キスで起こして
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よく寝るな。
放課後の教室ででかい図体を丸めて、何とも気持ちよさそうに眠る男。
このまま寝かせておこうかとも思ったが、この男の場合このままだと確実に朝になる。
「流川!」
教室中に響き渡る私の声なんて我関せず。
彼は未だに夢の中だ。
こんだけ寝たらでかくもなるわ。
そんなこと思いながら、私は彼の隣に腰掛けた。
「流川!」
「…」
「流川ってば!」
「…あと5分」
耳元で愛しい彼女が名前を呼んでもこの有様。
だけど待たせたのは私の方だから、お詫びの一つでもしてやろう。
私は仕方なしに、彼の頬に唇を軽く押し当てた。
チュッという可愛らしい音が教室中に響いて、何だか無性に恥ずかしくなった。
案の定、彼は即座に目を覚ました。
「…咲。」
「やっと起きた。」
「…起きてない。」
寝ぼけているのか。それとも素なのか。
流川はまた訳のわからないことを言い出した。
「はぁ?」
「だから、俺はまだ起きてない。」
「起きてるじゃん。早く部活行かないと。」
「キスは口にしないと起きない。」
「…アホか。」
「起こして。」
流川は無表情なまま顔を上げると、呼吸する間もなく私の唇を噛み付くように塞いだ。
くっ付いては離れる唇が、放課後の教室にいやらしい音を立てる。
その音が彼の欲望を駆り立てるのか、彼の動きは徐々に激しさを増していく。
息が自然に上がって、体温が徐々に上がっていくのが分かった。
と、スカートの中に何かが入ってきた。
「流川…」
「ん?」
「何この手。」
「俺の手。」
「ここ学校。」
「知ってる。」
「知ってるって。ちょっと、流川っ」
「咲…いい加減それやめて。」
「え?何?」
「“流川”ってやつ。」
だってあなたの名前は“流川楓”でしょ?
話の趣旨が全く掴めない。
明らかにそんな顔の私を見て、彼は小さくため息をついた。
「咲、俺のこと“流川”って呼ぶ。」
「うん。」
「めっちゃ腹立つ。」
「は?」
「名前で呼んでほしい。」
そう言うと、流川は少し恥ずかしそうに視線を逸らした。
だけど最近切った前髪のせいで、不貞腐れていじけているのはバレバレだった。
頬膨らませて。口の先尖らせて。ほらまた、小さくため息なんかついて。
やばい。めっちゃ可愛い。
「流川。」
「楓。」
「…か、え、で。」
「ん。」
「楓!」
いつになく素直にそう言う私に、彼は少し驚いていた。
さっきの不貞腐れた顔なんてどこへやら。
嬉しそうに顔を近づけてくる彼の唇を受け入れるように、私は静かに目を閉じた。
「あ。」
「あ?」
唇が重なる寸前。
彼が何かを思い出したように突然声を上げた。
「何?」
「俺まだ起きてない。」
「思いっきり起きてるけど。」
「起きてない。咲からキスして貰ってない。」
「したじゃん、さっき。」
「あれは俺から。」
「はぁ?」
「咲からしてくれないと起きない。」
とんだ眠りの国の王子様だ。
何だか彼のペースに乗せられてるのが悔しいけど、今日ぐらいは乗せられてやってもいいかな。
「流川。」
「楓。」
「…楓。」
名前を呼んで目を閉じたら、眠りの国の王子様を、優しいキスで起こしてあげよう。
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