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夢を見た。
“バイバイ”って、咲が俺に手を振る。
笑顔を少し歪めて、少しだけ無理して笑って。
そしてそんな咲の隣には、
よく知るあいつ。
流川楓。
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目が覚めて、意外にも動揺している自分に驚いた。
何であんな夢見たんだろう。
まるで悪夢でも見たかのように背中に一筋の汗が流れて、連鎖反応のように体中から汗が吹き出る。
「寿?」
俺の腕の中から聞こえる彼女の声。
その声に視線を落とすと、彼女はその小さな体を丸めて、虚ろな目で俺のことを見上げていた。
「咲…」
「寿、大丈夫?」
「ん…今、何時?」
俺の言葉に咲は気だるい体を上半身だけ起こして、枕元に置いてある自分のスマホに手を伸ばした。
白いシーツの隙間から微かに覗く華奢な肩のラインが、何だか無性に色っぽかった。
「8時ちょっと前。」
咲はスマホを置くと、俺の腕からスルリと抜けようとした。
俺はそんな彼女の細い腕を思わず掴んだ。
「え、咲もう帰んの?」
「寿、明日朝早いでしょ。」
「もう少しだけ。まだ眠い。」
「え、また寝るの?」
「9時になったら起こして。」
「いやいや、私帰るから。」
「咲も一緒に寝たらいいじゃん。」
「帰るってば。」
「俺がもう少し一緒にいたい。」
「子供か。」と小さく笑った咲の笑顔が、少し歪んだ気がした。
チクッと心臓を何かにつつかれたような痛みが走って、その痛みに思わず声が出そうになる。
俺は無意識に咲の体にしがみついていた。
「寿、どうしたの?」
目を閉じると、さっき見た悪夢が頭の中で鮮明にフラッシュバックした。
肩を並べて楽しそうに歩く2人の姿。
怖い。咲の口が開くのが怖い。
次に出る言葉が“バイバイ”のような気がして怖い。
次の瞬間、俺は強引に咲の唇を塞ぎ込んだ。
「…んっ」
塞ぎ込んだ唇の隙間から微かに漏れる吐息が、俺の欲情に火をつける。
まるですべてを吸い尽くすかのように、これでもかと言うほど彼女の中を掻き乱す。
だけど、離れた唇と唇を結ぶ一本の線を見て思った。
何してだ、俺。
「…ごめん。」
「…寿?」
「おやすみ。」
咲は俺にとって、木暮に対する感情の逃げ道だ。
自分の欲望を満たすための道具なんかじゃない。
そんなもののために使いたくない。
咲を抱くことは、そんな安い欲望のはけ口なんかじゃない。
しばらくして、咲の寝息が聞こえてきた。
彼女のアナスイの香りを睡眠薬に、俺もこのまま眠ってしまおう。
と、思ったその時だった。
咲のスマホが静かに震えた。
枕元に置き去りのスマホが絶えず震え続け、無意識に細めた視線の先に入り込んできた名前。
見るつもりなんてなかった。
“流川楓”
気がつくと、俺は咲のスマホを取っていた。
『咲先輩。』
電話口の向こう側から聞こえるあいつの声。
いつも体育館で聞き慣れているその声が、今は何だか無性に息苦しい。
『もしもし?』
「…」
『咲先輩?』
「…もしもし」
『…三井先輩?』
その声で、電話越しの流川が今どんな顔をしているのか容易に想像できた。
きっと平然とした顔しながら、必死で騒ぐ気持ちを抑えてる。
『…何で?』
「何が?」
『何で咲先輩のスマホに、三井先輩が出るんすか?』
「咲、今出られないから。」
『何で?』
「俺の隣で寝てる。だから出られない。」
『…そういうことかよ。』
「だったらどうなんだよ。」
流川のことだから、俺がこの電話に出た時点で気づいていたと思う。
俺と咲の関係性に。
それがわかっていて、俺はわざとこの電話を取った。
流川にも味あわせてやりたかったからだ。
俺と同じ不快感を。
『最低だな。』
“三井寿は咲を他の女と同じように傷つけている。”
そんな口ぶりで聞き飽きた台詞を吐き出す流川に、俺は若干ながらも腹立たしさを覚えた。
女ったらしの俺も。
木暮への想いも。
咲との関係も。
この一瞬でばれてしまうほど、今まで容易に作り上げてきたわけじゃない。
だから流川にそう思われていることは、むしろ俺にとっては好都合のはずだ。
なのに何なんだろう、この不快感は。
お前に何がわかる。
『三井先輩。』
「何だよ。」
味わえばいい。
俺以上に味わえばいい。
俺以上の不快感を。
『俺、引くつもりないんで。』
流川のその言葉に、心のモヤがまた濃く深くなっていくのがわかった。
もう先が見えなくなるほど埋め尽くされて、俺の心が不快感で充満していく。
流川はいつだって、真っ直ぐで揺るがない強い心を持っている。
脆くて弱い俺なんかとは、比べ物にならないほどの。