今宵このまま
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もう深夜1時を回っている時点で、嫌な予感はしていた。
彼は確実に泥酔の状態で帰ってくる。
そんな気はしていたけれど、まさか後輩に引きずられるほど飲んで帰ってくるとは。
久々の元湘北バスケ部の飲み会が、さぞかし楽しかったんだろう。
「宮城くん、いつもごめんね。」
「気にしないで下さい。これも俺の仕事なんで。」
宮城くんは自分の肩に回していた彼の腕を、私の肩へとゆっくりと静かに移動させた。
肩がドッと重くなる。
成人男性の全体重を肩に乗せられるのはけっこうしんどい。
それが180cm以上の大男なら尚更だ。
「帰り大丈夫?」
「タクシー待たせてあるんで、大丈夫っす。」
「お金…」
「ちゃんと貰ってるんで。いい話もいっぱい聞かせて貰ったし。」
「いい話?」
「三井さん、また咲さんの自慢ばっかしてましたよ。」
「ごめんね。またつき合わせて。」
「本当に気にしないでいいんで。じゃあ俺、そろそろ行きますね。」
「あ、うん。ありがとね。」
「おやすみなさい。」
「おやすみ。」
宮城くんを見送って玄関のドアを閉めると、さっきよりも更に肩に重みを感じた。
彼がいきなり私の肩に寄りかかる様に、体を引っ付けてきたからだ。
「咲~」
「…寿、重い。」
寿はそのままダラーンと手を伸ばして、私に抱きついてきた。
「咲~」
「はいはい。」
「好きだ~」
「はいはい。」
「好きだ~好きだよ~」
「はいはい。どうもありがとう。」
「俺は咲のことが好きだ~!大好きだ~!」
寿は照れることもなく、私をしっかりと抱きしめてそう叫び続ける。
呂律の回らない口調で、ニターッて可愛い笑顔で上目遣いして。
酒の力はすごい。
酔っ払うと寿はいつもこうだ。
とりあえず水の一杯でも持ってきてやろう。
そう思って寿の体を無理矢理引き離して、ソファーの上に座らせた。
私が無言でキッチンに向かおうとしたその瞬間、今度は腰の辺りに重みを感じた。
「咲どこ行くんだよ?」
「キッチン。」
「俺を1人にすんなよ。」
「水持ってくるだけだって!」
「一緒にいろよ。」
「水飲みたいでしょ!」
「咲を食べたい。」
腰に巻きついていると思っていた両腕が、いつの間にか私の背中の辺りで交差していた。
「ひさ…」
「咲…」
私が何か言おうとする前に、彼は顔をどんどん近づけてくる。
近づいてくる寿の顔は満面の笑み。
不覚にもその笑顔に見とれていると、彼はそのまま私の唇を塞いだ。
離れた唇がもう一度触れようとしたその時、寿は少し強引に私をソファーに押し倒した。
「寿。何これ。」
「言ったじゃん。咲を食べたいって。」
「欲求不満?」
「そんなに嫌?」
「酔っ払いは嫌。」
「酔ってない。」
「酒くさっ!」
「咲…好きだよ。」
「えっ…ちょっと、寿!」
私は寿の背中を何度も思い切り叩いた。
絶対に勝てるはずがないと分かっているけど、抵抗できるだけ抵抗してやった。
だけどそんな抵抗も虚しく、寿の唇が首筋へと伝う。
「咲…」
そう名前を呼ばれたのが最後。
寿の唇が、私の首筋で止まったまま動かなくなった。
「…寿?」
「…」
「寿ー。寿くーん。」
「…」
「…人の上で寝んなよ。」
寿はそのまま、深い眠りの世界へ落ちてしまった。
結局酒の力で私が振り回された形になったわけだ。
だけどこの気持ちよさそうな寝顔を見ていると、そんなことはどうでもよくなってしまう。
私は両手で寿の体を優しく包み込んだ。
彼の温かな体温と爽やかな香水の香りが心地よくて、私も自然と目を閉じた。
「おやすみ。寿。」
今宵はこのまま、彼と一緒に眠りにつこう。