*season 7* fin
その日の作業も無事終了。
夕食を取り終えて
19時丁度にメインコートに到着。
越知さんはまだ来てないみたい。
「テニスコートって、よく見ると凄く広いな…。」
何となくは見ていたけど
しっかりと眺める事は無かった。
そのせいなのか、いくら眺めていても飽きない。
誰もいない夜のこの場所は
昼間の生々たる雰囲気からは想像出来ない程
静けさに満ちていて、とても心地が良い。
皆、毎日本当に頑張ってる。
汗だくになって走り回って
時には血を流す事だってある。
正直、私にはわからない。
あんな厳しくて苦しい練習に耐えてまで
どうしてテニスをやりたいのか。
私はあの人達みたいに何かに一つの事に
一生懸命になった経験がないから。
だからなのか、少し羨ましくさえ感じる。
「……19時半だ、越知さん急用でも出来たのかな。」
ニャア
「あれ、猫ちゃんだ……おいでー、怖くないよ。」
白くて毛並みの良い猫ちゃん。
どこから迷い混んだのかな。
野良猫では無さそうだけど…。
観覧席に腰掛けていた私の足の上に乗り
気持ち良さそうに毛繕いを始める。
のんびりとしたその様子に自然と笑みが零れる。
昼間、けたたましく鳴いていた蝉も
夜になると殆どその声がしない。
この空間は時間を忘れてしまう程
悠々として、穏やかだ。
「あれ、もう20時……何かあったのかな。」
ニャア
「夏だけど、昼間と比べると少し冷えるね。猫ちゃん寒くない?」
猫ちゃんは気持ち良さそうに
喉をゴロゴロと鳴らしている。
この子を見てたら
何だか私まで眠くなってきた。
「瑞稀!」
意識の落ちかけていた私は
突然の呼び掛けに体を強ばらせる。
足の上で寛いでいた猫も
声に驚いたのか茂みの方に走って行った。
「びっくりした……越知さん、こんばんは。」
「待たせて、すまない…。」
「気になさらないで下さい、それよりも越知さんがご無事で何よりです。」
「……。」
「何かあったのかなって、少し心配だったから。」
「ミーティングが長引いただけだ、心配には及ばない。」
越知さん、少し汗かいてる…。
ここまで走ってきたのかな。
「なら良かったです。良かったら、ハンカチ使って下さい。」
「さしあたって、問題は無い。」
「ダメですよ?夏と言えど、汗は放っておくと体が冷えて体調を崩す原因になるんですから。」
「……すまない。」
まったく…
素直じゃないんだから。