*season 7* fin
「とにかく、軽い熱中症だと思いますので水分をとってゆっくり休んで下さいね。」
「君島さん、ありがとうございました。」
「それでは。遠野君、行きますよ。」
「じゃあなぁ、猫娘!ひゃーはっは!」
遠野さんがいなくなったら
急に静かになったな。
処刑とか言ってたけど
一体どんなテニスをするんだろう。
今度練習を盗み見してみようかな。
「本当に大丈夫なのか。」
「はい、少し日に当たり過ぎただけなので。」
「そうか。」
「越知さんは、私に何か御用でしたか?」
「用と言う程では無い、ボールを見つけてくれた礼をしに来ただけだ。」
「え?わざわざ、その為に…?」
「手間をかけてすまなかった、礼を言う。」
「………越知さんて、優しいんですね。」
「優しいとは、どういう意味だ。」
今日、初めて会った時は
その表情を読み取る事が出来なくて
謎めいた雰囲気に少し戸惑った。
越知さんは他人にあまり興味が無さそうで
そんなに関わる事も無いと思ってた。
だけど、こんな些細な事にも
わざわざお礼をしに来てくれる人。
本当は凄く優しくて
真っ直ぐな人なんだと思う。
「ふふっ、秘密です。」
「む………。」
「気になりますか?」
「……さして興味は無い。」
「素直じゃないですね、越知さん。」
「あまり、からかうな。」
「月さーん!」
「毛利か。」
「あれ?月ちゃんもおったんやね!」
「お疲れ様です、毛利さん。」
「お疲れ!月さん、もう夕飯の時間やのにどこ行ったんかと思いましたわ。」
「もうそんな時間か。」
時計を見ると18時を回っていた。
越知さん達との話に夢中で
知らない内にこんなに時間が経ってたんだ。
普段は母とお客様以外の人と
殆ど交流がなくて、それが楽だと思ってた。
むしろ、それ以上の関わりは必要なかった。
関わらなければ
期待する事も、傷付く事もないから。
だけど
私も少しずつ
前に進むべきなのかもしれない。
「月ちゃん?」
「え?」
「ぼーっとして、どないしたん。」
「やはり具合が悪いのか。」
「いえ、ちょっと考え事してただけです。」
「そか、ほな行こか。」
「私ロビーの花瓶の水だけ変えて来るので、お二人は先に行って下さい。」
「手伝おう。」
「いえ、私の仕事なので。それでは失礼します。」
タタッ
「……月さん。」
「何だ。」
「良い傾向だと思んますよ。」
「何の事だ。」
「はは、内緒ですわ!」
「………。」
仕事としてだけでは無く
ここにいる全ての人の力になれる様に
私は私のやるべき事を一生懸命やろう。