*season 7* fin
「昼間に比べて、とても静かですね。」
「あぁ。」
「……くしゅっ!」
「大丈夫か。」
「大丈夫です。暑いと思って半袖で来たんですけど、少し冷えただけです。」
「これを着ていろ。」
そう言うと越知さんは
自身で着ていた上着を私の肩にかけた。
サイズが大きくてすっぽり包まれる
越知さんの香りに包まれている様な
何とも言えない感覚に胸が高鳴る。
「あ、ありがとうございます。」
「顔が赤いが、どうした。」
「いえっ、大丈夫です!それで話って…。」
「……。」
「…越知さん?」
「………俺は、精神の暗殺者(メンタルアサシン)と呼ばれている。」
「精神の、暗殺者?」
「そう呼ばれる由縁が、この目だ。」
「目……それはどういう……。」
「俺の目は、見た相手の精神的重圧を増幅させる。所謂、プレッシャーと呼ばれるものだ。」
「……。」
「試合でもある程度武器になるが、不本意に相手を怖がらせてしまう事が多々ある。」
「越知さん……。」
もしかして
その目を隠すために前髪を?
話す越知さんの表情は変わらない。
だけど、どこか寂しそうに見えるのは何故だろう。
”不用意に相手を怖がらせてしまう事が多々ある”
多分それは、越知さんを怖がって
人が近寄らなかったという事。
だから私にも怖がらせない様に
余計な詮索をするなって言ったんだ。
「……不用意に近づいて、怖がられるのも本意ではない。」
「……。」
私は越知さんの前髪をどけ
両目が見えるようにした。
こんな綺麗な瞳なのに
隠しておくなんて勿体ないし
私には関係ないもの。
「何をっ………。」
「勿体ないですね、こんなに綺麗な瞳をしているのに。」
「……。」
「せっかく質問に答えて頂いたんですが、私にはよくわかりせんでした。」
「瑞稀……。」
「私は越知さんの目、格好良くて素敵だと思います。だから怖いとは思いません。」
「……そうか。」
「それがテニスで越知さんの武器になるなら、思う存分使えば良いと思います。」
「ふっ……そうだな。」
「でも、私には無理して隠さないで下さい。」
「あぁ、わかった。」
微笑む越知さんの横顔は
月に照らされて優艶さを増す。
越知さんてこんな風に笑うんだ。