*season 9*
―柳side―
わかっている。
今の状況がおかしい事など
この俺が一番理解している。
だが、もう遅いんだ。
俺達も、咲も。
完全に壊れてしまった。
あの日、俺は咲を叩いた。
”私は、何もやってないっ!”
泣きながらそう言った咲の頬を
怒りに任せて叩いてしまった。
咲がやっていない事など
俺が一番よくわかっていた筈なのに。
気付いた時には
テニス部が総出で咲を攻撃した。
真田や柳生は
手こそ上げはしないものの
存在そのものを無視していた。
事の発端は
桜良がマネージャーになった事だ。
桜良はことある事に
咲が自分に対して危害を加えたと騒ぎ立てた。
確かに、状況証拠はあった。
切り裂かれた制服。
カッターナイフで切られ、流血した腕。
目に涙を溜めた桜良自身。
そんな事を繰り返している内に
俺達の頭は完全に冷静さを失っていった。
いつからか……
虐められている桜良を守らないと、という
歪んだ思想信条で満たされていった。
咲が苦しんでいる事は明らかだった。
それなのに。
何故、俺は真実から目を逸らした。
自ら命を絶とうとする程
彼女は追い詰められていたというのに。
どちらにしろ
もう戻る事は出来ない。
咲が明るく照らしてくれていた
あの頃の立海テニス部には、もう戻れない。
京華……。
俺はどうしたらいい……。
俺にはもう、わからないんだ。