*season 7* fin
暗い、暗い水の中……。
ここはどこだろう。
体が重い……。
私、何でこんな所にいるんだっけ。
確か、花の手入れをしてて
それで……。
”その顔、堪んねー”
「いやぁっ!」
「!」
「はっ……はぁっ……。」
「瑞稀、大丈夫か。」
「越知、さん………ここは……。」
「ここは医務室だ、安心しろ。」
医務室……。
そっか、私あの後気を失って
君島さんがここに運んでくれたんだ。
あんな事に
遠野さんや君島さんの事も巻き込んで
申し訳ない事をしてしまった。
「……話は聞いた。」
「………。」
「痛かっただろう。」
「っ……。」
「我慢しなくていい。」
「やっ……だっ……泣きたくっ……なっ……。」
グイッ
「越知さっ………?」
「これなら見えない。」
「っ……うぁっ……ふぇっ……。」
「……。」
泣くのを見られたくないのを察したのか
越知さんは私の手を取り自分の胸に引き寄せた。
泣きたくない。
泣いたら負けたって
認めた事になる。
負けたくない
絶対に負けたくない……。
「っ……ごめんなさいっ……越知さん……。」
「気にするな、少し落ち着いたか。」
「はい……。」
「……気づいてやれず、すまなかった。」
「どうして、越知さんが謝るんですか……悪いのは、私なのに。」
「……君島達から話を聞いて、怒りでどうにかなりそうだった。」
「え……?」
「お前のこの手には、想いがある。誰かに踏みつけられて良いものでは無い。」
「っ……。」
包帯の巻かれた私の左手を
大きな手で包み込む。
越知さんの瞳は
私を捉えて逃がさない。
その瞳からは後悔と凄まじい憤懣を感じる。
何の関係もない
越知さん達に迷惑かけて
私は何をやっているんだろう。
謝らなきゃいけないのは
私の方なのに……。
「目が覚めましたか、瑞稀さん。」
「君島さん、遠野さん…。」
「……大丈夫なのか。」
「はい……ご迷惑をお掛けして、本当に申し訳ありませんでした。」
「気にしないで下さい。あそこで食い止められたのが、せめてもの救いでした。」
「俺様が気付いたから良いものの、何で黙ってた。」
「気付いてた……?」
「えぇ、あなたの様子がおかしかった事に気付いたのは遠野君です。」
「遠野、どういう事だ。」
「……今朝こいつと会った時に、今日城聖高校の奴らが見学に来る事を話した。」
「あ……。」
「そしたら、こいつの顔色が一気に悪くなった。あまりに不自然だったから、おかしいと思ったんだよ。」
遠野さん
その事を覚えてて
私の行動に注意してくれてたんだ。
でも
遠野さんが気付いてくれなかったら
今頃、私は加藤君に……。
そう思ったら
震えが止まらなくなる。
怖い……嫌だ……。
「やっ……怖いっ……もう……やだっ……。」
「瑞稀、落ち着け。もう、あいつらはいない。」
「ぅっ……。」
「城聖高校のあの二人は、既にここにはいません。コーチ達は警察に通報すると激怒していましたが、あなたの意向を聞きたいと思いまして。」
「警察……。」
「今回彼らがした事は、立派な犯罪です。あなたが望むなら、日本テニス協会は全面的にあなたを支持します。」
「………警察には、言わないで下さい。もう、あの人に……関わりたくない。」
「……。」
「それで、本当に良いんですね。」
「……もう、思い出したくないんです。」
警察なんかに言ったら
また、あの事を思い出さなきゃいけない。
もう、あの人に傷つけられたくない。
怖い思いをしたくないから。