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“俺、引くつもりないんで。”
流川のあの言葉の意味は、
いくら頭の悪い俺でも容易に理解出来た。
だけど正直そう言われたところで、
何をどうしていいのかはわからない。
だだ、募る不快感。
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「今日、流川の当たり強かったっすね。」
練習帰りに立ち寄ったマックで、宮城は半分しか残っていないコーラを片手にそう言った。
「今日も1人で残ってやってたし、あいつが気合い入ってんのはいつものことだろ。」
「そうっすけど。何か三井さんにだけ特に強くなかった?」
確かに、今日の流川の俺への当たりは強かった。
その理由が何なのかはわかってはいるが、正直あの冷静沈着な流川が公私混同するのは意外だった。
「何かしたんすか?」
「何もしてねぇよ。」
「何もしてねぇって顔じゃないすけど。」
「…多分」
「多分?」
「流川は咲が好きなんだと思う。」
宮城は「まじで!?」っと声を上げた。
「え、三井さんどうすんの?」
「どうもしねぇよ。」
「まじか。」
「ただ…」
「ただ?」
「流川見るとすげぇイライラする。」
俺のその言葉に、宮城は眉をひそめて怪訝そうと言うよりは呆れたような顔をした。
「アホすか?」
その顔でそんな言葉を吐き出されると、さすがに納得いかず噛み付きたくなる。
俺は思わず声を上げた。
「あ!?何でアホなんだよ!?」
「三井さん、本当にわかんないの?」
「何が!?」
「まじか。」
「お前にはわかるのかよ?このイライラが。」
「まぁ…何となく。」
「何だよ?」
「教えないっすよ。俺が言うことじゃないし。流川に直接聞いてみたら?」
「お前見てるとイライラするって?言えるわけねぇだろ。ぶっ殺される。」
「それも変か。」
宮城は小さく溜め息をついて、カップの中の氷をカラカラとストローで回し始めた。
俺もそんな宮城と同じように、汗をかいたアイスコーヒーのストローをクルクルと回してみる。
宮城は少し考えながらうーんと伸びをして、上に突き上げた手を一気に下ろした。
それと同時に今度は大きく深呼吸にも似た溜め息をつくと、俺に問いかけるようにこう言った。
「三井さんはさ、今までの彼女のどこが好きだったの?」
「何だよいきなり。今関係ないだろ。」
「どこ?」
「どこって…」
「どうせ告られたからとか、あんまり深く考えたことなかったんじゃないの?」
宮城のその一言に、俺は何も言えなくなっていた。
まさにその通りだったからだ。
急に恥ずかしさが込み上げてくる。
「じゃあ好きってなんだよ。」
「そんなん自分が一番よくわかってんじゃん。」
「は?」
「あとは自分で考えて。」
宮城は回していたストローを止めそれを口元に運ぶと、残りのコーラを勢いよくズッと吸い込んだ。
そして不意にスマホに目をやった。
もう少し追及したかったが、そろそろ時間の様だ。
「そろそろ行くか?」
「そうっすね。」
店を出ると、辺りはもう薄暗くなっていた。
湿った空気が体中に纏わりついて、夏はもうすぐそこまできているんだな。と実感する。
「電車来そうなんで、先行きます。」
「おう、またな。」
宮城は足早に改札を抜け、1番ホームへと走っていく。
俺は逆方向の2番ホームなので、電車が来るまでもう少し時間がありそうだ。
俺はゆっくりと改札を抜け2番ホームへと足を進めると、ホッと一息ついて駅のホームの冷たい椅子に腰を下ろした。
反対側のホームの電車が発車したせいか、吹き抜ける低気圧の強い風がとても心地良かった。
咲は今頃何をしているんだろうか。
柄にもなく“何してる?”なんて彼女にラインを送ってしまったのは、きっと宮城とあんな話をしたせいだ。
遠ざかっていく宮城の後ろ姿にも、なぜか罪悪感に似た感情が込み上げた。
あれだけ自分で否定しておいて咲と関係があるなんて、そんなこと言ったら宮城は一体どんな顔するんだろうか。
流川と同じように、あいつも俺に言うんだろうか。
“最低だな”と。
乗り込んだ電車の中で、俺はドアの近くの手すりに掴まり窓の外を眺めていた。
ふと、さっき咲に送ったラインのことを思い出した。
スマホには既読の文字がついていたが、それ以降のメッセージはなかった。
スマホを無意識にスクロールしていると、いつの間にか1つ目の駅に停車していた。
反対側の扉が開き、パラパラと人が降車していく。
不意にドア越しに反射して写った反対側のホームに、2つの重なりあう人影を見つけた。
その瞬間、心臓がドクンッと大きな音を立てた。
咲と流川だったからだ。
抱き合う2人の姿を目の当たりにして、あの日見た夢がフラッシュバックして、気がついたら俺は咄嗟に顔を伏せていた。
心臓は驚くほど早く鳴り出し、手すりを掴んでいた左手は小刻みに震えている。
扉が閉まるまでの時間がとても長く感じて、発車した後もしばらく顔を上げることが出来なかった。
また、募る不快感。
咲に好きな人が出来ることぐらい想像できた。
なのに、俺はどこかで安心しきっていたのかもしれない。
俺の日常が変わることは絶対にないと。
変わらず咲を逃げ道にして、密かに木暮を想う毎日。
そんな俺だけに都合の良い毎日が変わらず続くことを。
この不快感の正体は、今はいくら考えても俺には答えが出せそうになかった。
ただ、重なりあう2人の姿が目に焼き付いて離れなかった。