繋げれば誰でも良いんだ。



種ヶ島君はいつも距離感がおかしい。
所謂ゼロ距離というものだ。
急に抱きついてくる事もあれば
やたら顔が近い時もある。




そんな種ヶ島君だ

彼の一つ一つの行動に
一喜一憂してはいけない。





「あ、これ可愛い…。」


「ほんま、自分似合うんとちゃう?」





小さなハート飾りの付いたピアス。

耳に合わせてみると
キラッと光沢が鮮やかに見える。





「買おうかな…んー…。」


「……よし!俺が買うたるわ!」


「え!?いいよ、自分でっ……。」


「涼とのデート記念や、そんくらいさせてや。」


「デートって……。」


「頬っぺた赤くして、自分ほんま可愛ぇな。」






無邪気な彼の笑顔。

奈々ちゃんに向ける笑顔とは
また違う類のものだ。




種ヶ島君は楽しんでいるだけ。

今私と出かけているこの状況を
ただただ楽しんでいるだけなんだ。




そこに彼女の様な感情は無い。
それ位わかっているけど
この言いようの無い虚しさは
いったいどうすればいいんだろうか。
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