*season 7* fin
外に出てきたけど
やっぱり暑い。
まだ何もしてないのに
汗が噴き出してくる。
この花壇は
メインコートのすぐ横にあって
彼らの練習風景がよく見える。
どんなに暑くて、疲れていても
彼らは足を止めない。
必死にボールに食らいついて
目の前の相手を超える事だけ考えてる。
感情の見えなかったあの人も…
越知さんもあんな顔をして
汗にまみれて、必死に食らいつくのだろうか。
ふと、越知さんの顔が浮かんだ。
「前に種をまきに来た時は、花壇の手入れが出来てなくてどうなるかと思ったけど……綺麗に咲いてくれた。」
住み込みで手入れを任されたのは
今日からなんだけど、手入れ自体は
半年位前から通いでやってたの。
私のお婆ちゃんは隣町で
花屋を営んでいたんだけど
亡くなってからは母と私が跡を継いだ。
ここの監督で、三船って人が
お婆ちゃんの知り合いだったらしくて
この施設の花壇や植栽の管理を任せたいって
お店の方に連絡が来たの。
母は店長だから
お店を離れる事が出来なくて
私がこっちを担当する事になった。
「向日葵もダリアも、ポーチュラカも…良かった。」
「綺麗に咲きましたね。」
「お疲れ様です、瑞稀さん。」
「ほんま、特に向日葵は可愛ええな。」
幸村君と不二君と白石君。
以前この三人は
私が花壇の手入れをしていた時に
手伝わせて欲しいって言われて色々教えたの。
それからは私がいない時でも
花壇の様子をよく見てくれたみたい。
「三人共、お疲れ様。花壇の手入れもありがとう。」
「コートに来る度に、この子達が出迎えてくれるのでいつもモチベーションが高くいられます。」
「この子達も皆の力になれたなら、本望だと思うよ。」
「なぁ、月ちゃん?この花は何て言うんや?」
「それは ”ルドベキア” っていって、多年草なの。丈夫で夏の暑さにも負けないんだよ。」
「ルドベキア…向日葵の黄色も良ぇけど、この黄色も綺麗やな。」
「最近は品種も増えてきたから、良かったら育ててみてね。」
「そういえば、白石は何で瑞稀さんにタメ口なんだい?」
「え?何でって言われると……可愛えぇから?」
「確かに可愛いけど、俺達よりは年上なんだから。」
「年上かて、そんな歳が離れてる様には見えへんけど。」
それは
あまり触れられたくない話題。
今、私は十六歳。
確かに三人よりは年上。
でも高校は行ってない。
私のお父さんは
小学生の時に亡くなった。
自殺だった。
お父さんは元々精神病を患っていて
病院にも通っていたし、入院する事もあった。
あまり症状も良くなくて
いつかそういう事になるかもしれないって
母も私も覚悟はしていた。
そして、中学に入った頃から
それが原因でいじめが始まった。
会社のお金を横領したとか
不倫が家族にバレたとか訳も分からない
勝手な想像によって生まれた噂話によって
私は虐めの対象になった。
物を盗まれたり
机の上に花瓶を置かれたり
悪口の書かれた手紙を回されたり
典型的な虐めの内容は全部やられた。
それでも私は耐えた。
いつもお婆ちゃんが支えてくれたから
お婆ちゃんの育てた花達が元気づけてくれたから。
だけど、ある日
お婆ちゃんのお店に
虐めの中心グループが来た。
あの子達はふざけて
お店に並んでいた鉢植えを壊して逃げた。
お婆ちゃんが一生懸命育てた花達を殺した。
今でも忘れない。
お婆ちゃんの悲しげな泣き顔。
いつも向日葵みたいな
満天の笑顔で笑っていたお婆ちゃんが
初めて流した大粒の涙。
学校にも話をしたけど
担任の先生や校長先生達は
”証拠がない” とか ”見間違えじゃないか”と
面倒なのか全く取り合ってくれなかった。
結局
警察に通報すると言ったら
学校側も虐めの中心グループも
事の重大さを理解したのか、認めて謝罪した。
壊した物も弁償させたけど
お婆ちゃんが傷付いた事実は変わらない。
私のせいで涙を流した事実は変わらないから。
私はもう、学校という場所にも
人という存在にも何の希望も感じなくなった。
そして、中学卒業と同時に
お婆ちゃんは亡くなった。
その後、母と私はお婆ちゃんのお店を継いだの。
これが私が高校に行かなかった理由。