本日、好日なり。
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今日は朝からついてなかった。
いつもの交差点で信号につかまって遅刻するし、大嫌いな世界史で一番初めに当てられて大恥かくし、極め付けに大好きなフルーツオレは見事に売り切れ。
だけど、そんなことは一気にどうでも良くなった。
「あ、咲ちゃん。」
あなたに会えたから。
「洋平くん。」
名前を呼ぶのも一苦労だ。
声が上ずらないように。鼓動の高鳴りが聞こえないように。顔が赤くならないように。
いつも通りの私を演じなければいけないから。
「自販機の前で突っ立って何してんの?」
「フルーツオレが売り切れでへこんでる。」
「咲ちゃん好きだもんね、フルーツオレ。俺はブラックがいいな。」
「…誰が洋平くんの分も買うって言った?」
「冗談だって!自分で買います!」
私はフルーツオレを諦めて、仕方なしにイチゴオレのボタンを押した。
取り出し口から取り出したひんやりとしたジュースの冷たさは、私の火照った体を冷ますのに丁度良かった。
「咲ちゃんは相変わらず可愛いね。」
わかってるよ。
イチゴオレを買うなんて、子供っぽくて可愛いらしいってことでしょ?
だけど洋平くんの口から“可愛い”なんて単語を聞くだけで、私の鼓動は異常なほどに大きな音を立てる。
「あ」
取り出し口から出てきたブラックコーヒーを手に取って、洋平くんが突然声を上げた。
「何?」
「…生温かい。」
「本当だ。これ自販機に入れたばっかだね。大当たり。」
「咲ちゃんのその笑顔。やっぱ好き。」
わかってるよ。
私自身がじゃなくて、笑顔が好きだってことでしょ?
洋平くんの優しさはみんなに平等であること。
そこが彼のいいところだと理解してきたけれど、そんなこと言われたらさすがの私も自惚れてしまいそうになる。
「洋平くんは相変わらず優しいね。」
「え?普通にしてるだけだよ?」
「優しいよ。優しすぎ。」
「そんなことないって。」
「みんなに優しい。」
「いや…」
洋平くんは少し慌てた様子で、自分の髪の毛をクシャッと撫でた。
「俺、誰にでも優しいわけじゃないよ?」
「優しいよ、洋平くんは。」
「そうだとしても、俺にとっては特別だから。」
「何が?」
「咲ちゃん。」
「私?」
「そう。咲ちゃんだけは、特別だから。」
「何で?」
「…あとは自分で考えて。」
そう言うと、洋平くんはコーヒーをズズッと飲み干した。
耳まで真っ赤な彼の隣で、私もイチゴオレをズズッと飲み干した。
もちろん私の顔も耳まで真っ赤だ。
「…洋平くん」
「何?」
「その答えだけどさ。」
「うん。」
「私、自惚れてもいいのかな。」
「…いいんじゃない?」
今日は朝からついてなかった。
いつもの交差点で信号につかまって遅刻するし、大嫌いな世界史で一番初めに当てられて大恥かくし、極め付けに大好きなフルーツオレは見事に売り切れ。
だけどそんな今日が、私たちの幸せな日々の始まりになりそうだ。