*season 7* fin
それにしても
凄まじい人混みだ。
この会場に俺達を含めスタッフも合わせると
三百以上の人間がいる事になる。
凛花はこちらの方に
月がいると言っていたが
この人混みから彼女を探し出せるだろうか。
「あ、月さん!」
「月か……っ!」
「え?月さん、どうしました?」
「い、いや……。」
向日葵柄の紺の浴衣。
髪を後ろに結い上げて
首元はいつもに増して無防備だ。
愛らしく可憐な彼女に
俺はいとも容易く、心を奪われた。
今すぐに触れたい。
その欲求を抑えるのに必死で
月の顔をまともに見る事が出来ない。
「月さん、青の浴衣とっても素敵です!」
「そうか…お前もよく似合っている。」
「ありがとうございます!」
「もう用意は終わったのか。」
「はい、遠野さん達を待ってます。」
「遠野……?」
「遠野さんと大曲さんの髪を結って差し上げたくて。」
「…………。」
遠野、か。
わかっている。
そこに他意は無いと。
確かに遠野の髪は手入れが行き届いている。
月が綺麗だと言うのも理解出来る。
それに遠野は月にとって
危機を救ってくれた、云わば恩人だ。
友好的になるのも当然だ。
だが………
俺以外の男に触れて欲しくない。
ただ、それだけだ。
「月さん!」
「ん、どうした。」
「私の特別は月さんだけだから、そんな顔しないで下さい。」
「月……ふっ、お見通しという訳か。」
「当たり前です、いつも月さんの事見てますから。」
「そうか。」
「猫娘、着替えたぞ。」
「たく、何で俺まで……。」
「わぁ、やっぱり似合いますね!」
「当たり前だろーが……げ、越知。」
「げ、とは何だ。」
「まずは遠野さんから始めますよ!座って下さい!」
「お、押すんじゃねぇ!」
遠野の髪を櫛を入れる。
月の笑顔が遠野に向けられる。
それが遠野だというだけで、酷く心が揺らぐ。
テニスでは揺れ動く事の無い精神も
月の事になると、何の意味もなさない。
「越知、お前さんも大変だな。」
「どういう意味だ。」
「瑞稀は遠野に対して特別な思いがあってやってる訳じゃねぇ。所謂、天然とかいうやつだ。」
「それがどうした。」
「無意識なのが、余計にタチが悪い。」
「……。」
全くもって、その通りだ。
悪意が無いからこそ
”やめろ”の一言が言えないのだ。
嫉妬にまみれた醜い俺を
お前に見せる事など出来ない。