Who?
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「誰だよ?」
今日はAセットにしようか。それともBセットにしようか。
1限から悩んでいたのに未だに決まらず、食堂の入り口でそんなことを考えている時だった。
彼の声が突然聞こえてきたのは。
「あ、三井先輩。」
「誰だよ?」
「は?槙田咲ですけど。」
「そんなん知ってる。」
三井先輩の問いかけに答えたつもりだったが、どうやら先輩が求めていた解答ではなかったらしい。
先輩は大きな溜息を漏らして、もう一度私に問いかけた。
「だから誰なんだよ?」
「だから何がですか?」
「好きなやつ、いるんだろ?」
「…誰に聞いたの?」
「宮城。」
おいリョータ。
微かに食堂外のベンチに見えるリョータの姿に、私は精一杯の鋭い視線を送ってやった。
男の鋭く冷たい瞳にも負けず劣らず、相手の構えた気持ちも一瞬で崩してしまう程の視線。
これこそが、私の気が強いと言われる所以なのだろう。
リョータはそんな私の視線に気づくこともなく、今日もまたバスケ部のヤスと楽しそうにランチ中。
そもそもあいつに相談した私が馬鹿だった。
筒抜けになることは目に見えていたのに。
「で、誰?咲の好きなやつって。」
三井先輩だよ。
なんて、そんなこと到底言えるはずもない。
「誰でもいいじゃないですか。」
「何でだよ。宮城には言えて俺には言えねぇのかよ。」
「はい。」
「はぁ!?」
「彼女と幸せな三井先輩には関係ないんで。」
こんなのはただの嫉妬だ。
そのせいでまたきついことを言ってしまった。
何で私はもっとこう、可愛いことが言えないんだろう。
先輩の彼女ならきっと、こんな時でさえ可愛い言葉を先輩に向けるのだろう。
「じゃあ、この話は終わりってことで。」
「勝手に終わらせんなよ。」
きっと先輩にはわからない。
いつだって人に好かれる立場にいる先輩には、自分の気持ちを何となくで解釈する先輩には、私の気持ちなんて絶対にわからない。
やっぱり今日はAセットにしよう。
生姜焼きとご飯と味噌汁のセット。
今日は夜中に1人で思いっ切り泣きそうだから、今の内に体力を付けて、十分に水分補給しておかないと。
その時、三井先輩のスマホがなった。
多分彼女からだ。
「もうっ、なんなんだよ。」
「…出ないの?」
「出るわけないだろ。」
「彼女でしょ?」
「やっぱ言ってなかったっけ?」
「何が?」
「俺、言った気でいたんだけど。」
「だから何がですか?」
「別れた。彼女と。」
「あぁ。…は!?」
まさかの不意打ちに、私の声は見事に裏返った。
その何とも言えない声がおもしろかったのか、先輩はいきなり笑い出した。
「何で!?」
「何でって、咲の声がめっちゃおもしろかったから!」
「そうじゃなくて!何で別れたの?」
「他に好きなやついるから。」
三井先輩は鳴り響いていたスマホに出ることなく、その電話を自ら切った。
「でも、もうフラれてるけど。」
「…へぇ」
「そいつ好きなやついるんだって。」
「…へぇ」
「わかんねぇの?」
「え?」
「まじでわかんない?」
「え?何が?」
「咲なんだけど。」
「は?」
「俺が好きなの、咲なんだけど。」
一瞬、時間が止まったのかと思った。
他の生徒達が忙しく私たちの間を通り過ぎ、痛いほどの視線を注いでいく。
その中で、私はただ一点を見つめていた。
真剣な三井先輩の瞳だ。
「…ムカつく。」
どれほど時間が経ったんだろうか。
そんな白でも黒でもない私の第一声に、先輩は「は?」と声を上げた。
「ムカつく。」
「何が。」
「三井先輩が。」
「は、何で!?」
「そんな簡単に言って。」
「え?」
「私が何ヶ月想ってきたと思ってんの?」
私が何ヶ月も大事に隠してきた気持ち。
その気持ちを、こんなにも簡単に口にしてしまう先輩がムカつくんだよ。
私は今までの女みたいに一筋縄じゃいかないよ?
甘い言葉にも騙されないし、可愛いらしい事なんて出来ないし。
極め付けに素直じゃないし。
だけど、
「私の好きな人、三井先輩だよ。」
誰が好き?
そう聞かれたら、答える言葉はひとつしかない。
悔しいほど、あなたが好き。