思えばあの時も、瑞稀が負傷した時も
一番に気づいてやれ無かった事に
どうしようもない気鬱を纏った。



あいつを救い出したのが自分では無く
何故、遠野だったのかと……。
本来ならあの程度で済んだ事を安堵すべきだ。
それさえも出来ない程、俺には余裕が無い。





瑞稀を愛らしく思うこの心緒も
大切にしたいという素直な想いも……。


お前に伝えなければ無意味なものになる。






「今日も可愛いな……。」


「瑞稀、そこにいたか。」


「えっ……越知、さん？」


「急にすまない、少し時間を貰えるだろうか。」


「私もっ……私も、越知さんと話したかったです。」


「……そうか。」






瑞希は真っ直ぐに俺の目を見る。
今にも泣き出しそうな不安に満ちた表情で。





俺はお前に
こんな顔をさせてしまっていたのか……。


お前を傷付けたくない一心で
距離をとったというのに
俺のした事が裏目に出ていたのだな。






「越知さん、私っ……。」


「……すまなかった。」


「え……どうして、謝るんですか。」


「あの日の夜、お前は ”見ないで” と言ったな。」


「は、はい……。」


「お前を怖がらせてしまったと思った。お前の言葉を鵜呑みにして、無理をさせていたのだと。」


「そんなっ……。」


「お前に拒絶される事が怖かったのだ。お前が離れてしまう前に、自ら離れようと思い避けるようになった。」


「………。」


「だが、気付けばお前の事ばかりを考えていた。練習に差し支えてしまう程に。」


「越知さん……。」


「お前を不快にさせた事を、許してくれるだろうか。」





ｷﾞｭｯ





「瑞稀………？」


「良かったっ……。」


「良かった……？」


「越知さんに嫌われちゃってたら、どうしようって……ずっと心配で……。」





瑞希は俺の腹部に顔を埋めている。
きっとまた、瞳を潤ませているのだろう。





俺が瑞稀を嫌う？

これ程にまで愛らしくて
すぐにでも触れたいというのに。





「私があの時、見ないでって言ったのは……。」


「……。」


「越知さんが怖かったからとか、じゃなくて………その………。」


「どうした、はっきり言え。」


「っ……越知さんの顔が近くてっ……恥ずかしくて……思わず、そう言っちゃいました。」


「………恥ずかしいとは、どういう意味だ。」


「わからないけど……越知さんと目が合ったり、触れられたりすると、胸がキューって……。」


「……顔が真っ赤だな。」






瑞稀の頬を包む。
潤んだ瞳で俺を見上げる。



胸を締め付けられる様なこの感覚は
瑞稀の感覚と類似性のあるものなのだろうか。


同時に早くなる鼓動。









気付けば俺は
瑞稀に唇を重ねていた。