*season 10* fin
そしてある日の放課後。
その日も何となく教室で本を読んでいた。
図書室で借りた小説が思いの外面白くて
もう少し、もう少しなんて思っている間に
時計の針は十七時を指していた。
本を閉じて息を吐く。
帰ろうと思い立ち上がった瞬間だった。
「涼ー………。」
「あ、種ヶ島君…?」
「どないしよ、俺………。」
「どうしたの?何かあった?」
「……好きになってもーた。」
私の机に突っ伏して
顔を赤らめた種ヶ島君。
相手は誰?なんて
そんなわかりきった事は聞かない。
誰かなんて私にはわからないけれど
ただ一つ、間違いない事は……。
彼の瞳に映っているのは
私では無いという事。
ショックな筈なのに、信じたくないのか
どこか他人事にしか聞こえなかった。
一種の防衛本能なんだと思う。
彼の口から出る”奈々ちゃん”の事なんて
私にはどうでもいいし、聞きたくもない。
私の方が種ヶ島君と一緒にいた。
奈々ちゃんなんて種ヶ島君の事何も知らない癖に。
醜い感情が心を満たしていった。
だからと言って
彼から離れる勇気もなくて
今では都合の良い女に成り下がっている。
そんなこんなで
彼との付き合いは一年以上になる。
「奈々ちゃん、モテそうやもんなー。」
「可愛いもんね。」
「ほんま、笑った顔なん最高やで。」
「……種ヶ島君はさ、奈々ちゃんのどんな所が好きなの?」
「んー、せやな……誰とでも仲良くなれて、明るくて、あの子見てると幸せな気持ちになれるんよ。」
「何だか、種ヶ島君みたいだね。」
「そか?」
「うん……お似合いだと、思うよ。」
「そんな事言うてくれるん涼だけやで。」
照れくさそうに微笑む彼の瞳には
私の事なんて映っていないのは
嫌という程わかっているのに
どうして期待してしまうんだろう。
漫画みたいに
最初は他の子を好きでも
最後には私を選んでくれるんじゃないか。
何の根拠も無い期待をしてしまう。
種ヶ島君と奈々ちゃんが
付き合うのは時間の問題だ。
種ヶ島君がちゃんとアプローチ出来れば
そんなに難しい話では無い。
もういっその事
彼から離れてしまった方が
私は随分楽になるのではないだろうか。
そんな出来もしない事を
永遠に考えるのだ。
「そろそろ帰るね。」
「そやね、帰ろか。」
「……種ヶ島君。」
「ん?」
「もう一緒に帰るの、やめよ。」
「………は?」
「もし、奈々ちゃんにそんな所見られたら誤解されちゃうかもしれないし……。」
「そないな事、あらへんやろ。」
「え?」
「俺ら、親友やろ?そんな風には見えへんて。」
「…………。」
「ほな、行こ。」
「………うん。」
親友なんて、やだよ。
零れ落ちそうになる涙を
グッと我慢する。
握り締めるスカートのシワはより深く入る。
先を歩く種ヶ島君の背中は
近くにあるはずなのに
距離を感じるのはどうしてなんだろう。
もう放っておいてくれた方が幾分も楽なのに。