*season 7* fin
「さて、そろそろ行くか。」
「せやな。」
「皆さん、予定があったんですね。」
「てめぇもだろ、猫娘。」
「へ?」
「コーチから聞いてへんの?明日の祭ん時に着る浴衣選ぶんやて。」
「私もですか?」
「齋藤コーチの事だ、また忘れたんだろ。」
私も浴衣着ていいの?
うわぁ………凄く嬉しい!
浴衣とか何年ぶりだろう。
最後に浴衣を着たのは
五歳の時の地元の小さなお祭り。
お父さんとお母さんと私。
三人で行った最後の夏祭り。
あの時着たのは、お父さんが選んでくれた
白い生地に花の模様が入った浴衣。
あの時は良かった。
まだ人を信じる事が出来たから。
あの時のままでいられたら
どれだけ良かったか。
あのままでいられたら
私は傷付く事も、人を怖がる事も
お父さんを嫌いになる事もなかった。
私とおばあちゃんを傷付けた人達が憎い。
私とお母さんを置いていったお父さんが憎い。
前に進むと決めたのに、過去に囚われてる私も憎い。
「猫娘、行くぞ。」
「…………。」
「月ちゃん、どないしよった?」
「あ、いえ…今行きます。」
種子島さん達と
浴衣の試着会場に到着。
そこには凄まじい数の浴衣。
あ、入江さんや鬼さん達も試着してる。
そういえば、越知さん……。
どこにいるんだろう。
「おぅ、お前達か。」
「鬼、お前似合いすぎだし。」
「時代劇とかに出てきそうだよね。」
「それにしても、ぎょうさんあるんやなー。」
「本当ですね、迷っちゃいます。」
「あ!月ちゃん、先輩達!」
「毛利さん!」
「皆遅いっすわ、俺なんかもう決めてしもたで。」
「朱色の浴衣……似合ってますね!」
「月ちゃん、おおきに!」
毛利さんも鬼さんも
凄くよく似合ってる。
越知さんは
やっぱり青色の浴衣なのかな?
私も浴衣選びながら、越知さんを探そう。
「何色にしようかな……。」
全部可愛いな…。
ピンクはちょっと可愛すぎるし
白は植木鉢用意する時に汚れ着きそうだし
青は越知さんと被りそうだし
赤は毛利さんが着てたし
黄色は……さっき入江さん着てたな。
何色なら誰とも被らないんだろう。
そもそも中学生、高校生合わせて
凄い数いるから被らないとか無理なんじゃ……。
「あ…向日葵柄の浴衣だ。」
「それ、可愛いですよね。」
「え……あの……。」
「急に話しかけて、ごめんなさい。私、浴衣のレンタル会社の手伝いで来てるの。」
「そうだったんですね。私はこの施設の植栽管理を担当してます、瑞稀 月です。」
「私は越知 凛花(おち りんか)。よろしくね。」
若そうだけど
凄く美人な人……。
サラサラなブラウンの
ロングヘア。
肌は白くて、目はパッチリしてて
立ち姿がすらっとしてモデルみたいな人だ。
というか
今、越知って………。
「あの、越知って……。」
「凛花、着たぞ。」
「あ、月光!やっぱり似合うね!」
「越知さん…?」
「ん?瑞稀か。」
「お二人は、お知り合いなんですか?」
「月光とは幼馴染で、同じ高校なの。」
「凛花とは、従兄弟だ。」
「従兄弟……だから苗字が一緒なんですね。」
「そうそう!月光、ここ少し崩れてるから帯結び直すよ。」
「ああ、頼む。」
「任せて!」
そういうと
凛花さんは越知さんの腰に手を回した。
何か、抱きついてるみたい……。
凛花さんは
浴衣の着付けをサポートしてるだけで
ただそれだけなのに……。
越知さんの表情が柔らかくなっているのは
紛れも無く凛花さんが原因だ。
それがどうしようも無く、私の胸を締め付ける。