*season 7* fin





次の日
私はいつも通り作業をしていた。



心のモヤモヤが晴れたせいか
作業が捗る事この上ない。
今日はここの草むしりを終えてしまおう。






でも
あの時の越知さんを思い出すと……。




「あぅ……恥ずかしくて、死にそう……。」


「どうしたんだい、瑞稀さん。」


「あ、入江さん。お疲れ様です。」


「お疲れ様、どうしたの?顔が茹でダコみたいだよ
?」


「茹でダコ……。」


「あはは、冗談だよ。」


「もう……入江さんは休憩ですか?」


「そうだよ、作業に夢中になってる瑞稀さんを見つけたからちょっかい出しに来ちゃった。」




入江さんは
どこからどこまでが本当なのか
わからないや……。


この人の雰囲気は
一見穏やかそうに見えて謎に満ちてる。
笑顔の奥に何が隠れているのか、気になってしまう。




「そんなに見つめて、僕の顔に何か付いてるかな。」


「あ、ごめんなさいっ…。」


「ふふっ、君はいちいち可愛いね。越知が魅入られるのもわかる気がするよ。」


「も、もう!からかわないで下さい。」


「ごめんごめん、本当はコーチから伝言。」


「伝言?」


「明後日、地域振興として一般客を入れて夏祭りをやるので、持ち帰り用の小さい植木鉢を二百程用意して欲しい。って言ってたよ。」


「……………へ?」


「伝え忘れてて申し訳ない、だってさ。」




明後日までに
植木鉢を…….二百………?




にひゃくぅぅぅう!?




「………。」


「大丈夫?」


「……はっ!草むしりなんかやってる場合じゃない!入江さん、失礼します!」


「あ、行っちゃった……ふふ、可愛いな。」





明後日までに二百って
どう考えても伝えるの遅すぎでしょ!!
齋藤コーチだ、絶対齋藤コーチだ!



間に合うかな……。
いや、絶対に間に合わせる。
これは私にしか出来ない事だ。


まずはお母さんに連絡して
種類の選定と、仕入れ数を確認しなくちゃ……。





「うん……わかった。お母さんありがとう。」





よし。
仕入れ数は何とかなりそう。
後は、花の種類を何にするかだな。


用意出来るのは
ルリマツリ、ダリア、ジニア、エボルブルスか。
ダリアとジニアは明るい色味だけど
ルリマツリとエボルブルスは蒼い爽やかな色味。



全部好きなんだけど、どうしようかな…………。
暖色系と寒色系から一つずつとかダメかな。





「んー……。」


「瑞稀。」


「あ、越知さん。お疲れ様です。」


「先程から一人で百面相をしているみたいだか、何かあったのか。」


「明後日の夏祭りで、一般のお客様にお持ち帰り頂く花の選定をしていました。」


「そうか。俺で力になれる事があれば、協力する。」


「ありがとうございます、じゃあ……。」






越知さんは私の隣に腰掛けた。

腕が触れる。
ふと、横顔を見つめる。
越知さんを近くに感じて鼓動が早くなる。


目が合うと恥ずかしくて逸らすのに
それとは裏腹に、こっちを見てと思ってしまう。
私は貪欲な人間だ。これ以上何を望むのか。





あの時のキスの感触が全身を襲う。





「瑞稀、どうした。」


「え……あっ、ごめんなさいっ!」


「………。」


「そ、それで花の種類をっ……んっ……ぁっ……。」





私の言葉を遮り、唇を奪う。

突然の行為に驚き
押し返そうとする私の手を
越知さんは片手で軽々と包み込んだ。


後は越知さんのなすがまま。
舌が淫らに絡み合う。
くちゅくちゅと水の音が脳髄まで響く。





濃くて、甘くて、深い口付け。

その甘さに酔いしれた私は
気付けば、自分から彼を求め舌を絡めていた。
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