彼は綺麗だ。
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
彼は綺麗だ。
一般的に綺麗と言う言葉は男子に使うものではないことはわかっているし、むしろ綺麗と言うよりも格好いいと言った方が正しいんだろう。
だけど私には、彼がまるで後光を背負っているかの様に輝いて見えて仕方ない。
それを綺麗以外のどんな言葉で表現したらいいのか、語彙力の乏しい私には到底思い付かない。
「流川くーん!!」
体育館中に響き渡るその歓声に紛れて、私は女子達の群れの隙間からひっそりと彼を眺める。
それはまるで、雲の切れ間から射す僅かな光を見つけた時の感覚に似ている。
彼は歓声と群れにうんざりした様子で、小さな溜め息を一つ漏らした。
そんな同時に出た溜め息にさえ、勝手に運命を感じてみる。
真剣で真っ直ぐなその瞳。
その瞳が決して私を捕えることはない。
私だけじゃない、此処にいる誰にも向けられることのないその視線は、いつだってただ一点を見つめている。
彼が放ったボールが、綺麗な放物線を描くようにゴールへと吸い込まれていく。
彼の視線はいつだって、バスケットにしか向いていない。
彼の頭の中には、バスケット以外が入り込む隙間なんてきっと微塵もないんだろう。
だからって、別にその隙間を無理矢理こじ開けてやろうなんて思わない。
彼が私に振り向くはずがないことはわかっているし、バスケットに敵う筈がないことも、ちゃんとわかっている。
“槙田咲”と言う私の名前を、流川くんが知ることはきっとない。
だけどそれでもいつもこの場所に足が向いてしまうのは、ただ単純に綺麗な彼を見ていたいからだ。
窓から差し込む夕焼けのオレンジ色が、まるで水彩絵の具を零したみたいに体育館の中に綺麗に浸透していく。
そのオレンジ色が、真剣な表情でボールを追いかける流川くんの漆黒の髪を照らす。
そんな綺麗な姿を、私は今日も瞳に焼き付ける。
やっぱり今日も、彼は綺麗だ。
1/1ページ