*season 7* fin
夕方になり
私は花壇に水やりをしていた。
夏は日が長い。
時間はもう18時なのに
空はまだ明るい。
夏のこの感じは嫌いじゃない。
「ふぅ……夕方になると暑さも和らぐな。」
「瑞稀。」
「あ………越知さん。」
「花壇の手入れか。」
「は、はい。この時間は作業しやすいので。」
「そうか。」
「……。」
何を話せばいいかわからない。
作業の手は止めず、水やりを続ける。
今は越知さんと目を合わせるのが怖い。
徳川さん達に話を聞いて貰い、気持ちは吹っ切れた。
でも、彼との向き合い方がまだわからない。
好きなのに、大好きなのに
どうしてこうも上手くいかないのだろう。
「……瑞稀。」
「…はい。」
「俺といて、お前は楽しいか。」
「え……?」
「俺といて、何か得るものはあるか。」
「それは、どういう意味ですか……?」
「俺は、お前を泣かせてばかりだ。お前が無理して俺と付き合っているのならば……俺は……。」
「それって……。」
付き合う前に戻ろうって事……?
越知さんは?
越知さんは私といて楽しい?
私と付き合っている事で何か得るものはある?
きっとない。
いつも心配かけて
都合が悪くなったら泣いて。
私といて笑ってる事の方が珍しい。
越知さんは私がいない方が
テニスも上手くいくのかもしれない。
「俺はお前に、辛い思いをさせたくない。」
「……一緒にいたいからじゃ、だめですか?」
「……。」
「何か得るものが無いとっ、一緒にいちゃだめですかっ……?」
「瑞稀……。」
「っ……私っ、こんなだから……越知さんに迷惑かけてばっかりでっ……。」
「……。」
「でもっ……私は越知さんと一緒にいたいっ……。」
ギュッ
「あっ……。」
「……すまなかった。」
「え……。」
「俺は、お前を一秒とて離したくない。」
「越知、さん……。」
「俺は他人の気持ちに対して鈍感だ。幾度、お前を傷付けたか知れない。」
「………。」
越知さんの表情は変わらない。
だけど、少しだけ寂しげに見える。
抱き締める腕に力が入る。
越知さんの広い胸に顔を埋める。
越知さん香りに包まれる。
越智さんが好き。
辛い時、寂しい時、苦しい時
いつも傍にいてくれる。
不器用だけど、温かい人。
私も越知さんも
自分の気持ちを伝える事が苦手だ。
だからこそ、言葉にしなくていけない。
言葉にしなくては
こんな事が永遠に続いていくから。
私は笑顔でこの人の傍にいたい。
「私、越知さんの事大好きです……。」
「俺も同じだ。」
「だけど、私のせいでテニスに影響が出てしまうのは嫌なんです……。」
「瑞稀……。」
「だから、私の事は必要以上に気にかけないで下さい。私は越知さんを応援したいから。」
「……わかった、俺は俺の成すべき事をする。」
「はい、応援してっ……んっ……ぁっ……。」
重なる唇。
越知さんの腕は
先程よりも強く私を抱き締める。
目が眩む程の情愛に包まれる。
もう拒む事はしない。
彼の首に腕を回し、全て受け入れる。