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鮮やかな青のストライプの制服。
初めは何だそれと馬鹿にしていたけれど、この人の場合何を着ても絵になってしまうから腹が立つ。
大して乱れてもいない雑誌を整理しているフリをしながら、客がいるにも関わらず何の躊躇もなくでかい欠伸をする。
そんなところはさすがとでも言うべきか。
まぁ、大学生の深夜のコンビ二店員なんてみんなこんなもんなんだろう。
「三井さん、やる気ないっすね。」
俺が呆れたようにそう言うと、三井さんは笑いながらもう一度欠伸をした。
「暇なんだからしょうがねぇだろ。」
「暇でもすることあんじゃねぇの。」
「することないから暇って言うんだよ。」
「うわっ屁理屈。」
「宮城、用ないんなら帰れ。」
「ポテト1つ。」
「はい。はい。」
三井さんは重い腰を上げると、レジに向かいポテトを手に取った。
小銭を出すのが面倒臭くて五千円札を出したら、片方だけ眉を釣り上げて明らかに嫌そうな顔をした。
「小銭出せよ。」
「出せってなんすか。俺客っすけど。」
この人は絶対に接客業には向いてない。
俺がえらそうにそんなこと言える立場でもないけど。
「ちょっ、待ってよ!」
お釣りを受け取ろうとした時、その声と同時に腕を思いっきり引っ張られた。
思わずよろけて彼女と肩がぶつかる。
「何だよ。咲。」
「先に帰っちゃうのかと思った。」
そもそもこんな時間にコンビ二にやって来たのも、元を辿ればこいつのせいだ。
まぁ、咲の深夜の呼び出しには慣れたもんだ。
「お前、そのカゴに入ってんの全部買うの?」
「うん。リョータもアイス食べる?」
「いらねぇ。太る。」
「いや、ポテトの方が太ると思うけど。」
「アイスは甘いだろ。だから太る。」
「何それ。」
「先に外出てるわ。」
足を外に進めようとしたその時だった。
スマホのバイブの音がして、俺はその音に無意識にポケットに手を突っ込んだ。が、俺のスマホは静かに眠ったまま。
同時にスマホを取り出した咲のスマホの画面が光を放っていた。
「誰から?」なんて聞かなくてもわかる。
名前なんて見なくても。声なんて聞かなくても。
咲のその嬉しそうな顔で、誰からかなんてすぐにわかってしまう。
咲は「ごめん、ちょっと持ってて」と笑いながら、自分のカゴを俺に手渡した。
片手にスマホを握り締め、幸せそうな顔で店の外へ出て行く。
友達の俺には絶対に見せない女の顔。彼氏にだけ見せるその表情。
店の外に出る気なんて一気に失せた。
好きな女が彼氏と楽しそうに会話しているところなんて、誰が見たいと思うのか。
「咲、彼氏とうまくいってんだな。」
三井さんは気の抜けたような声でそう言いながら、だるそうにカウンターから身を乗り出した。
視線の先はきっと俺と同じだ。入り口で楽しそうに電話している咲の姿。
俺は重たいカゴを何の断りもなく、カウンターの上にドカッと置いた。
「そうみたいっすね。」
「サッカー部だろ?何でみんなサッカー部が良いかね。」
「人によるでしょ。」
「俺だったら絶対バスケ部。」
「でしょうね。」
「宮城は伝えねぇの?」
「何が。」
「咲に。好きだって。」
「言わねぇよ。言えるわけねぇ…って、えっ!」
何であんたが知ってんだよ!
動揺しすぎてそんな言葉さえ出てこなかった。
カウンターに身を乗り出したまま、三井さんは何もかも見透かしたような顔で笑った。
「バレバレなんだよ。」
「うるせぇな。」
不意に外に目をやると、タイミング良く咲と目が合った。
彼女はいつもみたいにクシャっとした笑顔で俺に笑いかけ、分厚い鏡越しに手を振った。
それに応えるように、俺も小さく右手を挙げる。
「俺は羨ましいけどな。」
「彼氏が?」
「違う。宮城が。」
「は?俺?」
「だって宮城だけだろ?咲にこんな深夜に呼び出される男なんて。」
「それって羨ましいの?」
「宮城は特別ってことだろ。」
俺は、咲に彼氏と別れて欲しいとは思っていない。
奪ってしまおうとも思わないし、壊してしまおうとも思わない。
ただ、どんな形でもずっと咲のそばにいたいとは思う。
恋人には決して敵わない友達というこの関係でも、俺はそれでいい。
すべて無くなるくらいなら、今のこの関係のままでいい。
深夜に呼び出される男なんて、言葉にするとすごく都合良く聞こえるけど。
そんな俺だけの、特別なカテゴリーも悪くない。