*season 9*










次の日の早朝。

校門前で例の部員二人を
待ち伏せる。



夏とはいえ
この時間帯は気温が低く
作業するにはもってこいの時間だ。







咲はこの位の時間帯には
既にここについて準備をしていた。

どんなに早くても一緒に登校したくて
咲、瀬名、私の三人はいつもこの時間に登校した。









そのありふれた日常は
こんなにも簡単に崩れ去ってしまう。









私は事の真相を確かめる。










必ずだ。










「澪、来た。」


「みたいだな。」


「ん?あなた方は……片桐先輩と瀬名先輩?」


「私達を知ってるのか。」


「当たり前です!お二人は人間国宝並みの美人で、立海のNo.1とNo.2なんですから!」


「話しかけてもらえて光栄です。」


「……よくわからんが、お前等に聞きたい事がある。」


「何ですか?」


「お前らはテニス部員だよな。」


「そうですけど、それが?」


「こんな時間に何しに来た。」


「何って、朝練前の準備ですけど……。」


「私達が聞きたいのは…マネージャーがいるのに、部員のあなた達がマネージャーの仕事をしなくてはいけない理由よ。」


「えっ…………それは……。」






揃って俯く二人。

瀬名の見立て通りで間違いなさそうだな。





そして
何故それに従っているのか、だ。





「澪、予想していた通りで間違いなさそうね。」


「あぁ。」


「………。」


「率直に聞くわ。」


「え……?」


「七瀬 咲が自殺にまで追い込まれた原因は何?」


「っ!!」


「知っている事があったら、教えて欲しい。」


「そ、それは……。」


「誰に脅されている。」


「っ………うっ……。」





大量の冷汗。

片方の奴は涙まで流す始末。




こいつ等がここまで怯える理由は何だ。
一体ここで何が起きてやがる。






「……安心しろ。」


「片桐、先輩……?」


「私達に話して、お前等に何かあった時は……必ず守る。」


「っ……。」


「澪の事信じて大丈夫よ、嘘はつかない人間だから。」


「……わかりました。」


「礼を言う。」


「あいつが……東堂がマネージャーになるまでは、何も問題の無いテニス部でした。」


「やはり、東堂が絡んでいるのね。」


「咲先輩一人だけの時は良かった。テニス部全体に纏まりがあって、テニスの事だけを考えていられた。」


「それで?」


「真田副部長も柳先輩も、仁王先輩もブン太先輩達も皆……咲先輩を大切に思ってたんです。先輩はレギュラー陣だけでなく、俺達の事までいつも気にかけてくれた。」



「東堂が来てから、おかしくなったというのはどういう事だ。」


「あいつ、外面が良くて最初はわからなかったんですけど…凄い嫉妬深いと言うか、傲慢で、気に入らない奴に対しては態度がもろに出てて。」


「でも、逆らっちゃいけない人間とそうじゃない人間の区別はちゃんとするので……。」


「要は、レギュラー陣には手を出さないけどあなた達にはそうではなかったという事ね?」


「はい……。」


「……気なくせぇ話になって来たな。」





詳しく話を聞くと

東堂はレギュラー陣には媚びを売って
そうでは無い奴らには雑用を押し付けたり
理由をつけて脅しては奴隷の様に扱ったらしい。



そして、レギュラーの奴等は
東堂の外面の良さと可愛さに騙されて
良いようにコントロールされてたって事か。





「俺達の父親は、二人共あいつの父親が経営している会社に勤めてて……言う事聞かないとどうなっても知らないぞって。」


「瀬名、東堂の親父の会社って?」


「大手ゼネコンの東堂建設よ。」


「東堂建設?それ、うちの直下の会社だな。」


「なるほど、それを武器にあなた達を良い様に使ってたわけね。」


「はい……。」


「それで、咲があそこまでしなきゃいけなかった理由は何だ。」


「それは………っ!!」


「ん?どうした。」


「あー!片桐先輩と瀬名先輩だぁっ!」


「………親玉登場か。」


「ブン太先輩、柳先輩!立海の一位、二位を争う美貌の持ち主、片桐先輩と瀬名先輩ですよ!」


「桜良、俺達は三年だぞ。それ位知っている。」


「えへへ、そうでした。」


「そんで?お前等、こんな所で何してるんだよぃ。」


「うちの部員に何か用か。」





東堂達が現れた瞬間から
こいつ等の顔は異常な程に青ざめている。


それ程までに
こいつ等にとって東堂、レギュラーの奴等は
恐ろしい存在だという事か。









ちっ、胸糞悪りぃ……。





「二人共、片桐先輩達に失礼な事言ってないでしょうね。」


「お、俺達はっ……。」


「……お前等、名前は。」


「えっ……一年の、早川慶太と、相楽慎二です。」


「そうか……慎二、慶太。」


「は、はい。」


「ハンカチ拾ってくれて、ありがとうな。」


「えっ……?」


「この恩は忘れない、何か困った事があったらいつでも頼れ。」


「あ………はい、ありがとうございます。」


「部活頑張ってね。行きましょ、澪。」











慶太、慎二。


お前等が私達を信じて
勇気を持って話をしてくれた事、感謝する。










咲の自殺理由には
辿り着けなかったが収穫はあった。








東堂 桜良。

あいつが親玉なのは確実だな。
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